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国内アニメーターの育成課題と海外個人制作の収益化方法【アニメーター検定、アニメージュ2023年07月号】

アニメージュの最新号を読みました。

BLドラマの特集やVtuberの人気投票などアニメ以外の特集も多かったですが、特集の一つに「一般社団法人日本アニメフィルム文化連盟」の設立についての記事がありました。

この記事では、団体が設立された経緯や運営方針が語られていましたが、インタビューの一部でアニメの制作現場が抱えている問題について語られています。

アニメーターと演出家の育成が急務

まず、十分な技術を持つアニメーターの不足が問題になっています。
最近は誰でも自宅で作業できる仕事ですが、家で作業する機会が多くなるとスタジオでのチェックを受けられず、情報をネットでいつでも仕入れる事が可能である一方、調べて得られた情報の精査が出来ない、といった問題があります。

新しいスタッフを育てる余裕が無いので熟練のスタッフが修正して仕上げてしまい、必要な技術を教えられていないスタッフも「このぐらいでいいのか」と思ってしまい育たないといった事例もありました。
また、昔は育成もセットの仕事でしたが、熟練のスタッフが多忙になってしまう結果、新人教育にまで手が回らないという悪循環も起きているそうです。

また、アニメーターの人材不足や育成だけの問題ではなく、インタビューの中では、演出家の育成がより急務であるという意見がありました。
実写映画の監督と副監督の関係のように、監督の元で仕事を学んでいくのが演出家です。演出はもちろんの事、クオリティ維持or向上のために、どのカットを誰に頼むといった判断まで学ぶそうです。
このようなスキルアップは、スタジオ単位での教育が必要であり、アニメーター検定のような方法で成長する事は難しいですが、作画を担当するアニメーター一人ひとりの技術向上とは異なり、作品全体のクオリティが上がるというメリットがあります。

以上がインタビューで挙げられていたアニメーション製作現場の課題ですが、自分が気になったのは、アニメーターの育成や待遇改善を掲げる団体の収益方法がクラウドファンディングとグッズ販売だった点についてです。

練習で作った物は多分売れないので、練習しつつアニメ販売は収益方法に向かないでしょう。
アニメは依然、版権物(漫画原作やリメイク)が強いイメージがあり、それらの映画化が一番儲かっているように見えます。そこで練習中の新人を使う訳にも行きません。

そもそも、最近のアニメ作品のマネタイズ方法が劇中の音楽やキャラクターを使った商品を売る事がメインになっていると思います(ぼっち・ざ・ろっく!、推しの子などのグッズ展開が参考になります)
こういったアニメも高クオリティを売りにしているので、仕事を覚えたい新人が参加するのは難しいでしょう。

結局、アマチュアに近い人達は身銭を切りつつ修行するしか無いかもしれない、と思いましたが、その一方Youtubeでは、よく海外のアニメ作品がサジェスト欄に表示される事が多く、そこまでアニメーター不足に陥っていないのか?海外にはアマチュア活動を続けられる下地があるのか?という疑問が湧きました。

そこで一応参考になるかもしれない、と思い海外で個人制作しているアニメーターの活動や海外のVFXスタジオについて調べました。

海外での個人作品マネタイズの例

SODAZさんのチャンネルでは、海外のFPS作品の二次創作アニメーションを3Dで制作しています。

この作品はSource Filmmakerで制作されています。このソフトウェアで制作された作品はs2fmと呼ばれ、Youtubeなどで検索して見る事ができます。

Patreonでのサブスクリプションと、Youtubeのメンバーシップ(サブスクリプション)とSuper Thanks(動画への投げ銭)が主な収益方法となっています。

patreonでは毎月サブスクリプションするコースを選択して支援できる
支援プランの画像がギャグマンガ日和のシールみたいになってるな

2D3D、オリジナルや二次創作などを問わず多くのアニメ制作チャンネルがYoutube上に存在しますが、基本的な収益方法はPatreonなどのサブスクリプションが多いです。
ある程度規模の大きなスタジオになると、投げ銭だけでなくオリジナルのTシャツやマグカップ等のグッズ販売も行っています。

更に、こういった個人制作者やゲームのMOD開発者が、ゲームスタジオなどにスカウトされる事が海外のゲーム会社では多いです。
例えば上記のSource FilmmakerのベースであるSource EngineはApex Legendsなどで使われているので、そのまま開発に携わる事も可能です。アニメーションや3Dの技術のを見込まれれば、将来的にゲーム会社やVFXスタジオに入る事も出来るでしょう。

この収益方法の課題点としては、制作方式が個人制作または少人数での制作に限られる事が挙げられます。これは3DモデルやBGM、乗り物や武器や建物は既存のゲームから流用している事が多いのが原因です。
3D,2D共にアニメーション作品は、全ての素材を完全に用意する事は難しく、プロにならず二次創作のみで活動しているクリエイターも少なくありません。

大々的にスタジオを運営しつつ、版権素材を使った作品でマネタイズする事は難しいため、あくまでも個人レベルの制作で、少人数分の食い扶持を稼いでいくという制作スタイルになります。

日本国内でも、MV製作などで数精鋭型のアニメーション製作が見られます。特定の個人クリエイターの特徴が色濃く出るような少数精鋭型の仕事が多いです。

もちろん作業の一部では外注を使っているかも知れません。
アニメ雑誌のインタビューにも、海外への外注が増えて国内で人が育たないといった内容があった気がします。どちらにしても少数精鋭型の仕事であるMV製作は新人育成には向かないでしょう。

海外のVFXスタジオも待遇が良くない問題

日本国内でのアニメーターの待遇改善を求める動きがある一方、海外のゲームスタジオ、VFXスタジオは日本と同じく過酷な場合も多く、一概に海外の方が労働環境が良いとは言えません。
AAAタイトルのゲームスタジオや、アメコミ作品のVFXアーティストの過酷な労働実態がよく報告されています。マーベルのような大きな案件を安く受けて実績を作る、といった理由で環境が悪化していくそうです。

上記の記事のように海外も日本と同じく、過酷な労働で作品を作ってしまっているシステムに問題があります。

まとめ

現状として、新人アニメーターの下積みや、演出家の育成が求められています。

アニメーターの薄給激務は良く知られていますが、今回インタビューを読んで分かったように演出家も不足しています。
アニメーターの練習とは異なり、演出家の下積みはスタジオで行いアニメーター以上に知識や技術が必要とされるかもしれませんが、演出家を育てる事は作品全体のクオリティを上げる事に繋がるようです。

更に海外について調べた所、海外では個人製作でのマネタイズや発信の仕方が日本に比べて開拓されている印象を受けました。
ただし、海外の大規模スタジオでは日本と同じく厳しい労働環境や安い報酬などが問題になっているので、同じような課題を抱えていると言って良いでしょう。

今回は、団体として日本アニメ全体の待遇改善や技術向上を狙う運動がある事と、個人的にクリエイターを続けるためにマネタイズを含めて活動を続ける事例について調べました。

ここまで色々と調べましたが、この手のクリエイターに必要とされているのは単純な絵の上手さではなく、「何を描けるか」の方かもしれないです。

アニメージュやニュータイプといったアニメ雑誌で「最近はメカを描ける人が少ないので困る」という現役アニメーターの話を見ました。
そういったロボットを描ける人が居なくて困っている現場に、ロボットしか描けないような人が来たら喜ばれるのと同じです。

誰でも最初は基礎が出来るようになる事を求められますが、最終的な生き方は「メカが描ける」「キャラを物凄く速く描ける」といったスペシャリストになる筈です。

基礎を蔑ろにする必要は無いですが、「最終的にどうなりたいか」やどの場面で活躍するかのビジョンは必要だと思いました。必要というよりソレ無しだと食べていけないパターンがメチャクチャに多い印象です。

このように考えた場合、じゃあロボットだけ書きまくるというのもアリなのかな?とも思います(最近は3Dの方がロボットには強いか…?)
現場で求められる技能を持っていると思う人は、どんどん情報発信を続けて、本当に上手い人やコネのある人に見つけて貰うのが大事ではないでしょうか。

追記:海外では声優よりもクリエイターが引っ張りだこになる模様

以前、「国内のアニメ雑誌を読んだら確かに声優の特集が多くクリエイターの特集は少なかった。でもSNSで個人的にアピールしているアニメーターは多いので、雑誌やイベントで取り沙汰されていないだけではないか」という趣旨の記事を書きました。

しかし、今回のアニメージュに掲載されていた谷口悟朗監督(ONE PIECE FILM REDなど)のインタビューでは「海外のイベントでは日本のように声優ではなくクリエイターが呼ばれる事が多く、監督として世界中を飛び回って忙しかった」という内容がありました。
これは、日本で作られたアニメが海外で配給される時は吹き替え版なので、日本の声優よりも監督などのクリエイターが呼ばれる、といった現象のようです。

色々調べてみると、アメリカのアニメEXPOといったイベントでアニメーターの方々が呼ばれているのが確認できます。

また、日本の視聴者は声優の他に制作スタジオも厳しく重視するといった言及もありました。
最近は声優よりも制作スタジオに反応する人も多く、例えば夏アニメ一覧、のような画像でも制作スタジオは必ず併記されている事からも、確かに的を得た指摘だと思いました。

話が逸れましたが、まぁ海外に行くのも良いのでは無いでしょうか。注目されない、待遇が悪い、といった問題は環境を変えると解決する場合が多いと思います。

感謝します