見出し画像

おいしいかぼちゃを産地リレーで届ける!“ほめられかぼちゃ”の生産振興プロジェクト

皆さんは、“ほめられかぼちゃ”をご存じですか?
全国から厳選されたホクホクな食感&濃厚な甘さが特徴のブランドで、かぼちゃ好きにはたまらないはず。そんな、ほめられかぼちゃが年間を通じて安定的に売り場に並ぶようにと始まったこのプロジェクト。
 今回は、それぞれ別の立場から生産振興に携わる4人に、本取り組みのやりがいや難しさ、今後の展望などをうかがいました。

“ほめられかぼちゃ”とは?

 青果物専門商社であるMVM商事株式会社が販売するかぼちゃのブランド名。水分含有量・糖度などを光センサーによって数値管理し、一定の基準を満たした個体だけが“ほめられかぼちゃ”として出荷されます。

ほめられかぼちゃの画像です
ほめられかぼちゃ

ほめられかぼちゃの生産振興 そのきっかけとは?

 MVM商事との取り組みがスタートしたのは2018年のこと。全農の園芸部では当時、カットフルーツを強化していきたいという想いがあり、カットフルーツの製造・販売で主力メーカーのMVM商事と業務提携をすることになりました。
 一方のMVM商事では、メイン商材の一つであるかぼちゃ、特に品質にこだわった“ほめられかぼちゃ”も強化していきたいという想いが。
同社では1月~5月は沖縄県や海外、8月~12月は北海道産かぼちゃの流通網をもっていたものの、年間を通して安定的に販売するためには、隙間となっていた6月~8月にそれ以外の地域で生産をしていく必要があります。その期間の供給ネットワークを自社だけでは組み立てられないということで、新たな産地開発に協力してほしいという話をいただいたところからスタートしたのがこの取り組み。東北での産地づくりから始まり、今は15県でリレーして栽培を行っています。

かぼちゃの産地リレーを示す日本地図
産地リレーで切れ目なく出荷が可能に!

プロジェクトの特徴

特徴①
 かぼちゃは野菜の中でも特に味が求められる商品。そのため、MVM商事さんではセンサーを導入し、食味がのっていない個体を除く仕組みを導入しています。“ほめられかぼちゃ”を名乗れるのは糖度12度以上、水分75%以下に
到達したものだけ
。その基準をクリアできる産地を作っていこうというのが、この取り組みの最大の特徴であり、目標です。食味が優れたかぼちゃは高単価で引き取ってもらえるため、生産者としてはやりがいにつながります

特徴②
 産地とは「播種前契約」を結び、種を播く(播種)前にかぼちゃの価格や栽培数量、品種(ほめられかぼちゃの場合は「くり大将」)などの条件を決めるほか、作り方についても全農側から提示したやり方で行ってもらっています。契約を結んだ圃場については、最低限の受け入れ規格はあるものの、基本的には全量買い取りをさせてもらっています。事前に単価が決まっているため、「収量×単価=収入」が見えやすいといったメリットもあります。

ほめられかぼちゃ生産振興のスキームを解説

 取引先の求める食味基準を満たし、ブランドのコンセプトに沿ったかぼちゃは、栽培方法や品種を管理してはじめて生まれるもの。つまり、“ほめられかぼちゃ”専用の畑を一から作る必要があるのです。
 では、実際の栽培提案から生産、出荷までの流れとは? 各所の役割も交えつつ解説します。

ほめられかぼちゃが生産者から取引先に届くまで

ゼロからスタートしたほめられかぼちゃの産地開発

 今年で4年目を迎えたほめられかぼちゃ生産振興の取り組み。スタートした当初は、「かぼちゃの“か”の字も分からなかった」と話すのは、営業開発部でMVM商事の窓口や産地開発を担当する加藤智揚さん。種苗メーカーに栽培講習をお願いし、かぼちゃの生産に関する知識を学びながら、産地開発に取り組んできたといいます。
 産地開発にあたっては、「生産者さんの手取り確保を大前提として、MVM商事さんにとって、将来的にどの時期を強化して、どの期間にどれぐらいの出荷量が必要なのかを叶えることが重要」と加藤さん。それに向けて、全農から産地に栽培を提案するケースと、産地から打診が来て生産できるかどうかを検討するケースがあるといいます。
 全農から産地へ打診する場合は、県本部や経済連を通じて、県内の農協や生産者を紹介してもらうのが基本的な流れ。産地とは播種前契約を結ぶことが前提のため、条件を説明して納得してもらった上で契約を結んでいます。 実際に、埼玉県本部で埼玉県内の産地の選定や栽培提案を担当している田中洋太さんは次のように話します。
「集荷にあたっては、トラックで鉄コンテナを取りに来てもらうので、たとえば1コンテナ分しか採れない面積の小さな産地が数十件になると効率が悪くなってしまいます。将来的に1か所でまとまった収量が見込める生産者さんを選ぶなど、ロットも意識しながらご提案しています」
 そうして産地を拡大していき、6月~8月の間に全国で100町(1町=約1
ha)の畑を作るという当初の目標はクリア目前
だといいます。

 ここで、今回の大きな特徴の一つである播種前契約について、「青果物で播種前から全て値段を決め、該当圃場の収穫物をある程度の単価で全て買っていただける(※ただし、規格に沿ったものに限る)ことは珍しい」と加藤さん。
 「安定した販売先を確保できるため、生産者さんにとってはメリットも大きい契約ですが、たとえば同じ1haの畑で作っても、15t採れることもあれば8tしか採れないこともあるし、場合によっては全滅してしまうこともある。また、7月の2週目に収穫できると思っていても、ずれることがほとんどです。MVM商事さんは、そのリスクも背負った上で取り組みを行ってくださっています」
 それに対し、産地側としては収穫量や出荷時期の精度を上げていくことはもちろん、栽培情報をしっかり共有していくことが大事だと加藤さんは話します。
「たとえば今年の埼玉県であれば、いつ頃からどのくらい出荷されるのかといった情報をMVM商事さん、さらにその先の取引先に対して提供できれば、安心して販売計画を立てていただけるはずです」

 とはいえ、全ての栽培情報を営業開発部で把握し管理するのは簡単ではありません。そんな時に他部門の職員から紹介され知ったのがZ-GISでした

Z-GISとは?

 もともとは産地のためのシステムではあるものの、クラウドで情報が一元管理されているため、販売先までつなげれば、リアルタイムで栽培情報を確認してもらうことができます。ただし、産地側が情報を入力しなければ始まりません。Z-GISは本来、生産者が直接入力することを想定していますが、「確実に入力するために、県本部の職員が入力しているのが現状」だと田中さん。
 そこで、スムーズに情報を入力してもらう支援をすべく、Z-GISの開発・運用に携わる耕種総合対策部もこの取り組みに関わることになったのです。

プロジェクト成功の秘訣 POINT 1

生産振興のために 全農としてできること

 Z-GISを導入したことで、MVM商事に栽培情報を共有できるようになった以外にも大きなメリットがあったと田中さんは言います。
 「実はこのリレー出荷では、早い時期に出荷すると単価が高いという販売条件があるんです。そこで生産者さんとしては早く収穫したい気持ちがあるため、逆算して苗を早く植えるんですね。ですが、まだ寒過ぎてうまく生育できなかったり、成熟する前に収穫してしまう生産者さんがいたりと、適正な播種や収穫タイミングを指導するのは難しいところがありました。Z-GISを導入したことで、あとどれくらいで収穫できるのかなど、具体的な数値データでお伝えできるようになりとても助かっています」
 特に収穫時期に関して、早めに収穫してしまうと甘さが足りず、おいしいかぼちゃにはなりません。しかし、おいしいかぼちゃを消費者の元に届け購買につなげてもらうほうが、結果的には生産者さんの収入アップにもつながるはずです。そこで、「青果物の収穫時期の目安に積算温度がある」と話すのは、耕種総合対策部の宮嵜航さん。
「かぼちゃが実をつけた日(着果日)から、1日の平均気温を足していき、その合計である積算温度が900℃を超えると、ほめられかぼちゃの品種である“くり大将”ではちょうど収穫時期の目安になります。
 Z-GISは、積算温度を自動で計算し、リアルタイムで表示する機能を備えているため、収穫時期を生産者さんにアドバイスするのにも役立てていただけると思います」

プロジェクト成功の秘訣 POINT 2

 一方、生産者たちの早く出荷したいという気持ちも切実です。収穫時期の検討を行うことも全農の役割の一つだと、園芸部の森田直彦さんは言います。
「収穫適期について、今は900℃としていますが果たしてそれがベストなのか。800℃でもいいのか、1000℃のほうがいいのか。もし800℃で収穫してもいいのなら、今よりも早い時期に収穫できるなど、生産者さんにとってのメリットも大きくなります。そこで営農・技術センターにも協力を仰ぎ、検討しているところです」
 そうした産地のサポートを行う一方で、農業は自然相手。かぼちゃのような露地栽培を行う場合、天候被害や動物による食害などのリスクはつきものです。実際に今年、埼玉県では、局所的に雹の被害を受け、かぼちゃが全滅した地域も。収穫間近での出来事だったため、生産者の皆さんの落胆は相当なもの。その時は、「かける言葉も見つからなかった」と田中さんは話します。そういった被害を受け、かぼちゃ栽培の継続をあきらめてしまう生産者もゼロではないと加藤さん。「そんな中でも、来年も再来年もと続けてもらい、今15県にまで産地が広がりました」
 とはいえ、まだ6月前半に出荷できる産地が少なく、「産地拡大に向けた試験栽培を提案しているところ」だと森田さん。思ったような結果に結び付かず、その原因を究明できないまま、栽培契約に至らないケースもあるそう。一方で、次のような学びもあったといいます。
しっかりと収量があり、“ほめられかぼちゃ”の発生率も高い生産者さんはしっかりと手間暇をかけられているのだということを、圃場を巡回してあらためて実感しています」
 そういった栽培が成功している生産者の情報を聞き取り、ほかの地域の生産者に情報発信していくことも、全農の役割。今後も続けていく必要があると、森田さんは話してくれました。

ほめられかぼちゃの生産振興 今後の展望は?

 成功事例を横展開することは、Z-GISの運用についてもいえることだと宮嵜さんは話します。「Z-GISを起点にどのように現場の生育確認を行っていけばいいのかを提案するのが私の仕事です。ですから、効果的な活用事例をほかの地域の方にも届け、全体的な底上げのサポートができたらと思っています。そもそもZ-GISを園芸作物に活用したこと自体が新しい取り組みなので、これは一つの事例として情報を残しておいて、ほかにも活用できるシーンが無いかを検討していきたいですね」
 ちなみに埼玉県本部はZ-GISの活用が特に進んでいる県本部なのだそう。
何の情報もなく圃場を巡回して生育の遅れなどに気づくよりも、Z-GISの情報を見て、データと実際にずれが無いのかを確認するために巡回するほうがスムーズだと思うんです。情報を入力することは、産地と販売先をつなぐ私たちの役割でもあるので、私個人としては、今年以上に来年はZ-GISの活用支援に注力しつつ、他県の県本部の皆さんにもデータ入力の必要性をもっと訴求していきたいですね」
 最後に、今回の取り組みを通して、かぼちゃ栽培の大変さをあらためて実感したと4人は口を揃えます。逆に、いい結果が出て、生産者から「本当によかった」という声をもらえることは大きな励みになると加藤さん。今後の展望については、次のように話してくれました。
6月~8月の産地リレーをつなげられるようになったとはいえ、まだまだ4年目。今後10年、20年という長いスパンで継続的に続けていけるような体制を作っていかなければなりません。そのためにまずは産地づくり。その後はよりスムーズな物流機能を検討する必要がありますし、最終的には販路の部分も考えていく必要もあります。そして結果として生産者さんの収入アップにつながり、長く続けたいと思っていただく。加えて、MVM商事さんにも長く続けていきたいと思っていただけるような仕組みを引き続き考えていきたいです」

プロジェクト成功の秘訣 POINT 3


生産者さんの声をご紹介

F2ファームファーマーズ株式会社 今井政人さん

 もともとは冬場にキャベツの生産をメインに行っていましたが、その裏作として夏場に何か作れないかと全農さんに相談し、提案していただいたのがきっかけでかぼちゃの栽培をスタートしました。一昨年、昨年と病気や天候の被害もあり苦労しましたが、今年3年目にして、ようやく手応えを感じ始めているところです。
 かぼちゃの生産では、植える時期を検討するのが非常に難しいのですが、全農さんや種苗会社さんが圃場に来て、いろいろなアドバイスをしてくれるので非常にありがたいです。今はまだもっている畑の5分の1程度でしかほめられかぼちゃを栽培していないので、今後はもっと生産量を増やしていきたいですね。

全農グループ広報誌「Minorinote」

https://www.zennoh.or.jp/publish/publication/minorinote/


この記事が参加している募集

オープン社内報