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140字小説 2月お題「分」

ほしおさなえさん主催「星々」への参加作です。


No.1
繁華街の煉瓦塀に寄り掛かっている男を見た瞬間、私は一目で彼が人ではない者だと分かった。街行く人は気づいていないのか、誰も彼に気を留めない。私が見ていることに気づいた彼が笑顔でこちらに向かってくる。「騙されないぞ、私には分かってる!」そう叫んで目が覚めた。いつもの悪夢だった。

No.2
大通りを脇に入った先に雪野原が広がっていて、満月の今夜は野原全体が白く光っています。そこに大きな足跡が1つ、点々とついていました。足跡を辿っていくと途中で2つに分かれています。小さな足跡の先にはお家があり、楽しそうに笑う家族の姿がみえます。大きな足跡の先は暗い森に続いていました。

No.3
7:56分発上り電車。発車から18秒後、ビルの間に一瞬だけ富士が見えた。母はそれをご褒美富士山と呼んだ。ご褒美なら現金がいいと言うと、「そーんなもんよ」と独特の節回しで返した。楽ではなかった母の人生のご褒美が、誰にでも見れるものなのが悔しかった。富士は母が煙になった日も見えた。

#2月の星々
#140字小説

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