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本当にあったマッチングアプリの怖い話③新宿三丁目駅の攻防-後編-

前回までのあらすじ:
時は2018年頃。
当時28歳の僕は、出会いを求めマッチングアプリに勤しんでいた。
しかしながら、ある日とんでもない写真詐欺を食らいプロフィール写真の1.8倍はありそうなA子さんと夕食を食べることになってしまう。
穏便に終わらせようと早めに食事を切り上げ、帰路に着こうとするが…

「今日は楽しかったです!ありがとうございました」

無邪気に笑うA子さんだけど、多分心の中は邪気だらけなんだろうな。
最早、僕は彼女のことをそういう目でしか見れなくなっていた。

「良かったです」

こちらもです、とは嘘でも言えなかった。
写真詐欺の件もあったけど、何か会話の内容に下ネタも多いしおまけにめちゃくちゃ食うし。
まあでも、何とか終わったから。
このまま大人の対応を続けて、今日という日を終わらせれば良いよね。

「副都心線で帰りますよね?
 改札まで送りますよ」

紳士感をアピールしつつ確実に帰らせることを狙った僕は、彼女にそう伝えた。しかし。

「え!もう帰るんですか?」

はい?
逆に、帰らない気ですか?

「ちょっと、明日早くて」

もちろん予定は何もないんだけど、嘘も方便だ。
そう言いながら、新宿東南口から地下通路に入った。
地上を歩くと、居酒屋に寄りたがる可能性がある。
新宿の立地を知り尽くしていて良かった。

「えー!まだ早いですよ」

確かに、まだ21時だからね。
とはいえ、こっちの気持ちはとっくに25時くらいだったので。
有無を言わさず、そのまま副都心線の改札口に向かった。

ようやく改札までたどり着く。
改札がオアシスに見えたのは人生初だった。

「じゃあ、気をつけて帰ってください」

僕がサッと身を引こうとすると、A子さんが僕の右手をガっとロックした。

「帰りたくないです!」

恥ずかしながら、人生で初めてこんなこと言われたんですが。
まさか、人生初の女子からの「帰りたくないです」がこんなに嬉しくないとは思わなかった。

「いや、帰りましょう。
 もう改札目の前ですし」

「イヤです!」

凄い力で僕の右手を絡めとるA子さん。
誇張抜きで右手がぶっ壊れそうだ。

「ほら、わがまま言わないでください」

改札にA子さんを押し込もうとする僕。
酔いつぶれた先輩をタクシーに押し込んだ時を思い出した。

「帰らない!」

もう右手を絡めとるというかほぼ僕にタックルをかましているみたいになってるA子さん。なんじゃこの状況。
改札に押し込もうとする男VS絶対に帰ろうとしない女。普通逆だろ。

揉めているうちに、通行人の視線を感じるようになってきた。
せめて、痴情のもつれによる喧嘩だと思われていてほしい。
猛獣使いと反乱を起こした猛獣とか、ラグビーの練習と思われていたら僕はもう新宿を歩けなくなる。

なんとかA子さんを改札の中に押し込んだ。
すると、彼女は驚愕の一言を呟いた。

「また、会ってくれますか?」

場面が場面なら超ロマンチックなんでしょうけどね。その時の僕には呪詛の言葉にしか聞こえなくて。

「ちょっとしんどいかもしれないです」

そう言って、僕は踵を返した。
普段なら「良いですね!」とか「機会があれば」とか言うんだけど。試合後で疲れていたので。

A子さんが改札の向こうで何か言っている気もしたけど、自分に幻聴だと言い聞かせて振り向かなかった。

新宿は怖い街です。

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