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2023/07/10 「『sumika』~10th Anniversary THE MOVIE~」

 映画館なんていつ以来だろうか。ほとんど映画なんて見てこなかった人生だったけど、いつからか映画館という空間には何となく憧れを募らせいました。そんな中でアナウンスされたsumikaのドキュメンタリーフィルム。きっと、この日の為に生きていたんだろうなって気がしています。

 上映は名古屋駅近くのミッドランドスクエアシネマにて19時から。月曜18時、授業が終わったらすぐに地下鉄に乗り込んで名古屋駅に向かう予定だったのに、そんな日に限って授業が延長して、最短で行っても間に合うかどうか分からないような時間になって。名古屋で生活を始めて約3ヶ月、まだ名古屋駅周辺の動線にも慣れていないから不安で仕方がなかったけど、とりあえずSpotifyで sumikaのプレイリストをシャッフルしながら地下鉄に揺られていました。名古屋駅に降り立って、間に合わない気がして焦りながらも会場に向かう経路を探している時に、イヤホンからはちょうど「Simple」が流れてきて。慣れない街の地下鉄の駅で奔走してる感じは何となくあのMVっぽくて嬉しくなりました。どうにか定刻より少し早く辿り着いたその映画館は地元では見たことがないくらい大きな駅前ビルの5階にあって、ガラス張りのエレベーターの中で、自分は名古屋という街で生活しているんだって実感が何故か急に湧き始めていました。

 ホールに入るや否や、座席を見つけるより先にオープニングが流れ始めました。よかった、どうにか間に合った。黒一色のスクリーンにメンバーの名前が一人ずつ映し出され、声が聞こえてくる。Dr.荒井智之、Key.小川貴之、Vo.片岡健太、そしてGt.黒田隼之介 ——— それぞれの口から語られるsumikaへの想い。sumikaを守り抜く決意。そして、2022年に実施された全国ツアー「Ten to Ten」の一曲目としてsumika10周年イヤーの幕開けを象徴した「New World」のライブ映像によってこの映画は始まりました。アルバム「For.」の一曲目に収録されたこの曲。メンバーそれぞれが長く苦節を味わってきたバンドだからこそ、彼らはsumikaとしての最初の楽曲となった「雨天決行」に始まり、「ふっかつのじゅもん」「ファンファーレ」「10時の方角」「祝祭」と、それぞれのフェーズで、何があってもsumikaとして戦い抜く覚悟を歌にしてきました。"安定くだらねえ 停滞なら衰退です"と歌う「New World」も、今のsumikaだからこそ歌うことができる楽曲。老若男女に愛される国民的バンドとしての地位を確立しつつある現在でも、彼らは留まることを知らず、sumikaとして進み続ける足を止めない覚悟を私たち住人に常に見せてくれます。

 場面は変わって映し出されるのはスタジオライブ。スタジオ内には片岡さん、荒井さん、おがりん、そしてサポートメンバーの方々。でも、隼ちゃん(黒田さん)の姿は見当たらない。この映画の公開が発表されたのは2月19日、黒田さんがこの世を去る6日前のこと。その時点では映画は一旦完成していたはず。実際、インタビューの映像等は黒田さんの分もちゃんと用意されていました。それでも、この映画は今の"sumika"を映し出すことに意味がある。だから、今のsumikaで、また1からライブを作り上げることにしたのでしょう。1曲目に披露されたのは「Lovers」。いつもより少しテンポを落とした「Lovers」は、アルバム「Amusic」の特典Blu-rayに収録されたCamp sessionによるアレンジに近いような気がしました。この曲は、sumikaが特に大切にしている楽曲の一つだと思っています。この曲は単なる恋愛ソングとしての意味に終始せず、"ずっとずっと離れぬように" "愛し抜いて行きたいと思うのです"と言ったフレーズはsumikaからリスナーに向けた愛の誓いでもあり、そういう意味でも、sumikaというバンドの軌跡を辿る上で外せない一曲でしょう。

 演奏を終えると場面が切り替わり、4人のメンバーそれぞれへのインタビュー映像に。一人一人に縁がある場所で、それぞれの視点から見たsumika、そして一人一人がsumikaに懸ける想いを余す事なく語ってくれています。自身のバンドであるbanbiのメンバーが相次いで脱退し露頭に迷っていた片岡の元に、それぞれのバンドの解散により同じように居場所を失っていた荒井と黒田が集い、3人はsumikaとしての再スタートを切った。後に、同じく自身のバンドが解散しsumikaのサポートメンバーを務めていた小川が正規メンバーとして加入し、今の"sumika"と言う形が完成した。sumikaという一つの旗の下に集った年齢も背景もバラバラな四人は誰一人として順風満帆ではなく、寧ろ逆風に煽られながら、それでも必死に前に進もうと一歩ずつ踏み締めて歩いてきた人間でした。長く苦節を味わってきた四人だからこそ、sumikaの始動にあたり、周囲からは"まだバンドを続けるの?"という視線を向けられることもあったそうです。それでも彼らは「雨天決行」で"やめないんだよ、まだ足が進みたがってる"と歌う。sumikaというバンドのスタートは、誰に何を言われようと歩みを止めないという決意とともにありました。

 再びスタジオに戻り、片岡さんの"ゲストメンバーのみんな、今日も楽しくやりましょう。"の声で始まる「ソーダ」。夏の終わりみたいな弾けるような疾走感。でも描いているのは喪失で、本当に泡が弾けて消えるみたいに儚い曲ですよね。未だsumikaのライブを生で見ることができていない僕ですが、「For.」の特典で見た「縁会」のライブ映像で、おがりんがボーカルを務める「ソーダ」は大好きで何回も見てしまっています。そしてまたインタビューに。今度は一人一人のメンバーにスポットを当てて、sumikaの過去と現在を掘り下げていました。それぞれの視点から語られる、音楽活動の原点、sumika以前の過去、メンバーとの出会い、今のsumikaへの想い。初めてのZepp公演の後、誰もいないフロアで荒井と小川が初めての乾杯を交わしたこと。黒田が小川に宛てて全文「ござる」口調の手紙を書いてsumikaへの加入を懇願したこと。片岡と小川が初めて共演した弾き語りライブで、小川がカバー曲を4回失敗したこと。黒田が小川を家まで車で送り届ける時に、初めて「明日晴れるさ」のデモを聴かせたこと。sumikaの外からsumikaを見てきた人間たちの声 ——— ミュージックバーのオーナー、幼馴染の元バンドメンバー、ライブハウスの元ブッキング、音楽プロデューサー ——— 4人の"sumika以前"を知る人間によって語られる彼らのルーツ。そして時を経て"sumika"となった彼らとの再会。語られる全てが、今のsumikaを作り上げる大切な要素として根差しています。何か一つでもズレていたら、何か一つでも足りていなかったら、今のsumikaは存在していないのかもしれないね。

 おがりん加入から四ヶ月、ようやくsumikaの活動が軌道に乗り始めた頃、片岡さんの声が出なくなります。バンドは再び、足を止めることを余儀無くされるも、それでも住人たちの為に歌い続けなければいけないという使命感に駆られた彼らは、加入して間も無い小川を臨時ボーカルに据えてツアーを敢行。片岡さんを中心に4人で作り上げた、メンバーと住人たちにとって大切なsumikaと言う居場所をどうにか守り抜きました。片岡さんは体調を回復し、4人で切り開く"sumika 第二章"の幕開け。彼が復活ライブのステージから見たものは、光の射す方を信じてsumikaの完全復活を待ち望んでいた住人たちの姿でした。スクリーンで流れていた当時の「リグレット」のライブ映像は、"君の音を聴かせてよ"が片岡さんの想いと観客の想いが重なっているみたいで、当時のsumikaを知らない僕にとっても充分すぎるほど感動的でした。

 続いてスタジオライブで演奏されたのは「ここから見える景色」。あらゆる人にとっての"住処"のような存在でありたいと願うsumikaだからこそ描くことができる、暖かくて優しい一曲です。リスナーに対して"家族だと思って欲しい"と語る片岡さんだから、「オレンジ」や「春風」、そしてこの「ここから見える景色」では、家族の形だったり立場だったりを超越した、もっと誰にとっても普遍的な居場所として"家族"を描くのでしょう。

 次に片岡さんの口から語られたのは、活動休止中や復活ライブの時の心境と、黒田さんがsumikaとして初めて書き下ろした「明日晴れるさ」について。片岡さんの活動休止中に、足を止めるわけにはいかないと思った黒田さんが、片岡さんの復帰に備えて書いたこの曲。復活ライブの後、初めてこの曲を聴いた片岡さんは、居酒屋で黒田さんと二人で涙を流したそう。そして片岡さんは、自身の音楽への向き合い方についても語っていました。"1対1でやらないと嘘になる"。sumikaのレーベルメイトでもあるSUPER BEAVERのvo.渋谷龍太が、"あなたたち"ではなく"あなた"と向き合っていると言っていたのを聞いたことがありますが、その姿勢はsumikaだって同じです。sumikaは、一人一人の住人に寄り添って、一人一人にとっての居場所である為に歌っています。

 さっきまでより少し薄暗くて照明の光が溢れるスタジオでは「Summer Vacation」が演奏されました。定期的に魅せてくる洒脱で気怠さを纏った、いつもとは違うsumikaの姿。sumikaって本当に曲の振れ幅がバグっていて、今日がどんな日で、どんな景色か見えていて、どんな精神状態だったとしても、今の自分に刺さる曲がsumikaには絶対にある。それがまたsumikaの魅力です。僕は夜遅くに人通りの少ない道を「Summer Vacation」「Traveling」「ナイトウォーカー」「No.5」あたりを聴きながら歩くのが好きです。

 「Amusic」リリース直後、コロナ禍に突入し、sumikaのライブも止まってしまった。でも、sumikaが止まってしまったわけではない。コンスタントにリリースを続けた彼らは4thアルバム「For.」を引っ提げ、ツアー「Ten to Ten」で住人たちが待つステージに帰ってきました。僕自身はこのツアーに参戦できなかったけど、先日発売された「Starting Over」の特典のライブ映像を発売日にタワレコで購入してから何回も見ています。何度も失って、立ち止まってきたsumikaが、それでも手離したくなくて決死の覚悟で守り抜いてきたもの。その一つ一つが漸く形となって住人たちと分かち合えたのがこのツアーであり、最後に披露された「「伝言歌」」は、ライブが出来ない日々を越えた先でsumikaと住人が"取り戻した歌"でした。

 10周年を迎えるにあたり、この映画の公開や横浜スタジアムでのアニバーサリーライブが発表された頃、sumikaはこれまでにない喪失を経験しました。Gt.黒田隼之介の逝去。sumikaキャプテンの荒井は"sumikaという物語にハッピーエンドは訪れないんだなって思っていた"と語ります。再び止まってしまった時間、住人たちの悲しみ以上に、一緒に戦ってきたメンバーやスタッフの悲しみの方がずっと強かったはず。でも、片岡さんは"sumikaという物語をハッピーエンドにしてみせる"と宣言し、彼らはまた立ち上がりました。全てはsumikaと住人の居場所を守る為。今までに掴み取ったもの、拾い上げてきたもの、守り抜いたもの——— ここで手離すことなんてできなかった。場面はスタジオに移り、黒田さんが手掛けた「明日晴れるさ」を披露。今、3人が鳴らすこの曲は、sumikaという物語が迎える明日を、微かでも確かに明るく照らしているようでした。

 そして迎えたアニバーサリーライブ「Ten to Ten to 10」。"sumika"全員で掴み取った、横浜スタジアムという未だかつて味わったことのないほど大きな会場での、一番大切なライブ。片岡きんが黒田さんのギターを拾い上げてギターソロを掻き鳴らした「ふっかつのじゅもん」は、黒田さんの夢、sumika全員の夢が叶った瞬間みたいに映りました。このステージに立つことができなかった黒田さんの想いを背負う3人による全40曲。その全てがsumikaそのものであり、sumikaの全てを受け止める為にあの場所に集う住人一人一人に紛れもなくその全てをぶつけていました。終盤、sumikaの新たなスタートを強く印象付けた新曲「Starting Over」とともに夜空に乱れ咲いた花火は、sumikaの過去と現在、そして未来に対する祝福でした。

 スタジオライブで最後に披露されたのは「雨天決行」。sumikaの始まりの歌です。苦汁も辛酸も全て味わって、幾度と無く苦難逆境を越えて今のsumikaが立っている。彼らが守り続けてきた"やめない"という覚悟が、sumikaというバンドを常に突き動かしてきた。このライブが「雨天決行」で締められるということは、きっとこの先も間違いなくsumikaは続いていく。ずっと僕らの居場所でいてくれる。そう確信しました。

 エンドロールでは「Shake&Shake」が流れて、しかもスペシャルサンクスの最後には"sumikaと出会ってくれた全ての方々"の言葉が。sumikaよりもリスナーを大事にするバンドはそういないんじゃないかなと思っています。リスナーにとっての家族のような存在を目指すsumikaだからこそ、それと同じように、きっと多くのリスナーがsumikaに対して家族のような安心感を覚えていて、心の拠り所にしている。他の何にも代わりが効かない、唯一無二の居場所となっているはずです。自分が人生で誇れるものなんて何も無いけど、sumikaに出会えたこと、sumikaという物語の一員でいること、それだけは自信を持って誇っていい、逆にそれだけは何があっても手離してはいかない、そんなことを思う夜でした。

【セトリ(スタジオライブ)】
1.Lovers
2.ソーダ
3.ここから見える景色
4.Summer Vacation
5.明日晴れるさ
6.雨天決行

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