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ある密かな恋

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僕の小中学校のときの、ある密かな片思いを綴ってみました。 今まで誰にも語ってこなかったこと。
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ある密かな恋⑧

ある密かな恋⑧

(↑前編 ある密かな恋⑦はこちら)
マナは強気でボーイッシュなところがあった。
そこは好きなポイントの一つだったのだが、屈託のない笑顔や、ほどけた髪が好きだった。
特にいつもポニーテールやツインテールなどで、髪を束ねていたことが多かったから、髪を下ろしたマナの姿と出会えた時は、何か心が踊るというか、特別なものを見ることができた気分になった。

どういう流れだったのか詳しいことは忘れたが、マナと仲の

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ある密かな恋⑦

ある密かな恋⑦

(↑前編 ある密かな恋⑥はこちら↑)

マナについて印象的な思い出の1つに、6年生のときのある日の給食があった。
そこからマナに対して僕は本氣で惚れたのかもしれない。
確か5月頃だったように思う。
僕とマナは同じ班になった。確か席も隣か前後だったと思う。
マナと間近に居た日々。不思議と記憶が薄い。
もしかすると刺激が強すぎたのかもしれない。
6年と書いたがもしかすると、5年のときだったのかもしれな

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ある密かな恋⑥

ある密かな恋⑥

(↑前編 ある密かな恋⑤はこちら)

マナに関して現存する写真は、学校配布のドットの粗い卒業アルバム。
カメラ屋が撮った若干ピンぼけたもの。
親の撮った焦点のあってないもの。

一歩踏み出して、どうしてマナと一緒に写真を撮らなかったのか。残しておかなかったのか。いまになってもそんなことを感じさえするのだ。

勇氣というのは一体何か。
武道を学んで久しいが、実はどんぴしゃに好きな人に何ができるのか。

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ある密かな恋⑤

ある密かな恋⑤

↑前編(ある密かな恋④)はこちら↑

団地のエレベータ

マナと僕は同じ公営団地に住んでいた。

公営団地が並んだ下町に住んでいたが、住んでいる棟も同じ。
比較的高層の公営団地で、エレベータがあった。
だからマナと下校時などにエレベータで一緒に乗り合わすことがあった。僕が7階。マナが8階だ。

かけひき

小学校からの帰り道。マナが先に下校していて、僕の前に居たら気づかぬように歩みを早める。

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ある密かな恋④

ある密かな恋④

↑前編(ある密かな恋③はこちら)↑ 

彼女のことを異性として意識したのは、5年生のときだったと思う。
同じ団地に住んでいた彼女。
僕が階上へのエレベータを待っていた夏休みのある日の昼下がり。
エレベータから彼女が出てきた。
おろされたツヤのある黒い髪。サイドに光る金色のピン。横顔。サラッと吹き抜ける香り。後姿。
全てがスローモーションになって…目を奪われた。
普段あまりしない髪を下ろすスタイルと

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ある密かな恋③

ある密かな恋③

↑前編(ある密かな恋②)はこちら↑

運動会の組体操の練習。9月の暑い日。
色濃く、その頃の土埃、汗の匂い、感情を伴って色濃く思い出される。
彼女はロングヘアスタイルだったが、普段は髪の毛を束ねていることが多かった。

普段髪の毛をおろすことが少なかった分なのか、彼女が髪の毛をおろすとがらっと女性っぽくなり、鼓動が聞こえるくらいに胸が鳴った。

9月のその運動会の練習の日。彼女は珍しく髪を下ろして

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ある密かな恋②

ある密かな恋②

↑前編(ある密かな恋①)はこちら↑

近いのに限りなく遠く思え
触れたり、長時間話すことさえ叶うことはなかった。
一言あいさつを交わすだけで、すべての世界の幸せを手にしているように思えた。
その時間があっという間に過ぎたあとも、からだ全体がぽかぽかしている感覚になった。

何かに熱くなるとか、熱中するとかいうけれど、あのときの感覚を再現できるのであれば、何を引き換えにしてもいいとさえ思える。

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ある密かな恋①

ある密かな恋①

サラリと風になびく髪、髪をかきあげる仕草、結わえる仕草、後ろ姿。
すべてが印象的で、自分の瞳にずっと閉じ込めていたい気持ちに駆られてしまった。
そこに居る他の男子が邪魔に思えた。
笑いかけている人がうらやましくてたまらなかった。
自分はそれをブラウン管に映るもののように感じ、まるで清純で触れてはいけないもののように思っていた。
触れればチョウチョの羽根のように繊細でつぶれてしまいそうな。
そんな気

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