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「灰色の日常生活」(Быт)

昨晩で3月から行き始めた10回のロシア語会話コースが終了した。次回のコースは9月初旬スタートなのだが、これには残念ながら参加できそうにもない。一時帰国のスケジュールとほぼ重なっているためだ。もしコースが続行するのであれば来年に持ち越してでも参加したい。そのくらい今回の先生がよかったのだ。とにかく話が面白かった。

先生はロシア語話者であるが、出身はウクライナである。ペレストロイカ直後の1991年にベルリンに来たそうなので在独歴も私と数年しか変わらない。同じ外国人としてベルリンに住んでいる手前、他のドイツ人のクラスメートとはまた違う意味で意見が合うのだから面白いものだ。

このご時世にわざわざロシア語の会話コースに来る人というのは過去にロシア語学習歴があり、ロシアに滞在経験のあるロシアに思い入れのある派(今回は私とアメリカ人受講生がこれに当たった)かパートナーがロシア人という人くらいである。クラスのメンバーは5人から6人という少人数なので発言する機会はたくさん得られた。

先生は週末に何をしたか、という質問から授業に入るわけだがさすがに10回目ともなるとネタ切れが起こってくる。ネタ切れというより最近はアクティブに過ごすというよりは自分のためにジムに通ったり、ゼルダをして静かな週末を過ごすことが増えているので話すことがないだけである。

仕方がないので正直に「うーん。最近、週末といっても特に変わったことをするわけでもなく、習慣になっているジムに行ったり、近所を散歩したり、息子とランチに行ってゲームをするくらいなので特に話すことがありません」と言ってみた。すると先生は「私も特に人に会ったりもしないので似たようなものですね。ルーティーンと化した日常のことを『быт』と表現したりもするんです。ちょっとスラングだけど」仮に生徒がつまらないことを言ったとしても、そこから話を膨らませてロシア語の語彙を増やしてくれるのだから大したものである。

Бытという言葉はそうですね、ドイツ語だとDer grauer Alltagくらいのニュアンスかな。

先生はそう言って私の発言をこうまとめにかかった:「marikoは最近どうもいい気分ではなく、どちらかといえばちょっと鬱気味なのかもしれない。だから週末にも特に何か変わったことをするというのではなく「いつものように」過ごした。つまらない週末だった、ということですね。はい、質問のある人はいる?」

これではさすがに質問のしようがない。それにそこまで鬱々と過ごしたわけでもない。これはもちろん先生が大袈裟に表現しているだけである。だから苦笑いをしながらこう付け加えた。

「つまらないとはいえ、息子と近所を散歩がてらランチに行き、帰りにアイスも食べてきました」と言ってみたところ、先生が「なんのアイスを食べたんですか?」って質問してみて、と別の受講者に振ったのである。まぁそうなるよね。それを受けて「その日は何を食べたんですか?朝から晩まで?」と言った人がいた。何を食べたか、という質問はそのくらいマルチというか当たり障りがないのである。

実はアイスは食べていないんだけれど、抹茶アイスを食べたことにしたら、なぜかみんな「抹茶アイスおいしいよねー」と喜んでいた。平和で雰囲気のよいクラスなのである。続いて朝食の内容を事細かに説明したら、ランチ以降はカットされてしまった。ひとりで延々と話すわけにもいかない。

受講者のうちのひとりは南アフリカに出張に行った話をしていて、エキサイティングな話題だったのだが、どうやら彼は連邦経済省で働いているらしい。どこまでもエキサイティング。灰色の日常生活を送っているようには到底思えない。ロシア人女性(あるいはロシア語話者)と結婚しているんだそうだ。彼の話にはいつもたくさんの友人や親戚、そしてパートナーが出てくるという、いわゆる陽キャである。

それはさておき。市民大学(VHS)のコースを調べていたら週2で同じ先生がB1の文法の授業をやることが判明した。ここは先生の教え方が気になるし思い切って受講してみようかな。週2でロシア語の文法とは私も懲りないなとつくづく思う。灰色の日常に彩を!しかもコース開始が11月だった。まさに灰色。


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