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菓子パン愛を語らせて

三毛田さんの記事を読んで、無性に菓子パンが食べたくなってしまった。

アイキャッチのクリームパンに思い切り影響を受けて、特にクリームパンが食べたい気がしている。それも今流行りの、クリームがこれでもかと入っているような高級なやつじゃなくて、ちょっと固めでのぺっとした質感の(あれはゼラチンが入っているのかしら)、バニラとミルクの香りが不自然につよい、あかるい卵色のカスタードクリームが入ったやつ。

もしくはジャムぱんもいいな。同じくゼラチンくさくて不必要に甘いいちごジャムが、申し訳程度に入ったやつがいい。もし甘さ控えめ・果肉ごろごろのジャムがたっぷり入ったジャムぱんが目の前に出てきたら、とっても美味しいのだろうけれど、どこかでがっかりする気がする。

ああ、いとしの菓子パン。長じるにしたがって糖質やら脂質やらの概念に支配されなんとなく手を出しづらくなってしまった、背徳の食べ物よ。
菓子パン、我が命の光、我が腹の炎。我が罪、我が魂。

クリームパンとかジャムぱんとか、それからあんぱんとか――ああいう甘いフィリングが入った昔ながらの菓子パンの、表面の部分が好きだ。焼き色が濃くてぴかぴか光って、指で撫でるとすべすべしていて。
食パンやバゲットの表面は中の柔らかい部分がちょっと香ばしくなったような質感なのに、ああいう菓子パンやロールパンの表面はなんだか中身とはぜんぜん別物に思えるのが不思議。「パンの皮のところ」と呼びたくなるような、やわらかいのにちょっと頑なな感じがする。

そういえばちいさいころ、そこをそうっとはがして食べるのが好きだった。上手にはがれて、大きなひとかけらが手に入ったときはうれしかった。お行儀が悪いといつも叱られたけれど。
例えば給食で出るようなコッペパンやロールパンなんかはいまでも、あの皮のところがいちばんおいしい部位だと信じている。

それから、その皮の下のパン本体というか、白くてふわふわのところ。
コンビニやスーパーで売っているようなパンにも、最近はベーカリー顔負けのリッチな食感のものが増えたと思う。あれももちろんおいしいけれど、でも実は、昔からある安価な菓子パンの、ちょっとぼそぼそした感じの生地がけっこう好きだ。というか、コンビニやスーパーで菓子パンを買うとき、私は大抵あのぼそぼそした生地を求めている。バターじゃなくてマーガリンが使われていそうな風味や、ごくごく微かな卵の気配も。

ぼそぼそしたパンが好き、という話を始めたら急に、スティックパンのことを思い出した。ほらあの、20センチほどの細長いパンがたくさん袋に入って売られている、チョコチップが入ってたり入ってなかったりする、あれだ。
できればこの先どれだけ技術が進歩しても、あのパンは決してふわふわしっとりなんかにならず、ずっとぼそぼそしていてほしい。かじったときのもすもすした食感、生地がみるみる口の中の水分を奪って膨張し、口の中を甘いパンが占拠していくありさま、舌先に触れるざらざらした感触、唯一無二だと思う。

列挙してみてわかった。結局私が菓子パンという響きに求めているものは、言うなれば安っぽさや少しのまがい物感なのだ。
もっといえばそれらが想起させる郷愁、許され与えられていた子供時代を。なんちゃら酵母のハードブレッドもフレッシュフルーツを使ったペストリーも湯種のベーグルも知らず、ぺかぺかしたビニル袋入りのクリームパンにかじりついていたあの頃を。

今朝、我慢できずにコンビニへクリームパンを買いに行った。
口唇に伝わるもふ、という感触と、鼻に抜けるバニラの香りが揺りかごのように私をあやす、薄曇りの朝である。



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