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生ハムとワインさえあれば ボローニャ&パルマ

 好きなテレビ番組のひとつに『世界ふれあい街歩き』というNHK  BSの番組がある。
 旅人の目線で海外のいろいろな街をそぞろ歩きながら、通りがかりのお店や、出会った人とふれ合い、会話していく様子が楽しい。
 どこに行って、誰と出会うかは、事前に現地のスタッフが丁寧に取材して構成しているのだとは思うが、旅人が姿を見せず、旅人の視点の映像が街を歩いていくというアイデアがいい。
 録画していた「イタリア エミリア街道 ボローニャ&パルマ」の回を夢中になって観た。ボローニャには若い頃に一度行ったことがあるが、学生が多いなという印象以外に、あまり覚えていない。大学がある街には書店があって、歴史のある街だから古書を修理する製本のプロが店を出していたりする。製本には昔から興味があって、一度、体験してみたい、習ってみたいと思っているが、日本でもそういうところはあるのだろうか。
 そしてパルマ。生ハム、パルミジャーノ・レッジャーノ。現地の人が生ハムとパンとワインで食事をとる映像に、この三つがあればもう何にもいらないなぁとあらためて思う。
 そしてヴェルディだ。街のあちこちに、ヴェルディのポスターや銅像があって、市民に愛されていることがわかる。秋のヴェルディ・フェスティバルには世界中から彼のオペラを聴きにファンが訪れるという。
 マリア・ルイーザが建てさせたレージョ劇場の外観は、一瞬、ミラノのスカラ座と間違えそうになるほど雰囲気が似ている。その中は絢爛豪華だ。芸術を庶民にも広げようとしたルイーザが、桟敷席を市民にも開放し、耳の肥えた市民は、歌手が間違えたり音を外すと、容赦なくトマトを投げつけたという話は面白い。こんな美しい歌劇場でヴェルディ三昧の日々を過ごしてみたいものである。
 番組の中で、一番印象に残ったのは、パルマの街の西側の、小さな市場で小さな露店を出していた果物農家の主人の言葉だった。
「私は恵まれているね。多くの人に支えられている。私が生産して彼らが消費する。一緒に同じものを見ながら会話することでよりよい物が作れるからね」(字幕より)
 高齢の彼がにこやかな笑顔を見せてこう語ると、なんだか忘れそうになっていた大事なことを思い出させてもらったように思えた。一緒に同じものを見ながら会話する。本当の意味で人と人とがわかりあう、関係を築くというのは、そういうことから始まるのだということを、デジタル技術全盛のいま、ついつい忘れてしまう日々である。
 彼に限らず、ボローニャの人も、パルマの人も、誇り高く、人に優しく、自分の街と、仕事にプライドを持っている。そんな人が多く登場するいい番組だった。
 やっぱりイタリア語かな。今度こそ、本気で勉強してみようか。これが私の「今年学びたいこと」である。 

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