見出し画像

【詩】灯火と太陽

洞窟の奥深くで、彼らは暮らしていた
みな、枷を填められ鎖で繋がれていたが
枷は体の一部のようであり、鎖は長さがあったので
彼らは、自分たちが自由の身であると信じ込んでいた

はるか後方の灯火に照らされて
人々の背後を流れてゆくものどもの影が
洞窟の壁面に映し出される
ときに揺らめく影たちは
彼らの目にはどれも美しかった
花も鳥も馬も、彼らの目には影でなく
花や鳥や馬そのものであった

ある日、ひとりの若者の枷と鎖が偶然解かれ
若者は、洞窟の長い通路を出口に向かって歩いていった

若者の目の前に、影でない外界が出現した
強烈にまばゆい太陽の光に照らされた世界は
悲しみと苦しみと憎しみに満ち
決して、美しくはなかった

子らは自分の意志でなく生まれさせられ
生きれば痛みと愚弄は避け難く
老いれば老いるほどに、生きることも死ぬこともままならない
それが、影でない世界の姿であった

若者は、太陽に目を焼かれたほうが幸福であったろうか
それでもなお、太陽の光に目を慣れさせて
影でない世界を見つめ
影でない世界の悲惨を見尽くすべきであったろうか
 



本作は、プラトンが著書『国家』でイデア論を説明する際に用いた「洞窟の比喩」に着想を得ました。
(とは言え、『国家』自体は読んでいないのですが……。)
プラトンの「洞窟の比喩」とは?↓

 



★Kindleで詩集『戯言―ざれごと―』『寓話』発売中★
(kindle unlimitedご加入の方は無料で読み放題です)


作品を気に入って下さったかたは、よろしければサポートをお願いします。創作の励みになります。