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あり得ない日常#59

 本人がどう思っていようと周囲や社会は歩を進め続ける。

 「価値観を押し付けるな」という価値観を誰かに押し付け続ける限り、周囲はあなたに手を差し伸べることは無いだろう。

 人間なら他にも掃いて捨てるほどいるからだ。


 貴族という世襲を含む特権階級支配社会では、後継ぎの無能に無条件で権力が引き継がれる愚かさが顕現したようなどうしようもないものだったが、それから遥かに進歩した現代社会でも、まだ不完全で改良の余地はある。

 そこに、地中深くからわざわざ掘り出してきて、自らが吸い込む空気中に放出し続けてきた二酸化炭素や水分は、大気の各所に極端な気圧の差を産み出し、現代を生きる我々と子孫を悩ましているわけだ。

 いつまで、この地球上に人間は存在し続けられるだろうか。

 すでにチキンレースは始まっているらしい。

 多少間引くと、その分は生き延びられるのは明らかである。
さて、間引かれるのは誰だろう。

 原因は気候か、災害か、伝染病か、戦争か。

 そのうち共存と表面では良い顔をしつつ、自身が生き延びるためにお互いに嵌め合う見えない争いが始まるかもしれない。

 いやいや、それはもうすでにもう始まっているかも。

 死にたいのならさっさと死んでくれたらいい。その分、余計な手間と罪悪感にさいなまれる時間が省けるからだ。

 多くの人間が肉体的にも、精神的にもさぞ助かるだろう。

 なあに、10年もすればほとんどの人は忘れる。
覚えているとすればせいぜい同族か身内くらいだろう。


 例え神様がいるとしても、文句ばっかり言っているような人間やその集団には、さすがの神様もさぞイラついているはずだ。

 考えてもみればいい。

 縁もゆかりもない人間集団のひとりひとりに恩恵をくまなく十分に与えるわけにもいかず、面倒を見るわけにもいかない。

 そのくせネチネチと自身の有様を嘆かれるわけだ。

 もういいから、さっさと死ねと神様もさぞ思うだろう。


 それぞれが自分の食い扶持を稼いでくれれば問題無い。

 会社でもそれは同じで、それぞれが自分の給料分を稼いでくれれば、会社が潰れることはない。

 しかし、現実はそうではない。

 自分の事は棚に上げて、権利だけを声高々に主張する。

 いっそいなくなってくれればいいのに。
そう思うのを誰が責められようか。


 社長が買い取ったあの、ごみ収集事業会社だがある程度の人員整理が出来て数か月経つ。

 汎用ロボットもあることにはあるが、一台一台が高価なうえに公道をうろつかせるには行政の許可が必要ときた。

 わたしがいるこの会社は、主に海外の多種多様なAIに接続はするものの、各拠点で莫大なデータを保管しているというだけにすぎない。

 21世紀初頭には個人がTB(テラバイト)単位の半導体ストレージを手にすることが出来たが、それからPB(ペタバイト)ほどまで技術が進んだものの頭打ちとなった。

 半導体以上の存在や技術が必要になったからだ。

 さて、現状新たな事業に意欲はあるものの、それは無在庫経営のこれまでのスタイルを覆すつもりは無いのが本音だ。


「ちょっと離れてるけど、もっと大きい会社さんが買い取ってくれるってさ。」

 社長が、笑顔でそう教えてくれた。
いつにも増して機嫌がよさそうである。

 餅は餅屋。
あの先輩たちもいよいよ大手企業の社員のひとりになるというわけだ。

 そちらの会社の方が、長年のノウハウと業界事情にも当然に詳しいだろうから、もし収集の自動化に財と時間を投じるなら一番向いているだろう。

 そして、もしストレージ技術が必要になれば、うちの会社との縁があることから案件を真っ先によこしてくれるという期待が出来る。

 遠足は帰るまでが遠足。
投資も買って売るまでが投資だ。

 少しスッキリしすぎた気がする。
空いた拠点には藤沢さんが専属で割り当てられることになった。

 こうして、会社という組織は見えない所で、一部の認められた人間同士の間で最適化が進められていくのを知っておく必要があるかもしれないが、多くにとっては難しい話だろう。


※この物語はフィクションであり、実在する人物や団体とは一切関係がありません。架空の創作物語です。

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