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ゴム製の時のオカリナ 

小学生の頃に『ゼルダの伝説 時のオカリナ』というゲームが流行った
広大な世界を巡って剣や魔法、ブーメランや弓矢などを駆使して敵を倒し謎を解く壮大なアドベンチャーゲームだ
流行りに敏感なクラスメイトは時のオカリナが発売してすぐに手に入れて、仲間を家に呼び延々とプレイしていた
一人用のゲームだけど、ゲームオーバーになるなりで区切りがついたらプレイを交換するやりかたをしていた
俺はそんな楽しい会に呼んでくれる友達がいないのが悔しく、一人で憂さ晴らしにやり込むつもりで親に時のオカリナを買ってもらった
機嫌の良かったお袋は攻略本まで一緒に買ってくれた
買う時にお袋と約束した家事の手伝いを初日から反故にして、俺はゲームにのめり込んだ
「スーパーマリオ64」で培った3D操作技術
ステージ中のアイテムのありかやボスの倒し方を細かく教えてくれる攻略本
やっと手に入れた一人部屋
完璧だった
当時子ども達の間で最難関と言われていたステージの水の神殿も何とかクリアし、順調にゲームは終わった
賑やかにゲームをやっているクラスメイトと比べると孤独な戦いだったけど、それなりに満足はした
それからしばらくしてブームが落ち着いた頃に、時のオカリナを買ったクラスメイトがいた
彼が仲間としている話に聞き耳をたてると、水の神殿がどうしてもクリア出来ないということだった
必要とされたかった俺は『用心棒』の三船敏郎の様に「俺を買わんか」と詰め寄った
攻略本を持っていることを知った彼は是非来てくれと言った
必要なのは俺じゃなくて攻略本か? とは思ったものの人と遊べるのが嬉しくて、下校してすぐに攻略本を持って彼の家に急いだ
既に仲間が数人集まっていて若干の場違いさを感じたけど、攻略本のおかげかお客さまとしての対応を彼はしてくれ、皆が俺のアドバイスをちゃんと聞いてくれた
ゲームは無事にクリア出来た
もはやお払い箱かと思い哀愁を漂わせて帰ろうとする俺を引き止め、彼はケイドロをしようと言った
ケイドロをしたのは俺がいつも遊ぶ所とは違い、遊具が少なく広い公園だった
いつもと違う土の上で走るのは気持ちが良かった
馬が合ったのか彼とはそれから何度か遊んだ
少し経ってから、喧嘩やクラス替えがあったわけでもないけど、お互いの本来の場所に戻るように何の遺恨もなく緩やかに別れた
今では彼の顔も名前も水の神殿の攻略法も薄っすらとしか覚えていない

それからまたしばらくして、時のオカリナが好きな別の友達が出来た
そいつから校舎内の人気のない場所に呼ばれていくと良いものを見せると言われた
そいつはポケットからオカリナを取り出して、ゲーム中の主人公と同じように音楽を奏でた
それまで時のオカリナ好きをアピールする手段としてゲームの上手さや知識披露、イラストを描く、声の物まねくらいしかなかった俺は大きく敗北した気になった
それからそいつには及ばずともせめてリコーダーでと思い、時のオカリナの曲を練習した
生まれて初めての努力だったかもしれない
簡単なものだったけど吹けるようになったときは嬉しかった
そいつは更に、主人公の使っていたようなパチンコ、弓矢なんかも手に入れるつもりだと言った
俺は勝てそうもないなと思い、時のオカリナへの興味を失った
今ではそいつの顔も名前もリコーダーの吹き方も薄っすらとしか覚えていない

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