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6500文字の反省文

 今年ももう終わりですね。

 マジック的には今年は、久しぶりにMTGアリーナのプロツアー「ニューカペナ・チャンピオンシップ」に出場したのが思い出深かったです。

 アンドレア・メングッチの調整チームは俺以外全員外国人、当然英語によるコミュニケーションで調整が進んでいったので、高校の英語の成績が悪かった俺にとってはとても貴重な体験になりました。

 昔は「留学って…ただ海外に数カ月行くだけで英語ができるようになるわけないだろ!」なんて思ってましたが、いざ自分以外の全員が英語を使う場でコミュニケーションを取るとなると、自然と英語ができるようになるもので、驚きました。

 人間って適応できる生き物なんですね。

 とまあ余談はおいといて、本当はこんな感じで今年のマジックの成績を振り返って、「こいついつも青白ばっか使ってるな~」とか感慨に耽ろうと思っていたのですが…やめました。

Last Sun 2022で沸き上がった自身への感情を、一刻も早く言語化しなければならないと思ったからです。

■Last Sun 2022使用デッキ

 晴れる屋さん主催の年末のイベント、The Last Sun 2022。ダブルフォーマットで行われる本大会は、今年もスタンダード・モダンでした。

 僕がスタンダードで選んだのは、環境最強の名を欲しいままにしていたグリクシス・ミッドレンジ。

 モダンはアゾリウスコントロール。

 それぞれ自分が長く使ってきたデッキでそれなりにデッキリスト・プレイ共に自信はありました。

 初日の調子は上々でした。スタンダードの初戦こそグリクシスミラーで落とすも、残りすべてに勝って3-1、モダンラウンドはイゼットラガバンと3連続でマッチし、2勝を収めて初日を突破。

 そして2日目のモダン。正直スタンダードよりモダンに自信のあった僕は、「とりあえずモダンを3-0してスタンダードで頑張って1勝してトップ8に入りたいな~」ぐらいに考えていました。

 ですが、結果は0-3。独創力、イゼットラガバン、ジェスカイブリーチに敗北。スタンダードでも白単に敗北し、僕のクリスマスは敗北に終わりました。

 この結果自体は仕方ないと思っています。マジックは土地を引いたり引かなかったりするだけでゲームに簡単に負けてしまい事実としてこの日はとにかくマナトラブルに見舞われました。

 ですが、改めてゲームをすべて振り返ると、違う一面が浮き彫りになったのです。

■アゾリウスコントロ―ル

 さっきも話したように、僕はモダンのアゾリウスコントロールをそれなりに長く使用しています。

 というかモダン以外でもアゾリウスコントロールをよく使用しており、今晴れる屋で今年自分が入賞したデッキを見てみたら、全フォーマットで31回入賞し、その内11回がアゾリウスコントロールでした(笑)

 特にモダンでは昨年のLast Sun 2021でもアゾリウスコントロールを使用し、それなりに成功を収めており、デッキリストにもかなり自信を持っていました。

 これが実際に僕がLast Sun 2022で使用したリストでした。

 75枚のどのカードについても「なぜこの枚数なのか」と聞かれたら答えることができ、不採用カードの理由についても答えを持っています。それぐらい精査した75枚…のつもりでした。

 しかし、実際には違いました。Last Sun 2022は厳しい予選を突破した猛者たちの集まる大会。そこに勝ちに来るプレイヤーたちによって、非常に尖ったメタゲームが形成されていました。
 
 すなわち、Tier1デッキの使用率がとても上がったのです。パイオニアやスタンダードではTier1に該当するデッキが20%を超えることはよくありますが、モダンではそれはあまり起きません。
 
 なぜなら、モダンはTier2以降のデッキも高いパワーを持っているためです。アミュレットタイタンやリビングエンドは使用者数で言えばTier2に該当しますが、その強さは折り紙付きです。

 だからこそ、独創力とイゼットラガバンだらけのモダンは、かなり異質でした。そしてこのメタゲームに対して、僕のリストは全く適応できていませんでした。

■適応していないデッキリスト

 具体的に「適応していない」と感じたのはいつか。それはモダンの全6ラウンドを終えた時でした。

 全マッチで《ドミナリアの英雄、テフェリー》をサイドアウトしていたのです。

 このカードは生き残ると簡単にゲームに勝ち、リソースを供給し続けてくれるカード。出しさえすれば2マナを起こせるため、打ち消しも構えやすく、比較的リスクなくプレイできるのですが、青いデッキには打ち消されてしまいます。

 イゼットラガバンには出してやっと通っても《邪悪な熱気》で除去されますし、独創力に対しては、出して通って構えた2マナでは、返しのターンの《不屈の独創力》+《夏の帳》or《呪文貫き》を防げません。常にたくさんのマナを構え続ける必要があるのです。

 加えて、この2日で最もライフを削ってきたカードは《敏捷なこそ泥、ラガバン》でした。このカードへの備えが圧倒的に不足していました。

 井川さんのアドバイスで《天界の粛清》を入れましたが、それでも《敏捷なこそ泥、ラガバン》の疾駆は止まりませんでした。《力線の束縛》と《天界の粛清》で5枚あるものの、相手は《敏捷なこそ泥、ラガバン》を通すとマナが増えるので意気揚々と除去に対して打ち消しを使ってきて、結果として《敏捷なこそ泥、ラガバン》がずっと通り続けていたのでした。

 ご存知の方も多いと思いますが、アゾリウスコントロール相手には《敏捷なこそ泥、ラガバン》を疾駆以外でほとんど出しません。《虹色の終焉》と《至高の評決》でソーサリー除去が7枚あるので、こちらのターンで《敏捷なこそ泥、ラガバン》を対処することは簡単なのです。
 
 ですが、MOのリーグやリアルトーナメントでは、《敏捷なこそ泥、ラガバン》を疾駆以外で出してくるプレイヤーが多く、これまでそこまで頭を悩ませる存在ではありませんでした。Last Sunに参加するプレイヤーは非常にレベルが高く、全員が《敏捷なこそ泥、ラガバン》を疾駆のみでプレイしてきました。

 この大会で初めて、本当に《敏捷なこそ泥、ラガバン》が辛いリストになってしまっていることを実感したのです。

■仕方がなかったのか

 そもそも「独創力とイゼットラガバンが多いメタゲームになる」「《敏捷なこそ泥、ラガバン》の疾駆が想像以上に辛かった」この2つは、未然に気付くことができたのか、それとも仕方なかったのか。

 前者については、仕方のない部分も多かったと思います。モダンで予選を突破したプレイヤーはそのまま愛機を持ち込むことが多いですし、調整チームが参加するイベントではない以上、偏りを予想するのは難しかったでしょう。

 しかし、《敏捷なこそ泥、ラガバン》の疾駆が想像以上に辛いということについては、僕に落ち度があると言わざるを得ませんでした。

 気付かせてくれるチャンスが2つあったのです。

■井川さんの助言

 もともとLast Sunの2週間ほど前に、MPLプレイヤーの井川さんとモダンのアゾリウスコントロールに関する意見交換をしていました。そして前週のトーナメントでは本番用のリストを2人で使用し、気になる点を洗い出してもらっていました。

実際に送ったライン

 結局このリクエスト以上のフィードバックをたくさんくれた井川さんでしたが、その中の1つが「《敏捷なこそ泥、ラガバン》の疾駆がめちゃくちゃきついから《天界の粛清》がいい」だったのです。

 この時、もう少し対イゼットの認識を改めていれば、間違いなく《敏捷なこそ泥、ラガバン》対策は増えていたでしょう。先ほどのスクショを見ればわかる通り、「青赤には基本有利」で思考が止まっています。この1年、イゼットラガバンのリストは《帳簿裂き》が入ったこと以外ほとんど変わっておらず、一方こちらはイゼットラガバンに強い《力線の束縛》が入ったため、更に有利になったはずだ、と完全に認識を誤っていたのです。

 実際は、このリストは《敏捷なこそ泥、ラガバン》に弱すぎるゆえに、対イゼットラガバンでさほど有利と言えない構成になっていました。

■このリストの欠陥

 昨年のLast Sunでも人気のアーキタイプだったイゼットラガバン。当時は《力線の束縛》加入前で《濁浪の執政》がとにかくきつく、除去札が足りないこともしばしばありましたが、それでもアゾリウスコントロールはイゼットラガバンに高い勝率を誇っていました。

 《濁浪の執政》を対処する手段こそ今より少ないですが、《時を解す者、テフェリー》のバウンスを続けると墓地が足りなくなって出てこなくなりますし、《至高の評決》で流すこともでき、最悪サイズがそこまで大きくなければ2回程度攻撃を受けられました。

 以上により、《濁浪の執政》でいつも負けそうになりながらも、ギリギリのところで対処することができ、結果として負け筋にはあまりならなかったのです。

 最もイゼットラガバンに負けるパターンはやはり《敏捷なこそ泥、ラガバン》疾駆で、これに対して強かったのが《サメ台風》だったのです。

 《力線の束縛》の際に「相手は《敏捷なこそ泥、ラガバン》を通してまた打ち消しを構えられるのでここに打ち消しを当ててくる」と言いましたが、《サメ台風》は打ち消されることはなく、更に余った除去が飛んできてもカードを引けるので手札が減りません。

 《敏捷なこそ泥、ラガバン》対策として最も機能していたのがこの《サメ台風》だったのです。

 《力線の束縛》の加入によってキャントリップ枠が《サメ台風》と《激しい叱責》の計5~6枚から《激しい叱責》だけになり、その結果、《敏捷なこそ泥、ラガバン》1枚に負けるという事態になってしまったのです。

■もう1つの気付くチャンス

 《サメ台風》こそがイゼットラガバンに対してのマスターピースだったことに気付き、そこで思い出したのが、稀代のデッキビルダーであり、アゾリウスコントロールフリークの殿堂プレイヤー・ワフォタパが最近回しているアゾリウスコントロールでした。

 お分かりでしょうか?このリスト。
 《ドミナリアの英雄、テフェリー》0!
 《サメ台風》4!
 《虹色の終焉》2!
 正直言って以前は本当に理解しがたいリストでしたが、今改めてみると、なんと美しいリストなのかと舌を巻くレベルです。

 《ドミナリアの英雄、テフェリー》の弱さは既に説明した通り。環境トップのデッキに対してほとんど何もしません。

 《虹色の終焉》は《レンと六番》に対して当てたいカードですが、独創力相手に後手で《虹色の終焉》を打つと《鏡割りの寓話》か《時を解す者、テフェリー》が通ってしまうリスクがあります。

 そして!なんといっても《サメ台風》が4枚なのです。

 《サメ台風》は独創力に対しても実は強力なカードでした。メイン戦では打ち消しを連打して勝利しますが、サイド後は相手が《不屈の独創力》を通すために《夏の帳》と《狼狽の嵐》をサイドインし、なんとか無理やり呪文を通そうとしてきます。そのため、《レンと六番》で土地を伸ばしながらパーツを集めてきて、それなりにロングゲームになります。

 《神聖なる月光》と打ち消しをたくさん持っていても、《呪文貫き》・《狼狽の嵐》・《夏の帳》の上からコンボを決められてしまえば、キラーカードは無意味です。

 その猶予を与えないのが《サメ台風》です。フェッチ・ショックでとにかく相手はダメージを受け続けるので、《サメ台風》を2ターン連続でサイクリングすると、相手は準備不十分でも仕掛けるしかなく、こちらの《神聖なる月光》と打ち消しが突きささる展開になります。

 一見奇怪なリストでしたが、実はとても理にかなった素晴らしいデッキだったのです。

■慢心

 以前までの僕は、ワフォタパやナシフなど、アゾリウスコントロールフリークのリストを見ると、まずコピーしていました。
 
 そしてコピーしていく中で各カードの重要性を認識し、その上で気になった点などをアップグレードしていったり、そこで得た知見を元に、1からデッキを構築していたのです。

 もしこのリストをコピーしていれば、《敏捷なこそ泥、ラガバン》の疾駆を《サメ台風》が止め、《不屈の独創力》を《サメ台風》連打で勝利することに気付けていたでしょう。

 しかし、このワフォタパのアゾリウスコントロールについては、回しすらしませんでした。

 特に《サメ台風》4枚の意図がわかりませんでした。以前までのアゾリウスコントロールはプレインズウォーカーを倒す手段が限られており、そこで《サメ台風》が役に立っていましたが、《力線の束縛》の加入でその心配がなくなり、僕は《サメ台風》は時代遅れのカードだと認識していました。

 正直言うと、「またワフォタパが自分の好きなカードを詰め込んでいる」ぐらいにしか考えていなかったのです。

 これは慢心でしかありませんでした。自分がアゾリウスコントロールを長く回しているという自負があり、ありえないことなのに、ワフォタパよりも自分の方がこのデッキをよく知っていると思っていたのです。はっきりとそう自覚はしていないまでも、深層心理ではきっとそうだったのでしょう。

 今年の後半のプレイヤーズコンベンションオープン、そして翌週のBig Pioneer Festivalでのアゾリウスコントロールでの連続準優勝が、この慢心に拍車をかけていたのかもしれません。

■反省

 そもそも、今年は慢心できるほどの成績だったのでしょうか。
 
 プレイヤーズコンベンションオープンは地域チャンピオンシップの裏イベント。そもそも地域チャンピオンシップに出ていませんでした。

 家庭・仕事・休日・その他予定、何かの事情で出られないプレイヤーがたくさんいる中、僕は単純にマジックの実力が足りなくて出場できませんでした。店舗予選で負け続け、プレミアム予選も遠征し、なんの成果もあげられませんでした。

 思い返せば、ニューカペナチャンピオンシップでも2日目に残れませんでした。《鏡割りの寓話》の強さに気付けず、エスパーミッドレンジのミラーマッチの攻略法も見出せず、練習で一番勝率が出たリストを登録し、普通に敗北しました。

 こうして振り返ってみれば、2022年のマジックは反省こそすれど、慢心できるような材料など、ただの1つも存在しなかったのです。

 それなのに調子に乗って自分のリストを絶対と信じ込み、殿堂プレイヤーのリストを試しもしないとは、なんたる驕り!

■終わりに

 というわけで、今年の振り返り改め、反省文はこの辺りで終わりにしようと思います。

 もしLast Sunの2日目でここまでボロ負けしていなければ、自分の慢心に気付くことなく、なんとなく今年のマジックに満足して終わったでしょう。

 50万の賞金を獲得する優勝より、こうして反省できた0-4の方が、僕にとってずっとプラスだったかもしれません。

 気付かせてくれてありがとう、Last Sun。ワフォタパ。そしてアゾリウスコントロール

 2023年の目標は…とりあえず「慢心しない」で行こうと思います。

 それでは皆さん、良いお年を。

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