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〆切を守る技術

仕事のさまざまな場面で、〆切は非常に重要です。

事実、デューク大学の心理学・行動経済学教授、ダン・アリエリー氏の研究では、自分で決めた〆切を設定することで、生産性と完了率が向上するとされています(Ariely, 2002)。

余談ですが、私が過去に在籍していた会社では納期は死守すべきもの、と教育され、全員が「納期を決めて必ず守る」という誓約をさせられました。

ですので、「やる時間がなかったです」や「忙しかったので……できていません」という言い訳はできません。

本当に時間がなかったのであれば、「なぜ〆切が到来するまで無策だったのか」ということになりますし、「時間を作れなかった」というのであれば、これは時間管理に関して無能であるという告白に等しいとみなされます。

いずれにしても「〆切を守れませんでした」という言葉は、軽々しく使うべきではなかったですし、少なくとも釈明にならず、信用を失うだけでした。

では、〆切を守るためにはいったい、何をなすべきでしょうか。

一般的には「時間管理スキルを向上させる」ことが、解決策としてみなされがちです。

しかし実際には「〆切を守る」ことにおいて、「時間管理」は重要な要素の一つではありますが、目的のために必要なことは時間管理以外にもたくさんあります。

そこで本稿では、〆切を守る技術について取り上げたいと思います。

なお、本稿を仕上げるにあたり、私個人の経験のほかに、以下の文献を参考とさせていただきました。

特に「YOUR TIME」には、様々な時間管理手法の有効性が、統計情報とともに掲載されているので、どの時間管理手法を採用するか迷ったときにはとても良い文献となります。

また、あえてどれか一冊だけ、という方がいれば、ドラッカーの「経営者の条件」をお勧めします。第2章の「汝の時間を知れ」という項目だけでも十分すぎるほどの知見が手に入るでしょう。


1.「〆切を守る」ために最も重要なことは?

〆切を守るために、最も重要なことは何か。
そう問われたら、どう答えればよいでしょう。

作業の見積もりでしょうか?
それとも、やる気を出すことでしょうか?


様々な回答があると思いますが、実は私が過去に在籍していた会社で一番重視されていたのは「〆切を精緻に決めろ」でした。

当たり前じゃないか、と笑う人もいるでしょうが、実はそう当たり前でもありません。

例えば上司が「明日までに仕上げてください」と部下に仕事を頼んだ時、適切に納期を設定していると言えるでしょうか。

実はこれは微妙です。
例えば上司は「明日の業務時間(17時30分)より早く(遅くとも16時)までに仕上げて」と内心思っている一方で、部下は「明日の日中は無理だから、出せるのは夜だな」と思っているという状況は珍しくありません。

その結果、上司は部下に夕方になって、「おい、まだできていないのか!」と言い、部下は「これから取り掛かるところです」と言う。

大きな齟齬が発生してしまうのです。


これをクリアするためには、単純ですが上司が「明日の16時までに」とはっきり言えばいいのですが、雑に頼む上司だとそうもいかない。

ひどい時には「これお願い」とポンと投げて、思い出したころに「まだ終わってないのか!」と怒る人もいるくらいです。


でも、それは頼む側も悪いのです。

私の先輩の中には「納期を指定されなかったら、やる必要ない」と言う人もいて、「納期も決めず、そのまま頼んだことを忘れるようだったら、最初からその仕事をやる必要はなかったってことだよ」と言い切っていました。

ただし、そういう自分の悪いところを棚に上げて部下のせいにする上司もいますから、相手のせいにしていても始まりません。

ですから、部下も自分を守るために「明日の何時までですか?」と聞き返す癖を付けなければなりません。

つまり〆切を守る最初の一歩は、「〆切を、誤解のないように精緻に決めろ」となります。

2.交渉が重要

そして次に重要なことは、これも「時間管理」や「生産性」とは少し異なった話になりますが、「〆切の交渉」になります。

依頼された側は「明日までにお願いね」と言われた時、そのまま受けてはいけません。内容を見て「いま抱えている仕事への影響」を判断しなければならないからです。

特に依頼が「急な割り込み」であった場合にはほとんどの場合、他の仕事に影響が出ますから「何から手を付けるべきか」に重要な変更が発生する場合があります。

ここで必要なのが「〆切交渉」です。

今ある仕事と、依頼された仕事をすべて依頼者に提示し、必要であれば納期の調整を行ってもらうのです。
実際、コンサルタントだったときには、上司が仕事の依頼をしてきたときに、「明日の仕事の予定を全部見せる」ことをよく行っていました

私の手元には、社長からの仕事、役員からの仕事、マネジャーからの仕事、お客さんからの宿題など様々な仕事が山積していましたが、それを並べて、重要度を比較してもらうためです。


納期がキツイ仕事の依頼をされたら、現在進行中の仕事を提示し、「どれを先にやればいいですか? 他の仕事を後回しにせよというならば、後回しにする仕事の依頼者から、許可を取ってもらえないでしょうか」とお願いするのです。

そうなると「明日までにすぐ」といった、雑な依頼は徐々に減り、前もって計画的に依頼する人が増えてきます。


そのためにも、現在抱えている仕事は、メモを取るか、タスク化して外部に提示できるようにしておくことは、〆切を守る技術でも大事なことの一つです。

3.時間管理のスキルについて

ここまでくると、あとは「納期の決まった仕事」をやるだけですが、そこで話題になってくるのが、冒頭にあげた書籍に書かれているような「時間管理」のノウハウです。

というのも、往々にして時間の見積もりが甘いと、
・締め切り直前になって慌ててやる
・人に頼まなければならない仕事が発生して、納期遅延を起こしてしまう
・時間をかけた割には成果品のクオリティが低い
という事が起こってしまうからです。

そのため前述した二つのポイントに比べて、「時間管理」あるいは「スケジュールマネジメント」のノウハウは、かなり多くのものが世の中に存在しています。


例えば、書籍の目次からいくつか引用してみましょう。

時間術大全 ジェイク・ナップ ダイヤモンド社 
あなたの1日は27時間になる 木村聡子 ダイヤモンド社 
1440分の使い方 ケビン・クルーズ パンローリング株式会社

日課を作り、それを守ることを提唱したり、先延ばしに打ち勝つためのマインドを備えたり、タスクを設定したり、記録を取ったり、デジタルツールを利用したりと、様々な方法が提唱されています。


しかし、この中のどの施策が正しいのでしょう?
どの施策が効果があって、無理なく継続できるのでしょう?

こうした技術はあまりにも数多くあるため、何を選択したらよいのか、よくわからない、という欠点があります。

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