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マーケティングの定石に反する、ベストセラーの作り方

4月19日に発売された著書「頭のいい人が話す前に考えていること」が、10月10日に9刷の重版がかかり、累計で33万部となった。


発売後、半年の時点でも、大型の書店でベストセラーの仲間入りをしているので、もう少し部数が伸びるのではないかと予想している。

しかし、いったいなぜこの本は売れたのだろうか、と考えると、安易に答えが出せない。
というのも、企画が提出された当初、タイトルを見て私はこの本を「そこまでは売れないだろう」と思っていたからだ。

もちろん「良い本を書こう」と思っていたことは間違いない。

しかし、「良いものが売れる」というのは、商売をやったことのない人の発想であり、いかに魂を込めた商品でも、売れるかどうかは別の話だということは、多くの人がご存じだろう。

そこで今回は、後知恵ではあるが、「売れない」と思っていた本が「売れた」原因を、書籍の企画段階での話を、売れ行きの特徴や、本に寄せられた意見などと照合し、振り返る。

今後、自分が再度本を出すときに、あるいは本を出そうと思っている人に、ある程度の再現ができるように、詳しく書いてみたい。


「誰のための本なのか」を考えない

意外かもしれないが、この書籍の企画が持ち上がった時、最初に編集者と話したのは「この本は、誰のための本なのか」という話ではなく「どの棚に置いてもらうか」だった。

これを突き詰めたことが、結果的にベストセラーを生み出した大きな要因の一つだったことは間違ない。

通常、マーケティングの定石はターゲットユーザを特定し、そのペルソナ(個人の代表的な像)を仮に設定することで、商品づくりのインプットとする。つまり「誰のためか」を突き詰める

しかし今回は、ターゲットを「ビジネスパーソン」と「就活生」という、かなり大きなくくりの設定しかしていなかった。

上は、実際の企画書に書かれたターゲットユーザ

これは、「誰に?」をまず考える、通常のマーケティングの進め方とは異なっていた。

では、どのように書籍の狙いをを定めたのかというと、実は「書店のどの棚に置かれるのが良いか?」だった。


ではなぜ「ターゲットユーザ」ではなく、「棚」を目的に据えたのが良かったのか。
それは、「読者層を広くとるため」である。

例えば「40代のビジネスパーソン」という設定や、「子供を持つ女性」というターゲット設定などはよくあるが、ターゲットの属性を細かくすればするほど、読者層が小さくなってしまう

ベストセラーはそもそも「広い年齢層、多くの職業、男女の別なく」売れるものだから、実際には、ユーザを厳しく絞り込んではいけない。

実際このように、ターゲットを絞り込まないことによって、この本を手に取る人は、とても増えたと考えられる。コンサルタント本にありがちな「東京だけで売れる」という事もなかった。

例えば、沖縄のジュンク堂では数か月間、1位を保っている。

滋賀県や、新潟、名古屋、大阪、群馬、北海道でも売れた。

また、ビジネス書にしては女性の読者が大変多く(4割程度)、寄せられたアンケートの年齢層を見ると、中学生から80歳を超えるお年寄りまでが手に取っていることが分かった。


しかし、本を作るうえで、「全員に向けて」は良いのだが、何かしらの方針を定めることは必須である。
では、どうするか。

書店で本を選ぶ時のことを思い出してほしい。
「どんな本があるかな?」
「何が売れているかな?」
「著者は誰かな?」
「どの本が面白そうかな?」
といった、考えを、誰もが「書店の棚」を見ながらめぐらすのではないだろうか。

実は、書店で本を手に取ってもらえるかどうかは、その本単独で決まるわけではなく、「他の本との関係性」で決まる
だから、書店の特定の棚で目立つことが重要なのだ。


では、どのように目立たせるのか。
そこでキーとなるのが、「独自性」だ。

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