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ニューエイジ・アンビエントを聴く④

ちょっと溜まってしまっていたけど、この9ヶ月位で聴いてたニューエイジ/アンビエントなアルバムたちのリスニング記録です。
過去の名盤を聴くのに参考にする情報源として、自分は各メディアや、RYMやAOTYといったサイトでジャンル別に検索して出てくるランキングを参考にすることが多いんだけど、このジャンルはPitchforkが2016年に発表している"The 50 Best Ambient Albums of All Time"を特に最初の第一歩として参考にしており、今回の記事のアルバムもそこから聴いたものが多数です。なんせ初心者なので、手っ取り早く基本を知ろうと思うとこういうランキング企画は本当にありがたい。

ちなみに過去記事は以下にまとめてます。

Deuter / Celebration (1976)

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Kuckuck / Germany

ドイツのニューエイジ先駆者、Gerog Deuterの有名盤。
牧歌的なニューエイジといえば良いだろうか?特にアコギやフルート?の音がそんな雰囲気を掻き立てる。感覚的にはMike Oldfieldの諸作と同じところにグルーピングしたくなる。70年代中盤なのでプログレ勢とも共振しそうな内容だけど、毒々しさは皆無でヒーリングミュージック的要素を兼ね備えているから、やはり第一期ニューエイジの名盤となるんだろう。M3の美しいサウンドスケープやM7の細かなエレクトロニクス、M8のフィールドレコーディングとアコギの組み合わせはなかなかに素晴らしく、とても好みです。

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Mkwaju Ensemble / Ki-Motion (1981)

Better Days / Japan

再評価著しいパーカッショニスト高田みどり参加のMkwaju Ensembleの2ndアルバム。久石譲の初プロデュース作である1stの時点で国籍不明のトライバル感やSteve Reich的な徹底したミニマル感を炸裂させていたが、この2ndではよりニューエイジ感が増していて、ジャパニーズニューエイジの傑作と言って差し支えない内容になっていると思う。音楽的な素養のなさ故になんの楽器かが分からないのが口惜しいが、M4 "Angwora Steps"では本当に多彩な音色のミニマルパーカッションが乱れ飛び、一方でM5 "Hot Air"ではほのかで柔らかい電子音がそっと優しく包み込む、といったように全6曲で統一感がある中でも結構多様な音楽が鳴らされている。清水靖明、吉村宏、INOYAMALAND、マライア・・・などなど、70年代後半から80年代の日本の音楽はシティポップだけでなくアンビエント/ニューエイジも中々独自の色を出していて面白い。

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Steve Roach / Structures From Silence (1984)

Fortuna Recoads / US

一聴すれば「これは素晴らしい‥!」となること請け合いのニューエイジ/アンビエント名盤。Tangerine DreamやKlaus Schulzeに影響を受けてシンセを始めたというアメリカンニューエイジの巨匠、Steve Roachの奏でる音は、なんと柔らかく透明感のあるサウンドスケープか。ここは深海?それとも宇宙空間?スペーシーで広がりがあり、その一音一音の響きに脳がとろけてしまう。なんなら、時間が止まって引き延ばされるような感覚もあり、そんなアンビエント作品はBrian Enoの「Music For Airport」くらいしか思いつかない。美しいメロディのリフレインからはヒーリング要素も多分に感じられ、砂漠の中のオアシスのように疲れた日常で癒されたい時に是非ともかけたい一枚だ。

PitchforkBest Ambient Album 50における第33位。

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Pauline Oliveros, Stuart Dempster & Panaiotis / Deep Listening (1989)

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New Albion / US

本作はアコーディオン奏者で電子音楽家のPauline Oliveros、トロンボーン奏者のStuart Dempster、ボーカリストのPanaiotisから成るディープリスニングバンドによる即興演奏を集めたアンビエント/ドローンアルバム。ヒーリングミュージックとはまったく異なる、真っ暗闇で映えるメディテーション音楽で、聴いていると深い深い海の底に沈められたような気持ちになる。巨大な地下の貯水槽で録音されたらしく、それぞれの演奏の残響が共鳴し合うことで、決して親しみやすいとは言えないが、より研ぎ澄まされた鋭い音像になっていると思う。

そもそもアルバムタイトルにもなったDeep Listening(ディープリスニング)」という言葉はOliverosが作り出した造語であり、Wikiや複数のサイトでざっと調べてみると「音を聴くという行為に意識的になること」ということを意図しているようだ。言うならばマインドフルネスのサウンド版。至る所で語られていると思うが、サブスクを初め簡単に世界中の音楽にアクセスできるようになった一方、リスナーは集中力を欠くようになり、一音一音を聴くという行為を疎かにするようになってきた(クソデカ主語ですが、要は自分のことです)。そんな潮流だからこそ、時にはこのアルバムの細部にまで耳を傾けて「サウンド」に集中すると時間を持つことが大切だと思う。

PitchforkBest Ambient Album 50における第8位。

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Stars of the Lid / And Their Refinement of the Decline (2007)

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Kranky / US

「ホ、ホーリー・・」と思わず呟いちゃうくらいの美しさと静謐さ。リズムは全くなく、ただひたすらに澄み切ったサウンドスケープがゆったりと波のように寄せては返す、至福の2枚組2時間1分。ドローン/アンビエントの世界は本当に奥が深いとこの作品を聴いていると強く実感する。このジャンルって表面的に見ればどれも同じような音楽なんだけど、そこにこめられる音像の美しさについては玉色混合、確実に美しい音楽とそうでない音楽がある。その差を言語化しようと思うといつも筆が止まってしまい、全然表現できる気がしないんだけど、この作品は間違いなく美しい作品の部類に入る。よくあるダークで不穏なサウンドとはかけ離れているが、かといって底抜けに明るいわけでもない、ただただ暖かみに包み込まれるようなサウンドスケープ。聴いてると涙が出てくるわ

PitchforkBest Ambient Album 50における第18位。

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The Humble Bee / A Miscellany for the Quiet Hours (2009)

Astral Industries / UK

これはなかなかにヤバい。全編テープループで構成されるコラージュ系アンビエントで、ソフトなノイズとボーンと入るベース音の上でオブスキュアなサウンドが蠢くのが気持ち良すぎる。テープループ的サウンドの鬼であるThe Caretaker「An Empty Bliss Beyond This World」や、身近な物音から一つの作品として素晴らしい音世界を構成した昨年のClaire Rousay「A Softer Focus」辺りとも共振しそうな内容だと感じた。親しみと気軽さ、遊び心のようなものが感じ取れ、瞑想的というよりは日常のサウンドトラックとして小さな音で流すのが良いかもしれない。
2009年に自身のレーベルからCDRのみでリリースしていたが、2021年にUKのレーベルAstral Industriesにてリイシュー。どこで知ったか覚えてないけど、多分リイシューきっかけなので、Astral Industriesには感謝。

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Grouper / A I A : Alien Observer (2011)

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Kranky / US

アンビエント/ニューエイジにも性質があり、陽性のバイブスを放つものからダークなものまで様々だなと思う。Grouperはどちらかといえば、陽性というかドリーミーなサウンドスケープを奏でるSSWで、アンビエントなサウンドだけどもそこにはメロディがしっかりとある(なんなら文字通りの「歌」がしっかりとある)。上述のStars of the LidのサウンドとGrouperのサウンドの方向性はある意味似ているように思うけど、前者が非常に澄み切っているのに対し、Grouperの音楽はどこか靄がかかっており、現実と夢の境界にいるような気分にさせられる。こういう不明瞭な感覚は2010年代後半〜2020年代のアンビエント音楽の重要な要素として常にあった。ということは、やっぱりこのアルバムは重要な一枚ってことだ。

PitchforkBest Ambient Album 50における第21位。

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Tim Hecker / Ravedeath, 1972 (2011)

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Kranky / US

自分が初めて聴いたTim Heckerのアルバムで、だからか一段と思い入れがある。教会で録音されたノイズとオルガンドローンで満たされた楽曲には、得体の知れない圧迫感があり、聴いているとどこか息苦しさすら感じる。そんな圧迫感、閉塞感的なものこそ、Tim Heckerが閉じ込めたかった時代の空気であると勝手に理解していて、それは10年経った今聴いても有効に響いているのでは?と思う。ジャケットはとある大学の屋上からピアノを壊すために投げ捨てている写真だが、これはフィジカルからどんどんデジタルに置き換わっていき、廃棄されるCDを暗喩しているとかいないとか。そんなどこかアナーキーなジャケと、緻密だが暴力的で退廃的なサウンドアトモスフィアが合わさることで一層の相乗効果が生まれ、もはや一周回ってこの世で最も美しい音楽の一つに昇華している。いつ聴き直しても素晴らしい。

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Bing & Ruth / Tomorrow Was the Golden Age (2014)

Rvng lntl. / US

NYの作曲家でピアニストでもあるDavid Mooreが率いるアンサンブル集団Bing & Ruth。基本的にDavid Mooreのピアノ世界をサポートするべく、作品によって編成が変わる音楽集団のようで、今作ではアップライトベースとクラリネットを二人ずつ、チェロ、テープディレイを一人ずつ、それにDavid Mooreの計7名構成のようだ。

とにかく、Steve ReichBrian Enoを思わせるミニマル・エクスペリメンタル・ドローンの上で、時に軽やかに、時に厳かにポロンポロンと鳴らされるピアノの美しさが際立つ。アルバムタイトルはどこか皮肉めいているが、この音楽からはそんなニヒリズム的なスタンスなどは感じず、むしろ慈愛の精神で溢れている。時にRadiohead「Motion Picture Soundtrack」のアウトロの美しさを思わせるような、かなりドラマチックで抒情的な内容で、好きな人はめっちゃ好きだと思う。

PitchforkBest Ambient Album 50における第49位。

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ブライアンイーノ展にも行かないとな‥と思いつつ、仕事の忙しさと暑さ、ついでに感染拡大を理由に、空いてる時間は家でクーラーをつけながらボーッと漫画読んで音楽聴いてる日々‥。そろそろシャキッとしないとなと思いつつ、ああ、ダラダラは止まらない。

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