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OMO5東京大塚 | 夜が明けるまで

すごく大切な友だちの元気がないことを、なんとなく分かっていた。言葉はもう、頑張っている彼女には不要で、わたしにできることはなんだろう、と考えたとき、いつだったか彼女と旅行をしたときのことをはたと思い出した。

美味しいものを食べて、お風呂に浸かって、眠くなるまで語らった夜。なんとなく起きて、あったかい珈琲を飲む朝。気を遣わず、時間を気にせず、心のままに何かを選ぶ。

今の彼女にきっと、こんな時間が必要なのではないかと考えた。

そこで、さくっと週末に都内で1泊しないか、と誘った。場所はOMO5東京大塚。関東に住むわたしたちにとっては日常のなかにある場所だった。

彼女はすぐに、行きたいと言ってくれて、急遽、旅が決まった。思い切り心を休める旅にしよう、とわたしはふたりの好きなものを詰め込んだ。

神楽坂にある隠れ家レストランでランチコースを食べ、チェックインをすることにした。

ちょっといいお店は気分を高揚させてくれる。ちょっといい服を着て、ちょっといいワインを昼から飲んだ。高校時代のなんともダサい制服に身を包んで、必死に自転車で通学していたふたりを思い出して、思わず笑ってしまった。

10年来の彼女とは本当にいろいろな思い出がある。高校生で出会い、大学は違ったけれど、定期的に会っている。毎日のようにどうでもいいことでメッセージをやりとりした。いいときも、そうではないときも、そばにいてくれてありがとうと思っています。

夕方になり山手線でホテルのある大塚駅へ向かい、チェックインをした。ここへは何度か来たことがある。駅からほど近く、池袋と巣鴨に挟まれたこの街は、なんだか情緒が漂っていて、昔の東京を知っているわけではないのに、安心感があってほっとした。

部屋でひと休みをして、銭湯へ向かう。わたしたちはサウナが大好きで、時間が合えば一緒にサウナに行くことも多い。

サウナは人それぞれ整うタイミングが違う。外気浴の時間は素っ裸だからなのか、心を開放しているからなのか、いろんな話ができる。だからそれそれぞれで楽しむのもいいけれど、一緒に整いの時間を楽しめると、なお嬉しい。嘘がつけない時間を共有すると相手の心がぐっと近づいた気がする。彼女とは整いのルーティンが似ているから、より、サウナ時間が楽しいのだ。

わたしたちはホテルから路面電車の線路を渡り、歩いて5分ほどの「サウナ ニュー大塚」に訪れた。常連客で賑わっていたが、一見さんお断りという感じもなく、むしろウェルカムな感じだった。番台さんの感じがいいとほっとする。

どうやら1階が大浴場で2階がサウナフロア。2階に上がると、たくさんのおばちゃまたちがいた。

靴箱、かわいい

レトロな雰囲気と、寝転びスペースがしっかり確保された脱衣所。一個だけ下調べ不足だったのは、わたしたちにとって大切な外気浴スペースがなかったこと。男湯側にはあるらしい。ちょっと落胆したが、初めての場所にはやっぱり心が躍る。

そういえば、ここ最近、世の中は専らサウナブームだけれど、外気浴やサウナが女性側にはない、とか、男性専用、とかをよくみる気がする。なんでやねん、って心の中で思うけれど、朝の通勤時間の女性専用車両も男性からしたら同じ気持ちだよな、と思って心を鎮めている。

外気浴こそなかったが、わたしたちはふたりともしっかり整った。ここからは今日はもう整ったこの心身を、緩めていくだけ。緩めて、弛めて、ゆるゆるになって、布団に入るだけ。眠りにつくだけ。

近くの居酒屋でぐびっと飲んだビールが美味しかったこと。あの頃はまだやっている居酒屋もちらほたで、閉店時間もはやかった。居酒屋タイムは早めに切り上げて、ホテルで過ごすことにした。ホテルへ帰る途中、駅前のポップアップショップで売っていたカヌレのショーケースに足を止めた。抹茶とアールグレイの味のカヌレをひとつずつ購入し、コンビニに寄って、おつまみとお酒、カヌレ用の紅茶も買った。

ヤグラルームのくつろぎソファでいろんな話をした。途中でやっぱりビールが足らなくなって下にあるOMOカフェでクラフトビールを一杯。

OMOベースと呼ばれるラウンジスペースでは懐かしい曲が流れていた。毎晩やっているDJの時間らしい。この街の雰囲気にぴったりで、思わず長居してしまった。ビールは部屋に戻って飲もうと思っていたけれど、OMOベースですっかり飲み干した。

いつまでも、いつまでも、話は尽きなかった。高校生の頃から、わたしたちはおしゃべりしかしてないような気がするのに、それでもまだ話すことがあった。不思議だなあ。何をそんなに話したかはもう覚えていないのに。

夜が明けてしまうかと思ったけれど、ふっと眠気が襲ってきてわたしたちはヤグラの2階へ上がって、布団に入った。おやすみ、と言ったか言わないかほどに眠りについた。

翌朝、ゆったりチェックアウトをして、喫茶店へ。『湯を沸かすほどの熱い愛』という映画のロケ地らしい。あつあつの珈琲を飲んだ。トーストとともに。喫茶店のモーニングもわたしの好きなもののひとつだ。

Netflixでどのシーンかさらって、ああ、あの席じゃない、なんて会話をした。好きな映画である。何度見ても泣ける。

本当はテレビにもよく出る「ぼんご」のおにぎりを食べに行きたかったけれど、あまりにも長い長い列にあきらめてしまった。

近場旅行はまたいつでも来られるという安心感に無理せず旅ができる気がする。また明日にでもリベンジできる、から、今日はここにしようとスッと決まる。それはときに、もっとサプライジングな出来事に導いてくれるように思う。

今朝だって、こんな風に予期せず、好きな映画のロケ地で好きな俳優の席に座れてしまった。とっておきの思い出ができた。

わたしたちは朝の会話を楽しんだあと、高田馬場を散歩し、本屋に寄り、それぞれ好みの本を買った。早稲田大学まで歩き、芝生に寝転び、学生たちを眺めて、本を少し読んで、そして解散した。

今思い出してもいい天気の日だった。春と夏の間の、1年で一番心地のいい束の間の季節。日常の中にある東京の街は、ちょっと意識を変えればそこはもう立派な冒険の地。彼女は終始リラックスした様子だったし、楽しそうで、わたしも本当に嬉しかった。

これからもきっと、わたしたちは大切なときに旅をする。夜が明けるまで、幾度の夜も明けるまで。何度でも夜を越えよう。


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