連載小説|明日はくるので、|②
アラームの音に目覚めた。
時間は朝の六時。
カーテンを開けると、朝日が登っていた。
都会の高いビルに覆われ、ほとんど見えない。
まあ、そんなもんだよな。
綺麗な白のパジャマをしっかりとたたみ、朝のシャワーを浴びた。変えの下着と、昨日と同じ服を着る。カードキーと財布、それからスマホだけ持って、すぐに部屋から出た。
また小さなエレベーターに乗る。今回は、外国人のカップルらしき男女と一緒。ラフなパーカーとジンズ姿なのが、逆に海外のドラマを思わせた。何が言いたいのかというと、外国人は本当に映えるのだということに驚いたんだ。少しは体力も戻ったということなんだろうか。そうだと助かる。
静かな朝で、小さな空間で一緒となると、小声でも会話が聞こえてしまう。まあ、俺の英語力なんて些細なものだから、意味は理解できないけど。ただ、声のトーンがとても印象的なんだ。やっぱり、日本人の声より低いし、上下が少なく聞こえる。それが不思議と心地いい。魅力的な謎に包まれている。しばらく聞いていたかったけれど、ピーンという合図で試聴は終わってしまった。カップルは会釈をして先に降りて、俺もあとに続いた。
ホテルの一階は、静かではあったけど、昨日の夜と比べれば賑わっていた。食べ物の匂いと食器の音。そして、人のひそひそ声が聞こえてくる。エレベーターからちょっと歩くと、一人二人用サイズのテーブルが並べられた小さなスペースがある。そこで、さっきの外国人カップルを含めた、他の利用者たちがちらほらと座っていた。
さらにその横に、匂いの正体である十種類ほどの料理が、大きな器によそわれている。いわゆるビュッフェだな。洋式であるホテルに合わせてなのか、パンとパスタが主食となるような品揃えになっているようだ。
なんか、妙に眩しいのは、照明のせい、だよな? 多分。
とりあえず、今の俺にでも敷地の低い、パンをメインにしようかな。あとは、スープとサラダと、なんか、お肉料理のこれもちょっと。
こんな綺麗なもん食べるなんて、なんか、あとでツケが回ってきそうだ。
朝食を済ませて、一度部屋に戻った。いやあ、美味しかった。
さて、充電コードなど、昨日の夜に使った小物をリュックに戻しておこう。
他に忘れ物がないか確認して、と。なさそうだな。歯も磨かないと。
あとは、出る時間になるまで、ぼんやりとテレビでも見ていようかな。この時間帯だと、ニュースくらいしか流れてないか。ついでに天気予報も見ておこう。
今日の天気は、晴れ、時々曇り、か。
ベッドの上で、ぼんやりとテレビの画面を見て1時間。
そろそろ出るか。荷物を持って、部屋を出た。
エレベーターでもう一度、一階まで下りた。受付でチェックアウトを済ませて、キャリーバッグをコロコロ転がしながら、俺はビジネスホテルを後にした。
にしても都会って、本当に便利なものなんだな。少し歩いたらすぐにコンビニが見つかる。しかも24時間営業とは、本当にありがたい。入ってすぐに、店員さんが声がけをしてくれた。俺も軽く会釈をしてから、カゴを取って店内を見回す。他にも数名いて、それぞれのコーナーで物色していた。
さて、俺は昼食の調達をしよう。学生時代、とにかくお世話になったおにぎりがずらりと並ぶ。当時は掌に収まりきらないほどの大きさで、全面に巻かれた海苔もしなっとしていたものを食べていた。今でも、多分だけど、食べられると思う。サイズは、思い出の中のものより一回り小さいけど、同じ具材が入ったものをいくつか選んだ。おかかと昆布、鮭にツナマヨ。すぐ隣にある温かい飲み物の棚を見て、テキトウに緑色の包装が施されたボトルをとった。
そこで、唐突に、プリンが目についた。なんとなく近寄ってみる。コンビニにはなんでもあると聞いたから、和菓子もあるんだろうか。ぐるりと甘味コーナーを一周してみると、ちゃんと和菓子のコーナーが別にあるのを見つけた。豆大福とかりんとう饅頭を二つずつ取り、カゴに入れた。あ、地元の名物菓子、荷物のどこに入れたっけ。潰れてないかな、あとで確認しないと。
カゴはビニール袋に変わり、店員の声と客の出入りを知らせる音を背中で受けながら、俺はまた都会の小さな歩道へと出た。ガザガザ、ゴロゴロと、自分の存在を必死に示そうとしているみたいで、荷物の音が耳障りで仕方ない。一刻でも早く落ち着きたくて、俺は足早に歩いた。
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