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テレビ東京『出没!アド街ック天国』からの失礼な依頼に関して(2023/6/1追記〉

※2023/6/1追記。番組担当者から謝罪の連絡を頂戴しました。本稿はもとより個人を指弾する目的ではなく、テレビ制作における外部協力者が受ける不条理を実例を持って示すことが目的でしたので、謝罪の有無にかかわらず、すでに私の目的は達しています。加えて、今回頂戴した謝罪はこちら恐縮するほど丁重なもので、その意味でもこの記事を元にして、関係者および第三者に迷惑が及ぶことを望まないことを再確認します。一部の週刊誌から取材の打診を受けていますが、すべて断っています。これらの理由から、この記事を非公開しても構わないのですが、そのことによって余計な憶測を生むことはさらに避けたいと思いますので、まずは残す判断とします。本文の繰り返しですが、現場で汗水を流している方にはエールを送ります


2023年5月20日に江東区の東陽町が特集され、私は視聴しませんでしたが、SNSなどで知る限り、洲崎パラダイスも紹介されたようです。

さて、私が経営する遊廓専門書店・カストリ書房に、4月下旬に同番組から連絡がありました。特集する東陽町の一丁目は、かつて「洲崎弁天町」という町があり、明治から洲崎遊廓が、戦後は洲崎パラダイスと呼ばれる娼街があったことから、これについて番組で言及する予定であり、「使える写真素材はないか?」といった相談でした。

ここから先は、結論的に言えば、大方予想通りかも知れませんが「テレビあるある」の不毛なやりとりに付き合わされた、というのがあらすじです。

依頼のあった4月下旬から放送日までおよそ1ヶ月弱。連絡にも「なるべくお早いお返事がいただけますと幸いです」と添えられていました。私はテレビ番組とは数回しか関わったことがありませんが、それでもスタッフの皆さんが忙殺される中、しかもときに〝斜陽産業〟とYoutubeを中心に揶揄されているように今や盛りを過ぎて予算や人的リソースも限られるであろう中、テレビ業界にしがみついて良い番組を提供しようと必死な姿には、心打たれるものがあります。したがって、「どうせ不毛なやりとりになるのだろうな」という悪い予感を抱きつつも、打診を貰えれば、もしかしたら何かの役に立てるかも知れないという一抹の希望を捨てず、可能な限り協力したいと考えています。

2018年には日本テレビの特番に出演する機会を頂戴しましたが、やはりスタッフの皆さんの情熱に感じ入りました。正直言えば、違和感を超えて怒りを感じる場面もありましたが、多くの人が関わって創りあげようとする何かには軋轢やトラブルがないといったことなどあり得ず、享受者である視聴者に届けたい想いを思えば、大したことではありません。

今回の『出没!アド街ック天国』も、タイトなスケジュールで進行しているようにお見受けしたので、相談にも可能な限り早くメールを返すよう心がけました。ちなみにこのタイミングはゴールデンウィークではありましたが、YouTuber色街写真家・紅子さんの個展を主催していたため、それなり以上に忙殺されていました。

ところで、2017年にはクラウドファンディングを行い、カストリ書房には遊廓に関連する史資料を収集・所蔵する資料室を併設してあります。能動的に自ら史資料を収集することはもちろんですが、〝器〟づくりが急務であると感じていたからです。今後はいわゆる終活の一環として、史資料を手放す人が増えるのではないか、と予想しました。結果的には想定通り、決して数は多くないですが、提供してくれる方も現れています。その中の一つに、ご自身のお父様が洲崎パラダイスで遊んだときに撮影したという昭和32年の写真十数枚があります。これが先方の求めには好適に思えました。

洲崎パラダイスの大賀と妓。終活の一環でカストリ書房に寄贈されたうちの一枚(無断転載禁止)

テレビ局とのやりとりに話を戻すと、例によって、と言いますか、ギャランティや権利関係などについての記載はありませんでした。ただし、ギャラ以前の問題として、この手のテーマはセンシティブであるため、諸条件について伝える前に「権利処理は使用者の責である」旨を強調して伝えました。要するに何かあったら、そちらがちゃんとケツを拭いて下さいね、と。被写体を特定することなど現実的に不可能ですから、肖像権などの権利処理は不可能です。私としては、金や権利以前に「本当に取り上げる覚悟があるの?」と番組の作り手に問いかけたいのが本音でした。

結果的に、いったんは利用をお断りする返事を貰いました。賢明な判断とも言えましょうが、予想通り、娼街をある種の「賑やかし」としか捉えていない姿勢に落胆したものの、土曜日9時に家族で観る番組であれば致し方ない面も十分理解できます。

が、数日後に責任を了解した上で、改めて使える写真素材の有無について、打診がありました。先方の担当者は社名から判断するに、いわゆる下請けにあたる制作会社の社員で、メールのような些末的な対応を担当しているからには、おそらくは若手さんなのだろうと勝手ながら拝察しました。番組づくりの上層部から改めて指示が下ってきたのかもしれません。曲がりなりにもサラリーマン経験があるので、上下に挟まれる立場の辛さは理解しているつもりの私としては、掌返しであろうとも窓口担当者を労りたくはなっても、責める気持ちは起きません。

このタイミングでようやく、ギャラや放送権(将来的な再放送やパッケージ化)などの諸条件を伝え、所蔵する前述の昭和32年に撮影された洲崎パラダイスのサンプル写真などを送りました。ここまでにメールは4往復ほど行っており、それなりの時間を割いていますが、トラブルを防ぐためには負担の少ないルートではあったと思います。

さて、ようやく終わりが近づいてきました。正直、この手の時系列順の説明は読み手を疲れさせるので、書いている私も安心します。

そして、4月末前後の先方からの「いただきました諸条件で弊社およびテレビ東京に確認を取りまして、改めてお返事させて頂ければ存じます」といった返事を最後に、その後テレビ局からは連絡がぷっつり途絶え、放送予定日5月20日が過ぎたことを、今しがたふと思い出して検索したところ、しっかり洲崎パラダイスが取り上げられていました、という顛末です。「なるべくお早いお返事がいただけますと幸いです」という文面を思い出すだに悲しい気持ちになります。冒頭述べた通り、視聴していないので、他から写真を調達できたのか分かりませんが、代替できたのでしょう。(私から提供したサンプル写真には斜線やコピーライトをしっかり透かしに入れて、故意過失に関わらず使用できないようにしていました。不幸中の幸いです。)

結論的に言えば、今回の『出没!アド街ック天国』の対応はやはり礼儀を失したものです。私も決して愉快な気持ちにはなれません。確かに仕事として契約締結に至ったわけでもなく、これをタダ働きなどと騒ぎ立てる気は起きません。しかし、やはり資料探しや条件面の勘案、スキャニング、画像の透かし処理など様々な稼働が発生したことも事実であり、社会人ならばお互い様として、お断りの返事の一つも頂きたかったところです。

一方で、黄金期からみれば確実に凋落した(こう言い切ってしまいますが)テレビ業界にしがみついて頑張っている現場の方にはエールを送りたいと思います。メールをやりとりしたIさん、万一この記事を見ていたら、お仕事頑張って下さいね。こういう人を大切にできない業界なのであれば、やはり〝終わり〟なのだろうと思います。(今後『出没!アド街ック天国』から取材依頼があっても引き受けるかどうかは、後述の理由からまた別の話です)

こんな一件がありましたが、今後も志ある人・番組からのご依頼であれば、惜しまず協力しますので、どうぞ連絡を下さい。(ここに連絡先を書かないのは、志がない人ほどリサーチ力がないからです)

蛇足を続けると、これまでカストリ書房は、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌などメディアに沢山取り上げて貰いましたが、世間に信頼される古いメディアほど驚くくらい反響がありません。むしろ冷やかし客が増えるだけした。「新聞でみたよ」と切り抜きを持参するなどして、小一時間ほど自説を開陳して何も購入せずに帰る高齢男性のなんと多かったことか──

こうした事が続いたので、私は報道を除く商業媒体の場合、基本的に取材は有償としています。ここまで読んで下さった方も、もし今後、上記のような旧態メディアから取材協力があった場合は、権威を笠に着たような態度を取る担当者に気圧されるかも知れません。が、場合によっては広告効果はゼロどころかマイナスとなり得るので、それなりに稼働が発生する案件ならば取材協力費を請求して有償対応とすることが、私なりのオススメです。

一方、インスタグラムなど個人SNSに紹介された方が、よほど売上に繋がります。例に挙げた業界関係者には申し訳ないですが、彼らの現在の立ち位置を如実に示しています。今回の一件に、さほど落胆しなかったのも、正直なところテレビというメディアに期待していなかったからだろうと、これを書いてきて、自分の心の整理がついてきました。

最後になりますが、本稿のタイトルは、一連のテレビ番組の非礼な対応を告発した、カルロス矢吹さんという方の記事をなぞりました。

そもそも私とカルロスさんの案件は完全に同質ではありませんが、根は同じように思います。この方は構成作家もなさっていたようで、ツイートに「被害者を減らしたい」との趣旨にあるように、私と違って、きっとテレビへの愛情や期待もまだまだあるのだろうと理解しました。以上です。

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