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Eric Tagg「Smilin' Memories」(1975)

GW、たいした連休じゃなかったんですが、やはり連休明けの1週間は、モチベーションを高めるのに苦労しますね~。皆さんは如何だったでしょうか。
ということで、ここは自分が大好きなAORでも聴いて気分をリフレッシュ…、久しぶりのAORの投稿になります。

リー・リトナーとの共演でも有名なエリック・タッグ。彼のファーストアルバムをご存じでしょうか。
本作は当初はオランダでのみの発売であったことから、後にAORブームが巻き起こった時、このアルバムは入手困難な幻のアルバムと見なされておりました。
それにしてもなぜオランダだったのか、実はエリック・タッグが本格的に音楽活動をスタートさせた地がオランダだったのです。1973年にBeehiveというバンドでキャリアをスタートさせ、1975年にはRainbow Trainというバンドに在籍。つまり本作を発表した頃もオランダで活動していたわけですね。
でもエリック・タッグ自身は米国イリノイ州生まれで、オランダ人ではありません。一説にはエリックがオランダ旅行中に身分証明書や財布、帰りのチケット全てを盗まれてしまい、そこで一文無しになってしまったエリックは、仕方なくお金を借りてオランダでバンド活動をスタートさせた…ということらしい。この話、もし本当だとしたら、エリックってなかなかのタフガイですね。

ヴォーカリスト、かつソングライターとしても認められたエリックが、米国で制作したファーストソロアルバムが本作です。全曲、エリック・タッグ作。

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AORの名盤としても名高いこのアルバム、実は若かりし頃のジェフ・ポーカロが全曲叩いているアルバムとしても有名。しかも他の参加ミュージシャンも驚きのメンバー。ギターはリー・リトナー、ベースはマイク・ポーカロ、キーボードはデヴィッド・フォスター。なんと豪華な布陣でしょう。ジェフは21歳、マイクに至っては20歳という若さ。ちなみにエリックは22歳。
ボズ・スギャックスの「Silk Degrees」が1976年ですから、この時点ではジェフもデヴィッドも、まだまだ知る人ぞ知るミュージシャンだったのかもしれません。ジェフもデヴィッドも、後の「らしさ」がここではまだまだ発揮されてません。またこの制作が縁で、後にリー・リトナーはエリック・タッグと「Is It You?」というビッグヒットを共作することになります。

ちなみにこのアルバム、残念ながらサウンド・プロダクションがしっかりしていない印象です。音がモコモコしていたり、バランスが悪い印象なんですよね。AORサウンドというと、音の抜けが非常にいいのが一般的ですが、時代なのか、まだまだそこまで進化しきれておりません。だからこそ余計に楽曲の良さがキーとなってくるわけで、そういった意味ではこのアルバムは楽曲のクオリティが非常に高いと思います。

まずは個人的なお気に入りナンバーをご紹介します。それが⑩「Never Had The Feelin'」。ちょっとソウル風味なポップナンバー。エリックのヴォーカルもちょっとソウルフル。よく聴くと黒っぽいオルガンが聴こえますが、コレ、デヴィッド・フォスターのプレイ。デヴィッドにしてはかなりR&B的なプレイですね。リー・リトナーのギターはソロこそ、伸びのあるクリアトーンで心地いいですが、伴奏のカッティングは結構R&B的。
ただここでのジェフのプレイはそれほど目立ってはいません。というかドラムの音がうまく録れていない印象です。全体的に音もクリアじゃないんですよね。

アルバムオープニングナンバーは軽快なAORナンバーの①「Tell-Tale Eyes」。
もちろんこの当時はAORなんて概念はなかったと思われますが、ちょっと洒落た音楽をやろうとは思っていたのではないでしょうか?
デヴィッド・フォスターが弾くクラビネット、シンコペーションを効かせたリズム隊なんかを聴くと、ソウルからの影響も窺えます。ジェフのドラムはちょっとドタバタしている印象も受けますが、全体的には爽やかなナンバー。

めちゃくちゃシカゴに曲調が似ている④「Steamboat」。
曲が3部構成になってます。最初がホーンを交えたシカゴ風のシャッフルナンバー。そしてムーグに導かれるようにマイナー調の展開に。そしてまた元の明るいシャッフルビートへ展開。こうした曲のアイデアにエリックの懐の深さが窺い知れます。この曲も大好きなナンバーです。

随所に黒っぽいフィーリングが聴ける⑧「After All」。
イントロからゴスペル風な重奏なコーラスが響きます。この曲のエリックのヴォーカルなんかを聴くと、彼がブルー・アイド・ソウル系SSWと呼ばれていることがよく分かります。サビは私好みのちょっと切ないメロディが胸に響くもの。
それにしてもこの曲も音のバランスがどうもよくない。ジェフのドラムも妙にバランスがよくないんですよね。

エンディングナンバーもエリックのソウルフルなヴォーカルが堪能出来る⑪「Hang On」。
サビのシンコペーション・リズムや2番のフロアタム打ちはジェフらしいプレイですね。本来ならもう少しキーボード系の音が大きくないといけないように思いますが、妙にジェフのドラムの音が大きいのがちょっと残念。

1975年というとジェフはスティーリー・ダンの「Katy Lied」に参加し、注目を集めていた頃。どちらが先の録音か、分かりませんが、本作でも若々しいジェフのドラムが楽しめます。
本作はやっぱりエリック・タッグのSSW振りが堪能できる1枚です。ある意味、AOR黎明期のアルバムとも云えます。

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