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わたしはチェリオをほとんど知らない | 20世紀生まれの青春百景 #42

 昭和の清涼飲料水といえば、あなたは何を思い浮かべるだろう?

 平成以降、とりわけ2000年代以降に生まれた人たちにとって、チェリオやセブンアップを飲んだことがあるという人はどの位いるんだろうか。

 わたしは初見健一さんの『まだある。』という書籍を小学生の頃に愛読していたこともあって、当時から昭和文化に慣れ親しんでいた方だった。祖母に連れられ、いわゆるカラオケ喫茶にも入り浸っていたし、周囲の家庭と比べても両親がかなり高齢だったこともある。もちろん、押し付けられていたわけでなく、わたし自身もそういった文化が好きだった。

 ただ、瓶のチェリオだけは一度も飲んだことがない。リターナブル瓶と呼ばれる再利用可能な瓶の容器に入ったもので、お店によっては栓抜きを自動で行ってくれる専用の機材が設置されていたそうだ。

 正確な統計を行ったわけではないが、祖父の葬儀で食事を摂った際に出てきた瓶入りのペプシコーラを飲んで以来、わたしはペットボトル入りの飲料よりも瓶入りの飲料の方が美味しいと信じ込んでいる。どんな魔法が仕掛けられているかは知らないが、あの時に飲んだ瓶入りのペプシコーラは恐ろしいほどに美味しかった。三ツ矢サイダーどころかオランジーナすらも飲めなかった当時のわたしが、何本も飲み干してしまったくらいなのだから。

 2020年ごろに瓶入りのチェリオは販売を終了したため、もはやその風味を確かめる術はない。ペットボトル入りのチェリオは今も販売されているが、チェリオの自販機自体が最近は減っているような気がする。そもそもペットボトル入りのチェリオにそこまで唆られないのは何故だろうか?

 よくよく考えてみると、チェリオの源流であるセブンアップも、ライフガードも、スイートキッスも、一度も飲んだ記憶がない。すっかりチェリオの製品だと思い込んでいたグァバ(南国風情の女性が描かれたパッケージが有名)はオリエンタルマースカレーを製造しているオリエンタルの製品だった。俳優の南利明さんによるスナックカレーのCMで誕生した名フレーズ「ハヤシもあるでョ〜」は未だに色褪せない魅力に包まれている。

 明治のチェルシーが販売終了となったニュースは巷でも話題になったが、近年は食べるのに一手間かかるために販売が伸び悩んだり、駄菓子屋が閉店したり、製造手法が継承されなかったりしたことが原因でその役目を終える商品も多い。梅の花本舗の社長がひとりで長年製造していた元祖梅ジャムはまさに典型的な例で、製造者の高齢化による技術継承の断念や子どもたちの嗜好の変化を理由に2017年末に廃業の道を選んだ。今でも梅ジャムは製造されているが、いずれも元祖ではない。

 普段、わたしたちは昭和時代の文化を何気なく「映える〜」とか「かわいい!」とか言いながら消費している。しかしながら、結局のところ、普段は見向きもされない文化遺産はその辺りに点在していて、そういった部分にスポットライトを当てていくのがこれからの課題でもある。今は人気を集めている文化も継承者がいなければ続かないし、愛好家が少なくなると必然的に市場は縮小していく。だからこそ、好きな人たちが絶えず発信していくことが大切で、わたしにはその使命があると考えている。

 阪田マリンさんはまさにそういった文化の中心にある方で、彼女の発信を見て、かつての見過ごされていた文化を見つけた人も少なくないだろう。当時を知る人からは、いろいろ言われることもある。わたしも「君は渋いね」と何回言われたかわからない。だが、わたしたちにとっては、出逢った時点が新しい文化であって、その魅力に新しいも古いもない。

 そうだ。明日の朝、近所の駄菓子屋へ行こう。

 2024.5.14
 坂岡 優

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