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四月の風に抱かれて | 20世紀生まれの青春百景 #32

 学生時代は永遠だと思ってた。気の置けない友人たちと、ちょっとむかつくクラスメイトと、どこから声が出ているのかよくわからない先生方。時にそんな日々が嫌になるんだけども、わたしには逃げ出すような居場所もなく、次の日にはすっぽり元の場所に収まっている。なんだかんだ言って、わたしは学生時代が好きだった。

 あの頃は転がる石のように生きていた。どこへ行くのも知らないまま、ただ日々の生活に夢中だった。いつか愛した恋人の背中を追いかけながら、昼休みには友人と変な音楽をかけていた。卓球ではわざと空振りしたり、友人と今となっては不思議なノリで盛り上がったりしたのは昔の思い出。今となっては過去の一ページで、いくら振り返っても戻って来ることなんかない。現実世界が嫌いな理由はいくつかあるけれども、どんなに背伸びしたって一パーセントも思い通りにならないんじゃ生き甲斐なんて生まれないだろう。多くの人がそうなんじゃないか。最近、わたしの作品で労働者にまつわる詩が増えているのは日常に対しての飽和状態を示しているのかもしれない。

 こうして四月が終わろうとしているが、結局、四月もほとんど変わらなかった。変わったことといえば、ちょっと明るくなったくらいか。毎月バズろうとしてみて、結局バズらない。人気者にはなりたくないが、人気がないと人生にならない。ここが創作稼業のつらいところで、ほんとうにやりたいことをやるためにはヒット作か出資者が必要で、そこに辿り着くためにもいくつかのステップがある。わたしは三段階目くらいで立ち止まってから、数年が過ぎてしまった。

 つまりは、踏み出せずに数年いると、臆病になるんだよね。何も挑戦できなくなって、そんなに良くもない現状を幸せだと勘違いする。嫌いな人を好きだと思い込むように、下水道の中にいる今さえも良いものだと錯覚するんだ。そうなってしまうとフェラーリをガレージで錆びつかせているようなもので、自分自身の才能すらも無いものだと勘違いする。才能って、わたし自身が肯定しなければ、好きだと叫び続けなければ、誰も振り向きなんかしない。荒野の中だってさ、そこに花を咲かせる人がいたらオアシスになるのだから。

 二十代も中盤に差し掛かろうとした今、わたしは幸せになりたい。恋をしたい。人間によく似た何かから、やっと人間になろうとしている。五月は新しい職場を探す。あるいは、今の職場で今後数年間にわたって取り組むべきことを見つける。今は昨年のこともあるので心身を労っている部分もあるが、ここから先は走り続けなければならない。

 四月の風に抱かれて、わたしはあらゆる日々を振り返る。子羊の群れから抜け出すために、つまらない日々を少しでも輝かせるために。夜明けはまだ遠いが、それでも夜明けに向かって走り続けること自体が大切なんだ。

 2024.4.30
 坂岡 優

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