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レコードの終わり

「久しぶり」なんていう感覚は、私にはもうよくわからなくなってきているわ。最後に会ったのが昨日だったとしてもそう感じるかもしれないし、10年ぶりの再会でもそう思わないかもしれない。「久しぶり」の物差しは一般的な意味での時の長さではなさそうね。

でも今日あなたに会うのは、きっと正しい「久しぶり」ね。そう思わない?


もうとっくに気づいているかもしれないけど、私は話に“オチ”をつけるのがとっても下手なの。話したいことはきっとそれなりに上手に伝えられているはず。でも、最後のところがどうにもうまくいかないのよ。私、なんだか尻尾までちゃんとあんこが入っていないたい焼きになった気分になってしまうの、いつも。

今日もきっと私はそんな出来損ないのたい焼きになろうとしているのだけれども、それでもあなたは許してくれるかしら?


ついさっきのことよ。お昼とも夕方とも呼べない、切ない時刻に、私は小さな喫茶店にいたの。お客は私ひとりで、中年に届かないくらいの男性がカウンター越しに手持ち無沙汰にしていたわ。

ふと、その喫茶店の空気に違和感が忍び込んだことに気がついたの。「違和感さん」が来店されたことだけはわかったんだけど、その姿まではわからなかった。

音楽が止まっていたのよ。流れている時は気にも留められなかったものが、いなくなった瞬間に気にされてしまうなんて、なんだか気の毒よね。

カウンターで手持ち無沙汰にしていたお店の人もしばらくそれに気づいてなかったみたい。ちょっと経ってから「違和感さん」の来店を知って、重い腰を上げてカウンターの端っこに置いてあったレコードプレーヤーをいじって、また音楽を流し出したの。レコードを交換しなかったから、また最初からかけ直したのね。


その時私は、全く同じことをすでに経験していたことにはたと気がついたの。

すぐに思い出せたわ。それは私の中では数少ない、もう思い出したくもない男の人のお家にいた時のことだった。

不思議な人の、不思議なお家だった。そんなに大きくないくせにやけに天井が高くて、長方形の大きな窓が斜めに、ちょうど天井から部屋の一部が切り取られたような形で嵌め込まれているの。その、一部が切り取られた直方体の箱の中には、ヘンテコな形のギターとか、ヘンテコな形のサボテンとか、そういったヘンテコなものはたくさんあるんだけど、普通の家にあるはずのものがいくつも欠落していたわ。

特に「家電」と名のつくものがあまり好きではなかったみたい。テレビ、電気ケトル、炊飯器、そして電子レンジもなかった。一度その理由をやんわりと尋ねてみたら、「必要ないから」の一言だけが返ってきたの。ヘンテコなものたちは必要なの?と訊いてみようかとも思ったけど、ややこしいことになりそうだったからやめたわ。

その日私たちは彼の家ですき焼きを作ったの。ヘンテコなものに囲まれながらだったけど、鍋の中だけはきちんとしていたし、味も悪くなかった。

ひとしきり食べて、ふたりともお腹いっぱいでぼーっとしていたその時に、音楽が止まっていることにふと気がついたの。彼は私からワンテンポ遅れてそれに気づいたようだったわ。徐にレコードプレーヤーのところまでいって、何かをして。そしたらまた音が始まった。

彼もまた、喫茶店の店員さんと同様に、レコードを換えなかった。

改めてレコードプレーヤーから音が流れ出した時、私は彼の元を去ろうと決めたの。私は音楽のない彼の部屋に耐えることができない自分にその時気がついたのよ。こういうのって、わかるかしら?


喫茶店で、この昔の、正直あまり心地よくない出来事を思い出している時、ふと、世の中のありとあらゆることは、実はもう全て経験済みで、今はその過去をごちゃ混ぜにして作られているんじゃないか、って思ったの。新しいことなんて何ひとつないのかもしれない、ってね。

コーヒーを口に運びながら、だとしたら明日を生きる意味なんてあるのかしら、って考えたわ。だってそうでしょ、明日は過去を“こねこね”することで作られているのよ。もう全部“終わったこと”なの。目の前のコーヒーの味だって、すでに知っていることになるわ。


私が話したいことはここまで。いつも通り、特にオチも結論もないの。尻切れトンボで申し訳なく思うわ。きっとあなたはもう慣れっこでしょうけど。

私もレコードみたいに、きちんと終わりがあって、終わったらまた誰かが最初に戻してくれるといいのにな、って思うわ。私はなんだか、同じところを延々と繰り返し再生している壊れたレコードの気分。始まりも終わりもなくて、その上誰も止めてくれないの。

そんな私に、いつも付き合ってくれるあなたにはとても感謝しているわ。本当よ。今日みたいな日には特に、ね。


もし私に「終わり」がきたら、きっとレコードを取り換えてね。約束よ。

それじゃ、またね。


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久しぶりの「お姉さんシリーズ」となった。

ここ最近、どうにもうまくnoteが書けなくて悶々としていたけれども、今日はお姉さんに助けてもらった。蔵前にある「折角堂 東京」で、レコードプレーヤーから音が鳴り止んだ時に、お姉さんが“降りてきた”のだ。

もうちょっと頻繁にお姉さんに降りてきてもらいたいなぁ、と思うけれども、そううまくはいかない。お姉さんもきっと忙しいのだ。

この「お姉さんシリーズ」は、いつものnote以上にどう受け止められるのかがわからず、ドキドキしながらアップすることになるのだけれども、あまり深く考えずに、お姉さんのこのリズムを楽しんでもらえたら本望だ。

またお姉さんが降りてきたら書きます。読んでね。


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