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地図がない

都会では自殺する若者が増えている
今朝来た新聞の片隅に書いていた
だけども問題は今日の雨、傘がない

『傘がない』井上陽水

都会では引き続き自殺する若者が増えているのだろうか。以前に比べると若者の自殺に関するニュースは減ったような気がするが、それは自殺が実際に減少しているからか、それとももはや自殺なんて当たり前になってしまったからか、どちらなのだろう。

それはさておき、私は街からとあるものが姿を消していることにふと気づいた。

地図がないのだ。


横浜の「新治市民の森」までトレイルランニングをしにいった。そこまでハードなコースではなさそうだったので、片道2時間ちょっとかけて自転車でいくことで運動量を補った。

十日市場駅の駐輪場に自転車を止め、駅のコインロッカーにスマートフォンを含め荷物を全て預けた。「新治市民の森」の方角はだいたい頭に入っているし、きっと森だからそれなりに目立っているはずだ、と私は高を括っていた。

それが大きな間違いだった。森の方角を目指して走っていたつもりが、なんと十日市場駅に戻ってきてしまったのだ。普段そこまで方向音痴ではないはずなのだが、今回ばかりはさすがに驚いた。

駅から1kmほどいったところに森の入り口があるとアナウンスまで出ている。まずはそれが指し示す方角を目指して進む。問題はそこから先。


ふと、幼少期に迷子になった時のことを思い出した。あれはきっと小学校の低学年だったはず。いつもなら駅からバスに乗るところを、ちょっとした出来心で、歩いて帰ってみよう、と思ったのだ。

いつもバスで目にしている景色は、歩道から見ると全く異なっていた。そこに夜の帳が折り重なる。不安と共に、私は曲がる場所をどうやら間違ってしまったようだ。

暗い中煌々と輝くコンビニが目に留まった。駆け込む。入り口付近に周辺地図が貼ってある。助かった。


そう、昔はコンビニには地図が貼ってあったはずだ。それは私が住んでいた地域だけだったのかもしれないが、少なくとも私にとって、コンビニに地図があるというのは当たり前のことだった。

それがいつの間にか、地図が貼ってあるコンビニなんてどこにもなくなってしまった。スマートフォンが普及したせいだろうか。それとも地図の代わりに貼るべき広告やらアナウンスが増えてしまったからだろうか。

あるいは、あの30年ほど前に私を救ったコンビニの地図は、私の思い出が作り上げた幻想だったのだろうか。実際にはそんなものはなく、ただの捏造された過去だったのかもしれない。


一縷の望みにかけ、私は手近なコンビニに入った。やはり地図はなかった。森への行き方を店員さんに尋ねるのもなんだか気が引けた。地図のないコンビニなのだ、そこはもう「道案内をする」機能をとうの昔に失っているはずだ。私は飲み物を買ってコンビニを後にした。


その後なんとか森までの道を見つけることができた。それは一段下がった土地に位置していたため、最初は通り過ぎてしまっていたのだ。


気になって調べてみたら、2022年に小中高生の自殺者数が過去最多となり、500人を超えたらしい。都会に限った話かどうかはわからないが、「若者の自殺」は増えているのだろう。

それと傘がないことやコンビニから地図が消えたことは、もちろん直接の因果関係で結ばれるものではない。

ただ、井上陽水のこの曲を聴くたびに、「本当に関係はないのだろうか?」と考えさせられる。根本的な原因は、思いがけないところにあったりするものなのだから。私たちがいつの間にか失ってしまっていた何かが、その原因かもしれないのだ。


テレビでは我が国の将来の問題を
誰かが深刻な顔をしてしゃべってる
だけども問題は今日の雨、傘がない

『傘がない』井上陽水


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