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シクシク泣いてしまう

自分のブランドをやっているデザイナーの友人たちから、「展示会前後症候群」の話をよく聞く。自身のブランド来シーズンのコレクションをバイヤー向けに発表するための展示会の前後に、ひどくブルーになったりイライラしたり、と、ネガティブな感情に苛まれることを指す。人それぞれ多少の違いはあるものの、どんなにそのシーズンのコレクションに自信があっても、またどんなにバイヤーからの評判がよくても、必ずネガティブな感情は襲いかかってくるものらしい。

香水という、シーズン制のないプロダクト特性ゆえに、私はまだ合同展示会への出展を含めて、展示会を開催したことがないが、同じくブランドを運営する立場としてなんとなく「展示会前後症候群」が発症する気持ちはわかる。私の場合は百貨店等での大規模なポップアップの前後にひどくソワソワしたり傷ついたりすることがきっとそれに近い状態なのだと思う。


つい最近展示会を終えたばかりのデザイナーの友人と話していた時のこと。私の目からはここ数シーズンの苦悩と模索からようやくほぼ完全に脱却できたように映ったし、彼自身もその出来にかなり満足していたように見えたが、それでもやはり「症候群」は避けられなかったようだ。しかも彼の場合、元来展示会後の症状がより強く出るタイプだったらしい。

「今回も御多分に洩れず、展示会後にどっとブルーになっていたわけですよ」

渋谷に向かう電車を待ちながら、彼はそう口にした。その言葉の中にはデザイナーという立場の特殊性が生み出すあれこれの軋轢が滲み出ていた。

「ただでさえブルーになっているから、展示会が終わったあとにほしい言葉は、『お疲れ様でした』とか『頑張りましたね、また次も頑張りましょう』とか、そういうものなんですよ。でもね、今回展示会を手伝ってくれた子から、展示会終了直後に今回見つかった課題と改善策の話をされて…家に帰って缶ビール2本飲みながら『ブルージャイアント』観てたら、シクシク泣いちゃいましたよ。号泣とかじゃなくて、シクシク」

痛いほど気持ちがわかった。


私たちのようなデザインしたものを自ら販売しているデザイナーは世間的に見るとかなりのマイノリティであることもあり、気持ちを汲み取ってもらえていないと感じることは多々ある。例えば、自身の作品に対して「好みじゃない」というリアクションをするお客さんの心理は、きっと「その作品の良し悪しの判断ではなく、私個人の好みに照らし合わせたジャッジであるが故に、デザイナーを傷つける意図は全く含まれておらず、許容されるものである」というものだろうが、この言葉は深く作り手を傷つける。なぜわざわざその言葉を口にするのだろう、あるいは口にしなくともネットに書くのだろう、とグルグルと自問自答が始まる。

私たちはその繊細さゆえに、一本の線や香りのアコードに他の人以上にこだわることができる。そしてこだわればこだわるほど、それがどのような形であれ否定されたり理解されなかった時にひどく落ち込んでしまう。

なんとも、悲しい生き物である。


残念ながら立場の違いからうまれてしまう感覚の不一致は解消することがほぼ不可能だ。だから私も、「デザイナーの気持ちを汲み取って!」と強く主張するつもりもないし、逆に私たちも消費者に対して不快な思いをさせている場面もきっとあるのだと思料する。

ただそれでも、お願いだから、展示会終わった直後だけは、そこに評価や判断が入るような言葉は避けてほしい。そして、お疲れ様、とか、頑張ったね、とか、あるいは何も言わずにそっと抱きしめるとか、そういった柔らかさとあたたかさだけを差し出してくれたら、私たちは救われるのだ。

そうしないと、シクシク泣いてしまうから。


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