🍥燻製牡蠣のおぺぺ🍥
鮮魚コーナーで、ぷっくりぷりぷりとした加熱用の牡蠣を見つめていると、
「加熱だけで済むと思うなよ…」
などといった嗜虐的な心持ちになって、矢も盾もたまらずに連れて帰ってしまった。
牡蠣を見かけると煙責めの刑に処したくなる。それが燻製家という生き物の宿痾なのだ。
早速、刑を執行していこう。
牡蠣に塩少々と片栗粉をまぶし、優しく揉み洗いする。汚れが濁りとなって出てくるので、水に泳がせてざるに上げる。
この揉み洗いを3〜5ターンほど繰り返して汚れを落とすのだが、生の牡蠣というものは女心のようにセンシティブだ。丁寧に扱い、時には恋の相談にでも乗って涙のひとつでも拭ってあげるといいかもしれない。
次に、牡蠣を茹でていこう。
「牡蠣の中心温度85〜90℃」を90秒の加熱でノロウイルスは死滅する。安全基準まで中心温度が上昇することと、縮んで硬くなることを防ぐ意味で、湯をグラグラと沸騰させずに85〜90℃をキープして4〜5分間茹でていく。
茹で汁は漬け込みに使うので、出てきた灰汁は取り除いておく。牡蠣のうまみが溶け込んだ茹で汁は、炊き込みご飯や鍋の出汁、首筋などに付けて牡蠣臭の香水などと嘯いて他を圧倒したりと、多岐にわたって活躍してくれること請け合いだ。取っておくことをおすすめする。
3倍濃縮のめんつゆと、粗熱を取った牡蠣の茹で汁を1:1で割り、牡蠣を冷蔵庫でひと晩漬け込む。
めんつゆは、漬け込み液を作るのが面倒な燻製家の味方だ。
漬け込んだ牡蠣をざるに上げ、ある程度めんつゆの汁気を切ったら、50℃で2〜30分の軽い温熱乾燥にかけていく。
温〜熱燻における温熱乾燥(結露対策)の重要性は、前回のベーコン燻製編に記してある。幼子の子守唄として読み聞かせるのにうってつけかもしれない。
牡蠣はオイル漬けにすることが前提だ。そのオイルに香りを移すことも踏まえて、サクラにピートを加えた強めの燻材を選定する。
上記の燻材を都度足しながら、50〜60℃で30分の燻製を3ターンほど繰り返す。
そして、全盛期のハル・ベリーがごとく眩い褐色の牡蠣が出来上がった。
燻製を終えた食材は休ませるのが一般的だが、前述のとおりオイルに香りを移すのも目的のひとつだ。すぐに保存瓶に牡蠣を詰め込み、潰したにんにく、鷹の爪を加えてオリーブオイルで封をする。
冷喑所で3日〜1週間ほど寝かせ、牡蠣のオイル漬けの完成だ。キチンとオイルで封をしていれば2〜3週間の保存も可能だが、魚介類の恨みほど胃腸にとって恐ろしいものはない。なるべく早めの消費が無難だろう。
一週間後、保存瓶を開けると、あまりの芳しさに脳がスポンジ状となって昏倒しそうになる。
相乗効果で極上となった牡蠣とオイルに菜花とパスタを絡め、非合法な昼食が完成した。
燻牡蠣、菜花、にんにく、スパゲッティーニをごそっとフォークで絡みとって口に放る。
あゝ…
などと、語彙が消滅した挙げ句に薄気味の悪い吐息が漏れ、ふと妻を見やるとデ・ニーロがごとく表情になって「コレコレ…」と呟いていた。
美味しさのあまり、配偶者がR・デ・ニーロに変容することは、往々にしてあるものだ。
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