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Sick & Tired by the Cardigans
ただでさえ一年の終わりに近づくにつれ気忙しくなる11月。今月になってから急に寒くなって、体調も崩しがち。わたしは仕事で徹夜の会議が続いたりしたのもあってどうも疲れが取れない。それだけが理由ではないのだけれど、気分も乱高下してちょっと休息が必要かな、なんて思っている。 Sick and tiredってのは「もう懲り懲り」みたいなニュアンスの慣用句。なにか不愉快なことが続いて勘弁してくれぇってな気分のときと風邪をひいたりして体調が良くないときは共通した感覚だから、どちらも現実から離れた休息が必要で、それでsickとtiredは関連づけられる語なんだななんて思ったり。 1990年代に流行ったThe Cardigansはわたしもリアルタイムで聴いていて、そういえばそんなタイトルの曲があったっけなと思い出した。彼らが今も活動しているのかどうか知らないのだけど、北欧の学生バンドが荒削りな演奏とニュアンスある歌声で人気が出たのはバブル崩壊後の病んだ世相にマッチしていたんだろうかなんて考えてしまう。他の国の様子はわからないけど。 Symptoms are so deep Something here's so wrong Nothing is complete Nowhere to belong なんて聴くとやっぱり病んでるな。で、それから30年近く経った今もそんなところに共感できるのは世相と自分の状況に共通点があるからなのかもしれない。 こうして一年の疲れが溜まってくると、休み休みやり過ごしつつも、そんな経験から学んで来年以降に活かして、われわれは困難を乗り越えてきたのだし、これからもそうでなければ参っちゃうんだよな、だからしんどいときの経験からも何かを得ておく視点が必要なのだね。 そうそう、カーディガンズはLive and learnなんて曲も歌ってた。和歌でいう返歌みたいなもの?にしては毒づきすぎか。ふと気がついた。どちらも英語の慣用句だから、スウェーデンの学生グループには新鮮な外国語として学んだフレーズだったのかも。そう思うとちょっと微笑ましい。うん、疲れ果てていようがうんざりしていようが、どこかほっこりできるポイントを見つけられると良いかもしれない。
Jesus' Blood Never Failed Me Yet by Gavin Bryars with Tom Waits
数日前にブラッドストーンについて書いたときに取り上げた「イエスの血は決して私を見捨てたことはない」、最後にはったリンクは1975年の約25分のレコードバージョンだったけれど、わたしが初めに聴いたのは1993年にリメイクされた約74分のCDバージョンのほうだった。 じつはこれ、先月も紹介したトム・ウェイツが参加している。ご賢察のとおり、わたしはトムがらみで聴いて知った。 トムが深夜ラジオを聴いていたとき、1975年のレコードバージョンが流れてきたらしい。キャスリーン夫人の誕生日の深夜3時だったとか。延々と繰り返される老人の素朴な歌声に釘付けになり、トムのお気に入りになった。後年、トムが英国ツアー中にギャヴィンに直接「レコードを無くしたから買いたいけど、廃盤になっていて手に入らない、譲ってくれないか」と連絡したという話がある。もちろんギャヴィンはマネジャーのもとに残っていた1枚を進呈。 それからおよそ10年後、現代オペラ「ブラックライダー」を観にニューヨークを訪れていたギャヴィンのほうからトムにリメイク盤への参加を持ちかけて実現したのが1993年のCDバージョン。倍以上の長さになったこのリメイクの後半部分、この世のものとは思えぬ(←褒め言葉)ドスの効いた嗄れ声のウェイツ節バックコーラスが印象的。 便利なもので今はフルレングスだけでなく、この後半部分のみでもネットで聴けるのだからありがたい。 無名の老人の口ずさんだフレーズの素朴さに寄り添うようなトムの太い声と弦楽合奏。 わたしはクリスチャンではないので厳密な意味でこのフレーズの重みを実感はできない。けれど、あちらこちらで物騒なことばかりで不穏な現代には、現状に感謝してすこしでも希望がもてる「見捨てられない」という視点は、異教徒てあっても大切にしたい感覚だと思う。