「エンゼルスの兜」はどのような意味を持つか

大リーグのロサンゼルス・エンゼルスは、今季から本拠地エンゼル・スタジアムでエンゼルスの選手が本塁打を放った際、ダッグアウト前で日本の兜をかぶせる演出を行うようになりました[1]。

この演出は昨季の途中から始まり、2022年は本拠地での本塁団の際にカウボーイハットをかぶせていました。

様々な帽子がある中でカウボーイハットが選ばれたのは、球団の創設者である歌手で俳優のジーン・オートリ―のあだ名が「歌うカウボーイ」(The Singing Cowboy)であったことに由来します。

一方、今回日本の兜が採用されたのは、球団の中心選手の一人である大谷翔平選手にちなんだものです。

もとより、『蜘蛛巣城』(1957年)、『影武者』(1980年)、『ラストサムライ』(2003年)といった映画などを通して、日本の鎧兜や刀剣は世界中でも広く知られています。

あるいは、現在ではオンラインゲームでも日本の戦国時代や武者は親しまれる存在で、海外からの留学生の中にはこれらのゲームによって日本語や日本の文化に親しむ人たちも少なくありません。

その意味で、大谷翔平選手の球史に残る傑出した活躍が、球団にとって選手たちを鼓舞する演出に兜を起用させることになったのは、当然かもしれません。

それとともに、最初の年が球団の設立の経緯に由来し、2年目が中心選手にちなむということは、大谷選手の存在感の大きさだけでなく、エンゼルスという球団を舞台に米国にとって外来の文化である日本の文物がもたらされることに他なりません。

こうした異なる文化の導入と接触は、一面において人々の異国趣味を喚起するだけに留まり、それ以上の役割は果たさないかもしれません。

それでも、兜を通して日本の文化や歴史に興味を抱く人が一人でも現れれば、異文化への接触に始まる文化交流の契機がもたらされます。

このように考えれば、一つの兜には、頭にかぶせ、選手たちの一体感を醸成するといった即物的な効果だけでなく、様々な可能性が秘められていると言えるのです。

[1]Arka Mukherjee, What is the Los Angeles Angels home run hat inspired by? All about 'Kabuto' headpiece used in new celebration. sportskeeda, 11th April 2023, https://www.sportskeeda.com/baseball/news-what-los-angeles-angels-home-run-hat-inspired-by-all-kabuto-headpiece-used-new-tradition (accessed on 12th April 2023).

<Executive Summary>
The Traditional Japanese Helmet Has a New Meaning as Cultural Contact (Yusuke Suzumura)

The Los Angeles Angels celebrates a player who hit a home run at the Angel Stadium with the kabuto, a traditional Japanese helmet, in the season of 2023. On this occasion, we examine the meaning of this direction.

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