【追悼文】中根千枝先生について思い出すいくつかのこと

去る10月12日(火)、社会人類学者の中根千枝先生が逝去されました。享年94歳でした。

アジア、西ヨーロッパ、日本を比較することでそれぞれの地域の特性や固有の構造を明らかにしてきた中根先生の業績は広く知られるところであり、主著『タテ社会の人間関係』(講談社、1967年)は今も版を重ねる現代の名著です。

日本社会論については、ジョン・エンブリーの"Suye Mura: A Japanese Village" (1939)に代表される農村研究や戦後のエドワード・ノーベックの"Takashima" (1954)、ジョン・コーネルとロバート・スミスの"The Japanese Villages" (1956)、リチャード・ビアズレー、ジョン・ホール、ロバート・ワードによる"Village Japan" (1959)などが農村における、そしてロナルド・ドーアの"City Life in Japan" (1958)が都市生活者の中の「イエ」の構造に注目し、福武直が『日本村落の社会構造』(東京大学出版会、1953年)の中で講組結合と同族結合の概念から「イエ」の研究を行うなど、長らく「イエ」が大きな問題とされてきました。

そうした中で、中根先生は日本の「イエ」研究の成果を取り入れつつ、ご自身がインドなどで参与観察を行った結果も積極的に援用し、日本の社会における「場」の強調や「ウチ」と「ソト」の意識の持つ構造を実証的に明らかにしたのでした。

『タテ社会の人間関係』については、私も2017年度と2018年度に法政大学大学院人文科学研究科日本文学専攻修士課程で担当した「日本文学・国際文学基礎演習」と、今年度から担当している日越大学日本学学士課程プログラムの講義"Japanese Society in Comparison with Vietnamese Society"で日本論の代表的な研究として取り上げ、留学生や外国の学生の皆さんとともに内容を検討してきました。

特に日越大学での講義ではルース・ベネディクトの"The Chrysanthemum and the Sword: Patterns of Japanese Culture" (1946)とカレル・ファン・ウォルフェレンの"The Enigma of Japanese Power" (1989) とともに、「日本社会の『秘密』とは何か」という観点からお話し、ヴェトナムの学生の皆んさんが「タテ社会」について強い関心を示したのは大変に印象的でした。

改めて中根先生の学恩に感謝するとともに、ご冥福をお祈り申し上げます。

<Executive Summary>
Miscellaneous Memories of Professor Dr. Chie Nakane (Yusuke Suzumura)

Professor Dr. Chie Nakane, an anthropologist, had passed away at the age of 94 on 12th October 2021. In this occasion I remember miscellaneous memories of Professor Dr. Nakane.

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