求められる「残業代の見直し」を超えた教員の処遇改善

5月13日(月)、文部科学大臣の諮問機関である中央教育審議会の特別部会は公立小中高校の教員の残業代の代わりに基本給の4%を上乗せする教職調整額を10%以上にすることなどを盛り込んだ素案を了承し、文部科学省は2025年の通常国会において教職員給与特別措置法(給特法)の改正案を提出する方針となりました[1]。

公立学校の教員採用試験の受験者数が年々減少し、2023年度の小学校教員の採用倍率が過去最低を記録するものの[2]、教員の賃金の引き上げには文部科学省はもとより各自治体も消極的で、勤務時間に応じた残業代が支払われないというのが実情です。

人材の確保が難しい業種や地域では労働者の賃金を引き上げることで働き手の繋ぎ止めを行っているのが実情であり、従業員100人未満の中小義業を対象に2018年と2023年の都道府県別の賃金の上昇率を比較したところ、最も高い伸び率を示しているのは宮崎県で、これに高知県、愛媛県、茨城県などの地方の自治体が続いており、東京都、大阪府、愛知県などの大都市圏をしのいでいるという結果が示されています[3]。

これは、人材の確保が比較的容易な大都市圏に比べ、県内での労働力の調達が難しい地方部が人手を繋ぎとめるための方策として賃金の大幅に上昇させているためです。

市況の改善を受けた賃上げではなく人材流出の回避という受け身の賃金上昇ながら、労働者の処遇の改善という点では妥当な措置と言えます。

一方、教育産業の中核を担う公立の小中高校の教員については適正な対応がなされているとはいいがたい状況が続いているのが実情です。

そのような状況を考えれば、給特法の改訂を行わないまま事態を看過してきたことがもたらした構造的な問題が採用倍率の低下という形で現れているのであり、他の産業と同様に処遇の改善を通した人材の確保は不可欠になります。

教育は一国の発展の根幹であることを念頭に置くなら、公教育の担い手である教員の処遇の大幅な以前は日本の国民と国家の利益にかなうものに外なりません。

為政者には大局的な観点からも、労働者への相応の対価の支払いという点からも、公立小中学校の教員の置かれた状況をよりよいものにするために尽力することが望まれます。

[1]教員「残業代」50年ぶり前進. 日本経済新聞, 2024年5月14日朝刊39面.
[2]教員採用試験、1カ月前倒し. 日本経済新聞, 2023年6月1日朝刊38面.
[3]中小賃上げ、必死の地方. 日本経済新聞, 2024年5月12日朝刊1面.

<Executive Summary>
What Is the Importance of Improving the Working Conditions of Teacher of Public Schools? (Yusuke Suzumura)

The Special Committee of the Central Council for Education submitted the plan to improve the working conditions of teacher of public schools to increase the amount of special adjustment money to the Education Minister on 13th May 2024. On this occasion, we examine the importance of such policy to maintain and develop the future of the public education.

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