見出し画像

神ゲー「グノーシア」感想:まるで人狼版「風来のシレン」



100回(以上)遊べる人狼ゲーム


人狼ゲーム、ご存知ですか?
複数人で、人間チームと狼チームに分かれてプレイするのゲームです。ゲームと言っても、テレビゲームじゃなくて実際に集まって、嘘をついたりつかれたり、話し合いながら騙し騙されを繰り返していくゲームです。

最近は芸能人の方が遊んでいたりするので、やったことの無い人でも名前くらいは聞いたことがあると思います。プロゲーマーさんも雪山人狼こと「Project Winter」っていうゲームされてたりして、改めて最近フォーカスされてきてるのかな、って印象です。


人狼とは

人狼、これは正式には「汝は人狼なりや?」というパーティーゲームのことを指しています。
テレビゲームではなく、複数人で集まって遊ぶゲームで、基本的には参加者が村人と人狼それぞれの役割に分かれて遊ぶゲームですね。
参加者はゲーム開始時に、村人または人狼の役割を担うことになりますが、基本的に役割は自分の役割しかわかりません。隣の人が村人役なのか、人狼役なのかは不明です。これを、会話と推理で推測していくゲームになります。

ゲームはゲーム内時間で1日ごとのターン制になっており、昼に全参加者の多数決で1人を選びゲームから除外。夜に人狼側が1人を選びゲームから除外し、最終的に人狼が全員ゲームから除外されるか、村人が除外され人狼と村人の数が同じになったらゲーム終了です。前者は村人チームの勝利。後者は人狼チームの勝利です。

他にも特殊能力を持った役職なんかもあるんですが、一旦それは置いておいて。基本は上記のようなルールです。
ゲームのコアとなっているのは、自分が村人なら村人のふりをしている人狼を会話の中から見つけること。または、自分が人狼ならいかにうまく嘘をついたり会話をコントロールして、自分を村人であると周囲に信じ込ませるか。この、会話と論理的思考、観察眼と堂々と嘘をつく度胸など様々な要素からなる心理戦が魅力です。

人狼、個人的には大体今まで年に1回くらいやる機会があって、ルールを忘れた頃にまた誘ってもらえるんですが…私、めちゃくちゃ下手だし人を責めるのも責められるのも苦手なのですぐミスしちゃったりするんですよね。上手い人は本当に上手くて、頭の回転が全然違うな…ってびっくりします。

そんな私でも、めちゃくちゃに楽しめて、140回近く人狼をプレイしたのが、先日NINTENDO SWITCH版が発売されたゲーム「グノーシア」でした。


「グノーシア」とは

上記の人狼ゲームをテレビゲームの中に落とし込んだゲーム、それが「グノーシア」です。

販売は株式会社メビウス。開発はプチデボット。公式サイトやインタビューを読む限り、プチデボットさんは4名のゲーム開発者からなるチームのようです。まさに、インディーゲーム。


ゲームの物語設定としては、「宇宙船の中に、人のふりをしている『グノーシア』という感染者がいる。そいつらをみんなで推理して見つけ、コールドスリープさせる。ただし、グノーシアは毎日1人を襲撃する」というもの。まんま人狼です。

人のふりをしているグノーシアを全員コールドスリープさせるか、グノーシアと人間が同数になるとゲーム終了。これが1セット。
そしてこのゲームは、1セットが終了すると時間がループされ、また人狼がスタートします。ループされた際にグノーシア=人狼は誰なのかはリセットされるため、また推理し直す、つまり新規人狼が始まるのです。
1セットが終わると、主人公が生存した日数に応じて「経験値」が得られます。

人狼ゲームを行い、勝っても負けても1セットが終わり、いくばくかの経験値を得て、また新たな人狼がスタートする。これがこのゲームのコアなシステムとなります。もちろん、プレイヤーがグノーシア…人狼側になることもあります。これをひたすら繰り返します。100回以上。

画像3

「それって、飽きるんじゃない?」と思うかもしれませんが、これがまた、飽きないんです。毎回毎回、新鮮な気持ちでプレイできる。この、「もう1回、もう1回人狼やりたい」と思わせるデザインが本当に緻密に作られているなと唸りました。



システム面からのリプレイ性

具体的には、先ほど記載した「経験値」システムがひとつです。
そもそも、プレイヤーと人狼をするのはNPC。そして、最大参加人数は15人。つまり、プレイヤー1人とNPC14人で人狼を行います。特殊能力を持った役職なんかは、1度のプレイで3人4人と名乗り出たりする(2,3人のNPCが嘘をついてくる)ので、頭も回らないし最初は全然勝てません。特に人狼に慣れていなければなおさらです。勝てなければ面白くないのは、どんなゲームにも大筋で共通すると思います。

そこで生きてくるのがこの経験値。
経験値を用いることで、主人公のステータスをアップさせることが出来ます。ステータスには、「カリスマ」「直感」「ロジック」「かわいげ」「演技力」「ステルス」の6種類があり、それぞれ下記のような特徴があります。

画像2

これらのステータスをアップさせることで、例え人狼が物凄い下手だとしても、どんどん勝利に近付くことが出来ます。

例えば、直感を鍛えればNPCが嘘をついていることを見抜くことが出来ます(「この人物は嘘をついている…」とゲーム上で主人公が気付きます)。これで、嘘をついているグノーシアを見破ることが出来ます…が、一方でNPCの嘘に気づいたところで、それを他のNPCが信じてくれるかどうかはまた別の話。
むしろ、そんな強気の発言を怪しまれ、逆に自分に多数決の票があつまり、自分がコールドスリープの対象となってしまうことも多々あります。人狼を遊んだことがある人なら、100%嘘をついている人が分かり、論理的に説明したつもりでも、なかなか信じてもらえなかった経験ってあるんじゃないでしょうか。

では、そうならないため…周りのNPCに信じてもらうためにはどうするか。
NPCが嘘の発言をした際、論理的に自分の頭で嘘だと気づき、そこから周りのNPCに投票を促すようなアクションをすることが一つ。これはプレイヤーの人狼スキルが必要です。

そしてもう一つが、先ほどのステータスの中の「カリスマ」のステータスを上げること。「直感」のステータスを上げ嘘を見抜き、「カリスマ」の能力を上げることでみんなが自分の意見についてきてくれるようになる。これで怪しい人物をコールドスリープ=ゲームから除外し、勝利に一歩近づいた。これで完璧…と思いきや、あまりに目立った行動をしたため、その夜にグノーシアに襲われてしまう(人狼に襲われてしまう)。ではどうしたらいいかというと、今度はもっと目立たないようにしつつ怪しい人物に票を集めるよう行動するか、「ステルス」という能力を上げてなるべく狙われないようにしないといけない…。


まとめると、人狼ゲームが得意で論理的に嘘をついている人を見破り、話の中で自然に怪しい人物に票を集めさせられるようなプレイヤースキルがある人はそのままプレイすればいい。
しかし、それでは私のような人狼苦手プレイヤーは遅々として物語が進みません。その救済方法として存在するのが、この経験値によるステータスアップ。
足りないプレイヤースキルを、ゲーム側のシステムでバックアップしてくれるのです。

これによって、人狼ゲームで負けた→負けたけど経験値が手に入った→その経験値でステータスアップできた→次はゲームシステムがアシストしてくれるから勝てるかもしれない、といった流れが出来上がり、飽きさせないゲームプレイを実現しています。

画像7


さらにこのステータスというものが、他のNPCキャラにも設定されているところがまた魅力のひとつです。
例を挙げれば、ククルシカというキャラクターはかわいげの能力が大きいです。すると、なかなか他のNPCが投票先としてククルシカを選んでくれません。
また、コメットというキャラクターは「直感」が強いため、他のNPCの嘘を見破ってくれます。そのため、コメットが怪しんだキャラクターは嘘をついていると思ってもいいかもしれません。もちろんそれは、コメットがグノーシア側(人狼側)で無い場合に限りますが…。

このように、キャラクターの能力や特徴、そして性格なんかも把握してのゲームプレイが重要になってきます。人狼ゲームを繰り返すことで各キャラクターについての理解も深まるので、自然と攻略法も思いつきます。同じ人狼ゲームをやっているようで、やればやる程プレイヤーが有利になっていくのです。

コツを掴めば超不利な設定でも勝利可能
(ゲーム中盤から人狼の数や役職の有無は自分で設定可能)


そしてもちろんそれだけではなく、ルールや条件などプレイヤーの勝利に対する障害も徐々に発生してきます。その瞬間はまた勝利が難しそうでも、やはりステータスアップやNPCについての理解を深めることで、だんだん勝利できるようになっていくのです。

本来会話と推理という、形に出来ないような要素を、ゲームの中で形にしてしまい、なおかつ何度も繰り返してプレイしたくなるようなシステムのおかげで、140回弱人狼をプレイすることが出来ました。

画像3


ストーリーからのリプレイ性

システム面だけではなく、ストーリーもまた人狼ゲームを何度もしたくなるような仕掛けがされています。

なぜこの世界はループしているのか。各キャラクターはどのような生き方をしてきたのか。なぜそんな見た目をしているのか。
わからないことだらけだったスタートから、何度もループを繰り返し何度も人狼を行うことで、新たに知ることが出来る情報が増えていきます。ループしても記憶が継続している主人公=プレイヤーが、全てを把握するのは、ゲームをクリアしたそのときとなります。
そのために必要な情報を、何度もループして集めます。

だから、ただの人狼ゲームでは無く、どこかでストーリーの進行に繋がるかもしれない人狼ゲームとなっているのがこのグノーシアの特徴です。同じような人狼をプレイしているようで、一回も同じではないのが、また魅力です。

画像4


個人的にこのゲームで感じたのは、この「何度も同じことをやっていながらもプレイヤー側にとって飽きのこない作りになっている」というところです。
しかしもちろん完璧ではなく、ステータスが上がると逆に楽勝になる場面もあり、作業感があるなと思ったところもゼロではありません。あと、先に進む条件が分からなくて攻略サイトを見たことも1回だけあります。

とはいうものの、会話が中心の人狼をゲームに落とし込んだうえ、同じ行為を繰り返すことをループ物のストーリーと関連付け、これだけ面白い、完成度の高い作品となったグノーシアは間違いなく傑作です。

このゲームって、よく考えると決められたシナリオが無いんですよね。
もちろんストーリーはあるし、エンディングもあるけど、そこに至るまでの過程っていうのが完全にランダムで。

何十回も人狼やって、そのたびに誰かの話が進んだり、進まなかったり。誰かと親密になればそのキャラクターの話が進展するかもしれないけど、そもそも人狼でお互いが生き残らなかったら話が進まなかったり。

その辺が、ほぼランダムなわけじゃないですか。だって、NPCが14人もいて、プレイヤーが言葉を発しなければ14人が勝手に話し合って勝手に投票先決めて、勝手に人狼ゲームが終わるんですよ。もしかしたらそれでストーリーが進んじゃうかもしれない。

もはや、プレイヤー1人でストーリーを動かすことが出来ないんです。ステータスを上げていけば出来るようになるかもしれないけど、それでも完璧じゃない。RPGで、魔王を倒そうと言ってもパーティーのメンバーが断るかもしれない。世界の半分を魔王がくれるという話を断っても、パーティーのメンバーが承諾して、多数決で負けてしまうような。そんな、コントロールできないゲームがグノーシアでした。

これってめちゃくちゃに気持ち悪くて、めちゃくちゃに魅力的だと思うんです。NPCは人間ではないけど、でもどう頑張ってもコントロールできない。エンディングに至る過程が、プレイヤーごとに違う。発生するイベントも、それぞれのプレイヤーによって違うし、コントロールできないんですから。

画像5

初日の投票先のコントロールはステータスを上げてもなかなか難しかった



プレイヤーそれぞれの物語が形成される、ナラティブ・ゲーム

ゲームを表現する言葉のひとつとしてナラティブという言葉が使われ始めてから数年が経っていると思います。「ストーリー」は完全に作り手からの受け手への一方通行な伝わり方だと定義して、「ナラティブ」はプレイヤーがゲームという環境で自分自身の物語を作り上げるものと定義するなら、グノーシアは紛れもなくナラティブ・ゲームと言えるでしょう。


人狼ゲームの部分は、ともすれば総ゲームプレイの中では圧縮できる部分だと思います。1回1回に深い記憶はありません。これが、同じ推理系のゲームであるダンガンロンパや逆転裁判なんかでは、1回の推理の比重が重いため圧縮は出来ません(もちろん似ているコンセプトはありつつもゲームデザイン自体が全然違いますが)。

しかしこの圧縮できる要素と言うのはいわばプレイヤーが歩いてきた道のようなもので、エンディングに向かって平坦な道を歩いたプレイヤーもいれば険しい山道を登ったプレイヤーもいますし、ずぶ濡れになって川を渡ってエンディングにたどり着いたプレイヤーもいるかもしれません。
通った道の一歩一歩が1回の人狼です。それぞれの回について覚えてはいないものの、その一歩は確実に物語の経過を形作っています。

画像8

140回弱もプレイしていれば、誰が何度グノーシアに襲撃されたかなんて、
全く覚えていません。


そしてどのような道になるかはプレイヤーが選べるわけでもなく、面白くも恐ろしいのはゲームの制作者が完全にレールを敷くことも出来ないのです。

「開発者が147柱の神々に業務委託をする」という言葉の不安定さと魅力


ストーリーもエンディングも決まっていて、同じようなプレイを何度も、それこそ100回以上行うのに飽きない。そしてクリアするころにはプレイヤーそれぞれの思い出や体験となる。
「風来のシレン」に似ていると思いました。もちろんダンジョンもないですが、ローグライクに対するローグライトというか、ナラティブな視点からすると似ているような感覚を覚えました。それをこの…ビジュアルノベルと言っていいのかわかりませんが、こういったテキスト主体の形式でやり遂げてしまったのが、眩しいくらいの新感覚でした。

画像6

ゲームシステム、そしてストーリーから何度も人狼を行う魅力を生み出し、そしてエンディングまで至る過程を開発者も完全にはコントロール出来ず、プレイヤーがそれぞれ独自な体験を経てエンディングへと帰結するこのゲームは、先ほどの記事ではないがまさに神が宿っていると言っても過言ではないのではないでしょうか。



誰もコントロール出来ていないうえに、それはただのランダムではなく、NPC同士の複雑なやりとりから紡がれ、100回以上の人狼が同じ結果になるプレイヤーは、ただの一人もいません。

ファミ通・電撃ゲームアワード2019では、
当時Playstation VITAという普及率が突出して
高いわけではないハードでの発売だったにも関わらず、
ユーザー投票で1位を獲得しベストインディー賞を獲得。



終わりに

グノーシアをクリアしたおかげで、それまで勝率10%程だった人狼が、クリア後は50%まで上がりました(本当)。
同じ役職が2人以上いたらどういう立ち回りをすべきか、とかについてが一瞬で浮かぶようになったんですよね。グノーシアのおかげで。盤面整理がやりやすくなったというか。

人狼を遊んだことが無くても、私の様に人狼が苦手でも、そしてもちろん人狼が好きで得意な人も、きっとこの「グノーシア」は楽しめると思います。

一度体験し、NPCとの人狼に没頭し、そして文字通り自分だけの物語を体験してみるのはいかがでしょうか。
きっとこのグノーシアをクリアする頃には、どこにでも量販されているゲームでは無く、唯一無二の思い出がこもったゲームになっていると思います。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?