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書評 #55|蹴日本紀行 47都道府県 フットボールのある風景

 宇都宮徹壱による、四十七都道府県のサッカーにまつわるエグゼクティブサマリー。歴史の要点も丁寧に網羅されている。

 筆跡は淡々とし、時に自虐的でもある。しかし、そこには日本列島を踏破した、思いや感情、喜怒哀楽が込められている。山の上から、森の奥まで。比喩ではあるが、時に郷愁さえも感じさせる力がある。それが読者の肌によく馴染む。

 筆者は車の運転が大の苦手と言う。しかし、運転しないからこそ、見える風景があり、訪れる出会いがある。取材には数多くの形が存在するだろう。しかし、取材対象に肌で触れることが一つの正解であるならば、本書はその象徴と呼べるのかもしれない。

 サッカーと街。クラブの存在理由における大義の有無によって、両者の関係性が幸福であるか否かも測ることができるのではないか。

 読者の眼前に浮かぶような写真の数々。手の届く場所にある言葉。旅に出ることは難しい。しかし、旅を手中に運んでくれる、そんな一冊である。


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