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書評 #97|戦術リストランテVII 「デジタル化」したサッカーの未来

 サッカーの試合において「成功」と定義されるプレーの再現性を高めるべく、ポジショナルプレーに代表される戦術の自動化が流布されて久しい。本書の作者である西部謙司はサッカーの「デジタル化」「カーナビ化」「マニュアル化」という言葉に置き換え、消化された分かりやすい言葉を通じて概念を読者へと届ける。

 デジタル化がサッカーにおける最先端であり、正解のような印象を受ける。守備から攻撃への円滑な移行を促し、その逆も同様だ。しかし、サッカーの要所であるゴール前に眼を向け、ゴールや決定機を創出する決め手が天才たちによるひらめきや類稀なる技量であり、総じて再現性の低い一点もののアナログ的要素であることも説く。「ズラタン・イブラヒモヴィッチが答え」という表現が象徴的だ。

 個人スキルの欠如を「味が薄い」という比喩になぞらえることは大量消費材を連想させる。その濃淡の中でサッカーを実践することが重要であり、それはその狭間で生きる我々の人生そのものではないだろうか。その奥深さ、底のない見えない器の大きさに人々は魅了される。

 サッカーを俯瞰的に見つめた作品ではあるが、
 
「動きのベクトルを逆にして複数のスペースと選択肢を作る」
「バランスを崩さずに数的優位を作るスポーツ」
 
などといった言葉はサッカーの戦術的本質に深く入り込み、編み出された見解だ。マクロであり、ミクロ。その幅の広さも魅力だろう。尽きない魅力の探究に個人は魅了され、チームや国は成熟度を増していく。「デジタル化」はサッカーについて体系立てて考えることとも言えると感じ、その先に何があるのかを的確に言い表した本書の言葉も最後に紹介したい。
 
「なぜそのようにプレーするのか。ポジショニング、システム、技術、選手の補強など、様々な議論ができる。何も決まっていないのでは議論にならないので、モデルがあるのは重要だ。議論が増えればそれはやがて文化になる。クラブにとっての財産になる。人々とクラブを結ぶ絆にもなる」


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