まほうつかいと やさしいおんなのこ
むかし むかし、まほうつかいが
いたころの、こわいやら かわいそうやら
うれしいやらの おはなしです。
でてくるのは、おにいさんの ピーター、
いもうとの アンナ。 ふたりの
おかあさんは はやく なくなり、
おとうさんも こんど なくなりました。
こちらの くろいふくの おばさんは、
ニどめの おかあさんで、わるい
まほうつかいです。
つれ子も、とても いじわるむすめです。
さあ、はじまりますよ。
ーぬきながらー
まま母「おまえたちに たべさす ものは
ないんだよ。」
まま母「これは、わたしたちの おしょくじだよ。
おまえたちは、じぶんの たべものを
さがして うろつくと いいや。」
いじわるむすめ「おまえらの とうさんも かあさんも
しんだんだ。とっとと でていきな。
ここは わたしらの いえだよ。」
まま母と いじわるむすめは、
にくらしそうに わめきました。
ピーターと アンナの きょうだいは、
くやしいし、かなしいし、
どうしようもなく いえを でました。
ーゆっくり ぬきながらー
まま母「ヒッ ヒッ ヒッ。ごらんよ、
あの しょぼくれた かっこう。」
いじわるむすめ「かあさん、やったね。とうとう
おいだしたね。」
まま母「ああ、せいせいしたよ。けど、もりには
くだものや きのこや たべものが
どっさりある。そこで、かあさんの
うでの みせどころだ。
だれでも 水を のまずには おれない。
もりには いずみが ある。 あの 水に
まほうを かけて、のめば けものに
なるように してしまおう。
きょう 一にちで いい。あくまさま、
あくまさま、いずみの 水を
のむ ものを、けものに
かえてくだされー。」
いじわるむすめ「うわぁ、すごい。どんな けものに
なるか みたいな。フッフッフッ。
なにも しらずに もりへ いくよ。」
ーぬくー
どこまでも どこまでも おおきな
もりの なか。 ふとい 木が えだを はり、
ひんやりした かぜに このはが ゆれ、
ときどき きこえる とりの こえ。
どこまで いっても きりがない
ふかい ふかい もりです。
アンナ「おにいさん、ここで くらしましょう。
たべられるものは どっさり あるわ。」
ピーター「そうしよう。むかしから もりの
なかでは たべものに こまらない。
むかしから、もりで くらすひとは
たくさんいた と、とうさんも
いっていたよ。
あっちに ほらあなが あるよ。
あそこへ いこう。」
ーゆっくり ぬきながらー
ピーター「かれはや おちばが ベッドだ。」
ピーター「さあ、できた。いい おうちが
できたよ。」
アンナ「くたびれたでしょう、おにいさん。」
ピーター「ああ、のどが かわいて カラカラだ。
ここへ くるとき いずみが あったね。
あの 水、のんでくる。
アンナも いかないか。」
アンナ「わたしは いかないわ。おにいさんも
がまんしてよ。もりは くらいし、
きょうは やめましょう。」
ピーター「いや、のどが カラカラ、ちょっと
ひとはしり、いってくる!」
ピーターは いずみに つきました。
ーサッとぬくー
シカになったピーター「アッ!キュウーン。」
いずみの 水を ひとくち のんだ
ピーターは アッと いうまに 子ジカに
されてしまいました。
おそろしい おそろしい まほうつかいの
しわざです。
シカになったピーター「キュウーン、キュウーン。」
子ジカになった おにいさんは
かなしげに なきました。
しかたなく、おにいさんの 子ジカは
ほらあなに もどりました。
「キュウーン、キュウーン」と なく
子ジカを みて、アンナは すぐに
おにいさんだと わかりました。
アンナ「ああ、なんということ……。」
ーぬきながらー
アンナ「おにいさん、この ネックレスを
つけていて。」
アンナ「お水を のんで シカに なるなんて。
これは、おそろしい まほうよ。
でも、まほうなら きっと、
とける やりかたが あるわ。
おにいさん、この ネックレスは
おかあさんの かたみよ。
おかあさんが まもって くださるわ。
げんきを だして いっしょに
くらしましょう。
アンナの こえを きいて、子ジカの
にいさんは コクン コクンと
うなずきました。
(すこしの間)
ーサッと ぬくー
とつぜん、つのぶえの ひびき、
いぬの ほえる こえ、ワーワーと さけぶ
ひとの こえ、うまの かける ひずめの
おとが、しずかな もりに
ひびきわたりました。
かり です。この くにの おうじが
へいたいを つれて、もりの けものを
おいたて、うちとろうと やってきたのです。
しずかな もりは、アッというまに
おおさわぎに なりました。
ーさっと ぬくー
へいたい「シカだ、とらえろ!」
しきかん「ころすな、いけどりに しろ!」
ワン、ワン!ワン、ワン!
しきかん「いけどりに しろ!かこめ かこめ!」
子ジカは すきが あれば にげようと
しにものぐるいです。
へいたい「やったぁ、つかまえたぁ。」
ーさっと ぬくー
王子「まて、まて!」
うまに またがった おうじが、子ジカの
ネックレスを みつけました。
王子「この シカは ふしぎだ。
くびかざりを している。
くびかざりを した シカが もりの
なかに いるとは、どういうわけか。」
おうじは さっぱり わかりません。
でも、子ジカも はなす ことが
できません。と……。
ーいそいで ぬきながらー
アンナ「もうしあげます。」
とつぜん、かわいい おんなのこが
かけよったので、おうじは おどろきました。
アンナ「この シカは わたしの あにです。
いずみの 水を のんで、シカに
かえられました。
いつか きっと にんげんに
もどります。
どうぞ おたすけください。」
おうじは、アンナの にいさん おもいの
やさしさと うつくしさに うたれ、
ふたりを おしろへ つれていく ことに
しました。
ーゆっくり ぬきながらー
そうして、どうでしょう。
それから、どうなったでしょう。
アンナと おうじは めでたく
けっこんしたのです。
にいさんが 子ジカに されたのに、
アンナが おうじさまの およめさんに
なるなんて、ほんとうに よのなかのことは
わかりません。
この めでたい けっこんしきは、
くにじゅうに しらされました。
さあ、これを しった まほうつかいの
まま母が いかりくるって なにをするか、
それは、あとの おたのしみ。
(前編おわり)
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