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夢の街、アグラバー

ディズニーシーに、アラビアン・コーストというエリアがある。

映画「アラジン」の世界を再現した、エキゾチックなエリア。玉ねぎ型の建物が建ち並び、インド風カレーが食べられるレストランがある。

アラジンは具体的な国や時代を舞台にしているわけではないそうだ。トルコ、イラン、中国、いろんな国の要素が取り入れられているという。

・・・とは言うものの、ジャスミン姫が住むお城のモデルは明らかにタージ・マハルである。そして、そのお城がある街は「アグラバー」。実物のタージ・マハルがある「アグラ」の街が、映画のイメージにかなり濃く寄与してるのは間違いない。

小学生の時から、ディズニーシーのアラビアン・コーストを歩くたび、他のエリアにいるときとは違う気持ちになった。

「本物が見たい」。

本当にこんな市場はあるんだろうか?店の軒先に無造作に器が積まれ、美しい形をした窓が並び、日除けのタープが連なるような市場が?

その街を、自分の足で歩いてみたい。

本物はきっと埃っぽくて、もっと怪しくて、もっとうるさくて、そしてもっと美しいんだろう。そんなことを毎回思ってた。だけど、友達とポップコーンほおばりながらそんな話はなかなか出来ず、いつも自分の中でひっそりと「いつか本物を」と思っていた。

学生時代も物怖じしてしまいインドには行けず、アグラの地を踏めたのは社会人になってからだった。

本物のアグラの街には、詐欺師がいて(アラジンも泥棒なんだけどね)、牛がいて、物乞いがいて、牛がいて、牛がいて、たくさん牛がいて、ベッドにアリがいて、濃くて熱いチャイを出す店があって、偽物の宝石を売りつける人がいて、想像以上に埃っぽくて、一瞬たりとも落ち着かない場所だった。でも、日本の誇る「夢の国」よりも、もっと美しかった。もっと切実で、生きる力がきらめいていた。

これからもまた私はディズニーシーに行くだろうし、そのたびに、友達にアグラの話なんかできるわけもなく、そっと「本物」を思い出して懐かしむのだと思う。そしてこっそり、また行きたいなんて考えるのかもしれない。


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