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移動時間を愛してる話

私がいちばんリラックスして好きなことに取り組めるのは、移動時間かもしれない。

そもそも乗り物に乗るのが好きだ。飛行機も船も新幹線も、高速バスも。朝の通勤電車と、やんちゃな友人の運転する車は除くけど。それ以外ならなんだって。

そこにお気に入りの音楽と美味しいコーヒーがあればもう何も言うことはない。窓の外、移ろう景色を見ているだけでもいいし、それが異国ならなおのこと楽しい。

悲しいかな、生まれたときから天賦の才能のようなものは1つももっていない。けれどその代わり(?)無敵の三半規管をそなえて生まれてきたので、揺れる車内で本を読もうが文字を書こうが乗り物に酔うことはない。たぶんジェットコースターに乗りながら本を読んでも酔わないと思う。やらないけど。

だからしょっちゅう本を読む。移動中に読む本は、読んだあとも特別な思い出になる。読んでるあいだに眺めた景色や、かいだ香りと一緒に記憶に残るから。

外国を旅するときは、その土地にゆかりある本を読むのが好きだ。

たとえばインドなら、椎名誠の「インドでわしも考えた」。キューバなら、ヘミングウェイの「老人と海」。イギリスなら言わずもがな「ハリー・ポッター」に「シャーロック・ホームズ」。ニューヨークなら「キャッチャー・イン・ザ・ライ」「グレート・ギャツビー」そして「ティファニーで朝食を」。

行きの機内で読めば、実際に旅してるときに「ここがあの場所だ!」と物語の舞台を訪れて楽しむこともできる。

帰りの機内で読めば、自分の旅と本の中の光景を重ね合わせながら思い出すことができる。

移動時間の使い方は読書だけじゃない。旅日記を書くのにも最適だ。家に帰ってから書こうとするとたいてい失敗する。家に帰り着いたら疲れて眠ってしまうし、一晩たてば脳みそが勝手に情報を削除してしまってたりする。だから、忘れたくないことは移動中に書く。箇条書きでもいいから、とにかく書いておく。

テンションの上がる映画のサントラや、10年ぶりに聞くJポップなんかに浸るのも楽しい。ただ、前にいちど夜行フェリーのデッキの上でうっかりタイタニックをかけてしまったことがあった。しまった縁起悪いぞ、と思って曲を変えたらリトル・マーメイドの「アンダー・ザ・シー」が流れてきた。ほっとしかけたけど、もっと良くないことに気づくまで10秒かかった。

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移動時間はほかにやれることが少ないから、読んだり書いたり、ただじっと音楽を聴いたり、そんなふうに時間を使うことが「許されている」ような気分になる。

家事からも、仕事の電話からも解放された束の間のエアポケットのような時間。

移動したいから旅に出る、そんな本末転倒な旅も悪くないかもしれない。

サポートいただけたら、旅に出たときのごはん代にさせていただきます。旅のあいだの栄養状態が、ちょっと良くなります。