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【屋久島空港問題 ♯5】 「新規事業採択時評価」と評価の基準

1,500 mでも1,800 mでも就航可能なジェット機があるにもかかわらず、本計画が2,000 m滑走路に固執していること、2,000 m延伸案の急浮上と鹿児島県の態度急変がリンクしていること、パンフが実は住民を欺くものでしかないことを、前回までにお話ししました。

パンフが掲げる2,000 mの根拠についても徹底検証するつもりですが、今回はその前段として「新規事業採択時評価」と評価の基準についてお話しします。聞きなれない言葉ですが、パンフp2にも掲載されているとおり着工までに必須の手続きなので、しっかり押さえておきたいところです。 

図1  パブリックインボルブメント/住民参画用パンフレット、p2


国庫から120億円以上の補助を受ける本計画


「新規事業採択時評価」を実施する国土交通省は、その目的と対象を以下のように説明しています。 

目的 公共事業の効率性及びその実施過程の透明性の一層の向上を図るため、新規事業採択時評価を実施する。新規事業採択時評価は、費用対効果分析を含め、総合的に実施するものである。

評価の対象とする事業の範囲  対象とする事業は、国土交通省が所管する以下の種類の公共事業(中略)
・直轄事業
・独立行政法人等施行事業
・補助事業等(国庫からの補助、出資または貸付にかかる事業をいう)

評価を実施する事業 1事業費を予算化しようとする事業 (以下略)

「国土交通省所管公共事業の新規事業採択時評価実施要領」


これを読んでまずひとつわかることは、本計画に対する国の補助金は少なく見ても120億円以上になるので、本計画は補助事業として、新規事業採択時評価の対象になるということです。

荒木町長 「事業費には150億円以上かかると言っているが、おそらくそれくらいではできないと思っている。国が8割、県が2割で町の持ち出しはほとんどない。」

議会だより令和2年(2019年)9月号

「新規事業採択時評価」は国の予算をつけるか否かを決める手続き


さらに評価を実施するのが「事業費を予算化しようとする事業」であることから、次の関係が成り立ちます。

新規事業に採択 =事業費を予算化する(国庫から支出する)
新規事業に不採択=事業費を予算化しない(国庫から支出しない)

新規事業に採択するか否か、予算化するか否かを決定するのが、国交省が実施する「新規事業採択時評価」です。

同じ国交省でも道路事業ではありますが、新規事業採択時評価について
効率性と効果を確認し、事業実施の必要性を厳しくチェックするもの」と端的に説明しており、その結果次第で予算がつくか否かの明暗がくっきりと分かれるのです。
国土交通省 新規事業化採択時評価の概要

本計画も120億円以上の補助金がもらえなければ着工不能で、事業計画もご破算になるので、新規事業採択時評価は死活的に重要です。

5つの評価項目と評価の基準


上記国交省の文書にも書かれていたように、事業の種類を問わず最も重視されるのは費用対効果分析ですが、航空関連事業の整備目的と内容ごとに、それぞれ異なる基準もあって、一覧表にまとめられています。

図2 「一般空港における新たな空港整備のプロセスのあり方 案)」


 図2の表のうち整備目的ごとに異なる評価の基準については、屋久島空港が該当する段を赤で囲み、どの整備目的にも共通する評価の基準については青で囲んで、以下に抜き書きしました。

 

事業の必要性/整備目的ごとの評価項目と評価の基準 (整備目的ごとに示した全ての評価項目が評価の基準を満たすこと)        表Ⅱ‐1

整備目的  :ジェット機の就航
整備内容の例:滑走路新設または延長(2,000m級化)

事業の必要性/整備目的共通の評価項目と評価の基準      表Ⅱ‐2

 

全ての事業に共通する最重要の費用対効果分析については、便宜上評価項目の5として挙げておきます。

国土交通省「新規事業採択時評価の概要」 

屋久島空港における評価基準


以上の5つが本計画に直接かかわる評価項目と評価基準ですが、乗降客が一定以上いなければ滑走路を延伸しても宝の持ち腐れだし、肝心の就航会社が見つからなければやはり絵に描いた餅なので、納得の基準1,2だと思います。

3はジェット機の就航という目的のために、代替手段も検討したうえでの最適解が滑走路延伸なのかという話で、既に見てきた通り本計画では大きな疑問符がつくところです。

4は次回に詳述しますが需要予測手法の適切性を求めるもので、5は 事業費用と効果(便益)の比較。
次回以降でこれら5項目をきっちり検証していきたいと思います。


念のため上記1,2の評価の基準を屋久島空港の実態に即し、極力具体的にかみ砕いておくとこんな感じになります。

 屋久島版評価基準1 「羽田直行便に11万人」

羽田‐屋久島ジェット機直行便において、新規就航までに年間11万人以上の乗降客が見込めること。

屋久島版評価基準2 「ジェット機就航の確約」

羽田ー屋久島ジェット機直行便(B737-800か A320)を就航する確約が、新規事業採択時評価までに航空会社と成立すること。

おまけ1 パンフの評価の基準はナンセンス


「滑走路を延伸するために必要なこと」 
(1)関東ー屋久島間の航空機需要が見込まれること
(2)関東ー屋久島間にジェット機の就航が見込まれること

屋久島空港滑走路延伸協議会 (パブリックインボルブメント/住民参画用パンフレット)

 パンフもp6に評価基準1,2について書いていますが、(1)は肝心かなめの11万人を削除したので、何人でも構わないからとりあえず需要があればよい…みたいな全くナンセンスな文章になっています。

図2の表Ⅱ‐1の2段目、大型ジェット機の就航を目的として2,500 m級化に新設または延長する場合の基準は、年間50万人以上の需要見込みです。

このように人数そのものが基準値になっているのに、パンフはその数値を消して、全く意味不明な一文にしていまいました。

なぜこんな骨抜きにしたかといえば、実際の乗降客数と基準値11万人との乖離を隠したいからではないかと思われます。例によって隠匿の手口です。

おまけ2 丘珠空港の評価項目と評価の基準は屋久島とは違う


丘珠空港は滑走路延伸の目的が、雪によって就航できない冬季でも就航を可能にするためなので、新たな航路を開く屋久島とは全く違う評価の基準になるはずです。

これを確認してみましょう。丘珠空港の場合は、表Ⅱ‐1の7段目、整備目的「運航制限(貨客等搭載量制限)緩和」に該当すると考えられ、評価の基準は要するに、「冬季に運航制限が起きている現状と、滑走路延伸により制限解消が見込めること」です。

一般空港における新たな空港整備のプロセスのあり方 案)

丘珠関係の資料はこの基準に則って、あらゆる角度から具体的、客観的に説明、説得しています。

 


記事まとめ


【屋久島空港問題 ♯0】 「屋久島空港の滑走路延伸計画」は2,000 m滑走路の必要性を捏造している ~その首謀者と目的は?~

【屋久島空港問題 ♯1】 2,000 m滑走路の目的は、屋久島‐羽田間のジェット機就航。1,500m滑走路でジェット機就航中の空港もあるのに。

【屋久島空港問題♯2】 1,500m、1,800mでもジェット機が飛ぶなら、2,000m滑走路の必要性はない

【屋久島空港問題♯3】 鹿児島県の態度急変と同期する2,000m滑走路。因果関係があるのでは?

【屋久島空港問題 ♯4】 情報隠しとウソとごまかしのパンフ

【屋久島空港問題 ♯5】 「新規事業採択時評価」と評価の基準(←現在の記事)

【屋久島空港問題 ♯6】 需要予測なんかしないで出した “偽りの需要予測” 14万人

【屋久島空港問題 ♯7】 14万人よりかけ離れて少ない実績値(関東からの鹿児島便乗降客数)

【屋久島空港問題 ♯8】 羽田直行便就航後は軒並み採算ライン割れ それでも就航する航空会社は?

【屋久島空港問題 ♯9】 関東方面からの旅費低減と時間短縮で、223億5千万円の経済効果?!

【屋久島空港問題 ♯10】 屋久島町の急激な人口減少

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