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ウズベキスタン diary 2 「真夜中の空の上から」

2019年10月4日、日本時間の夜22:00過ぎ。韓国の仁川国際空港で5時間ほどトランジットの時間を過ごし、空港内で美味しい海鮮チゲを食べてから出発。

タシケントに向かう飛行機の中。
照明が落とされた機内で、なんとなく寝たり本を読んだりして過ごす。

目の前の小さなモニターによると、今は中国の地方都市の真上を飛んでいるようだった。
窓の外には大きめの三日月と星。地上も同じように点々としか光が見えなかったけど、今、眼下にはオレンジ色の光で煌めく大きな街が見える。

なんだか魔女の宅急便のワンシーンを思い出す。キキは箒に乗って。私は飛行機に乗って新しい街を空から眺めている。ここは何ていう街なんだろう。機内に備え付けられているモニターの、大雑把な航空地図には表示されていない。もう暫く行くと伊寧という都市があるらしい。 (後からこの時に撮ったiPhoneの写真を見てみると、なんとこの場所は新疆ウイグル自治区と表示されていた)

きっと一生行くことの無いだろうこの街にも、こんなにたくさんの人の生活があるんだよな・・・と知らない街に行くといつも、遙かな気持ちになってしまう。私の周りなんて本当に世界の一部分。

行きたいところに行けて、幸せだ。感謝。

飛行機がタシケント国際空港に着陸すると、乗客から拍手が起こった。きっとそういう文化なんだろう。ちょっとびっくりしたけど、そうだよね、無事に着いて嬉しい。何で飛行機が空を飛んでるかなんて、よくわからないしね。

薄暗い中、タクシーの客引きがたくさんいる。ホテルに送迎をお願いしておいたはずだけど、それらしき人の気配は無い。暫く待ってみたけど来なさそうなので、ずっと近くで話しかけてきていたタクシーの人にお願いする。片道5ドル。相場が分からなかったけど、今思うと少し高めだったかな。

初日に予約していた宿、イチャンカラ・プレミアムクラスホテルはbooking.comでも凄く評判が良くて楽しみにしていた。建物の中に入り、中庭を抜けて部屋に行くまでの廊下の雰囲気が、なんだかロシアっぽい(行った事は無いけど)。そう、ウズベキスタンは旧ソ連圏。薄暗く、暗い色彩の大きな絵画が飾ってある。

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(廊下に飾ってあった人物画の絵画は何だか怖くて写真に写せなかった。)

部屋は突き当たりの1番端。予約時に静かな部屋を希望する、という欄があったのでチェックを入れておいたんだけどなるほど、何の音もしない。人の気配も無い。

疲れたのでシャワーを浴びて早めに寝る。
物凄くふわふわの枕であっという間に就寝。

朝、目が覚めると雨の気配がした。

でもここは砂漠の近く。雨はサッと降っただけですぐに光が射してきた。ウズベキスタンでは年間で雨が降る日が30日程度というから、これはまさしく恵の雨、と言えるのかもしれない。渡航前の情報だと、とにかく乾燥するからマスクは必需品、とか朝晩の寒暖差が激しいから調整しやすい服装で、と書かれていた。

朝食をとりに、中庭を抜けてレストランに行く。バイキングは朝8時からという事だったけど、私達が一番乗りだった。随分ゆったりとしている。日本だったら旅先での朝食が8時って遅い方じゃ無いだろうか。それなりに大きなホテルなのに朝から活発的に動こうという人は少ないらしい。

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ここで私はこの旅最初の、印象的な時間を過ごすことになった。

バイキングは物凄く豪華で、見慣れない野菜が美しく並んでいた。嬉しかったのは、シュガースティックがあったこと。これ・・・!と静かに興奮した。シュガースティック。

昔読んだ、世界のお茶を集めた本で紹介されていた。私はこの本を眺めながら、行った事のない世界を旅していた。どこの国だったかも覚えていないけど、この美しい鉱物のような、キラキラしたお砂糖の塊がついたスティックを紅茶に入れて、カップの中でくるくると溶かしながら飲む。その優雅な行為そのものに憧れていた記憶が蘇ってきた。

もの凄くキラキラしている。お砂糖の純度が高いからこのように結晶化するらしい。

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一人テンションが上がっていると、バイオリンとクラシックギターの生演奏が始まった。

最初の一曲が物悲しく郷愁を誘う音で、あぁ、中央アジアに来たんだな、と実感した。聴いたことは無いはずなのに、懐かしい。

バイオリンの人が本当に上手だった。ギターに合わせて、心の琴線に触れる音を出してくる。良いなぁと思っていたら、一曲弾いた後、彼は何処からか電話がかかってきたようで、急いで帰ってしまった。すぐに次のバイオリニストが来たけど、この人の演奏はそんなに・・・というか、最初の人が凄すぎた。淡々と短調に弾くのじゃダメなのね・・・とここでも自分の制作と重ねて合わせて考えていた。


今の私は個展直後で、まだ余韻が残っている。
この個展で私は生命力について考えた。
生命力を感じられるものが、美しく人を惹きつけるものなのでは無いか、ということ。

旅をしていると、どうしてもその時自分が関心のある事や悩み、つまり自分の内側と向き合うことになる。

バイオリニストの彼がどんな人生を送っているかなんて全く分からないし、もう二度と会う事は無いだろう。でもあの時私の身体に響いた瞬間は確かにあって、私の中にずっと残っていく。そういう、美しい時間を作り出していく人になりたい。

そんな事を考えた、ウズベキスタン1日目の朝。

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