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娘が「歯がグラグラする」と言い出した。
「さわってみて」と言われ、さわってみると下の前歯が少しグラグラしていた。

娘はまだ約5歳半。
え!?
もうそんな時期!?
早くない!?
私のときはもう少し遅かったような…。
と、娘の成長に驚いた。

娘は、前日の晩に不思議な夢を見たらしい。
たくさんの腕のない人、足のない人に囲まれていた。
そのなかで、同居している祖母(私の実母)が現れ、「足、抜こうか?」と聞いてきた。
娘は、その夢がとても怖かったらしい。
そして、その日の夕方、「歯がグラグラする」と言い出した。
同居の祖母は、ただいま絶賛歯の治療中。
インプラント、だったか、それよりも高額で高度な治療だったか。
最近、毎日、歯の話をしてくる。
(毎日話されているのに、治療内容がインプラントだったかどうかが分からないなんて、話をきちんと聞いていない証拠である…。)
その、歯の治療中である祖母が、孫の夢に出てきて「足、抜こうか?」である。
私は、娘が予知夢を見たんじゃないかと思った。

そして、ただいま歯がグラグラしている娘本人。
当然ながら、歯がグラグラしていることが気持ち悪いらしい。
また、はじめてのことで、「歯が抜けるときは痛いんじゃないか」と、断続的にしくしく泣いている。
特に、ごはんを食べるとき、歯を磨くときにボキッといきそうで怖いらしい。
私は、私自身の経験から、歯が抜けるときはまったく痛くないよ、と何度も言い聞かせた。

爪切るとき痛くないやろ?
髪切るとき痛くないやろ?
たまにアンタの抜け毛落ちてるけど、髪抜けるとき気づかんぐらい痛くないやろ?
お母さんもお父さんも、アンタぐらいのときに歯抜けたけど、全然痛くなかったで!

爪を切る、髪を切る…のたとえはイマイチ的を得ていない気もするが、ほかに娘が理解しやすいたとえが思いつかなかったので、繰り返し繰り返し伝えた。
それでも、断続的に恐怖の波がやってくるようで、娘がしくしく泣いては、私たち親があの手この手のたとえや経験談を引っ張り出して慰めた。

ちなみに、年長の娘は今、ヨコミネ式の教育方法を採用している幼稚園に通っており、現在、三点倒立をマスターし、逆立ち歩きの練習をしているところである。
三点倒立、逆立ち歩きのほうが、歯が抜けることよりもよほど怖い気がするのだけれど…。

娘の歯といえば…。

娘が赤ちゃんの頃、歯が生え始めたときのことを思い出した。
娘はまだ0歳。
当然、歯が生えはじめたことなんて言葉で伝えられない。
ある日、ふと、娘が私の指をつかんで、自分(娘)の口に突っ込んだ。
そのときに触れたのだ、生えはじめた娘の歯に。
娘はきっと、親である私に、口の中に何か得体の知れないものが生まれたことを伝えたかったのだろう。
この、1歳にもなっていない娘の行動。
「私の娘、天才!!」と思った。(親バカ)
歯が生えはじめたことと、それを自分なりに方法を考えて伝えてくれたことについて、めちゃくちゃ褒めた。(親バカ)

そして、また、歯といえば…。

娘の歯がグラグラしてきたことで、私の歯の生え変わりの記憶も蘇った。

まず、私は、歯がグラグラしてきたことを不思議には思ったけれど、親の説明を聞いて、わりとすんなり納得をした。
昔は、本当にボーッとした大人しい子供だったので、特に恐怖心も湧かず。
順調に歯は抜けていった。
母は、私の歯が抜けるたび、上の歯ならば家の周りの土に埋め、下の歯ならば屋根に向かって投げた。

一度だけ、それができなかったことがある。
母の実家への帰省から帰宅途中、特急で車内販売をしている、好物の「小鯛雀鮨(こだいすずめずし)」を食べた。
鯛の押し寿司のようなものである。
当時、私はどこか1本の歯が、今にも抜けそうなほどにグラグラしていたのだけれど、気にせず目の前の好物をたいらげた。
食べ終わったあとに、歯が1本なくなっていることに気づいた。
私は、気付かぬうちに、小鯛雀鮨と歯を胃に流し込んでいたのである。

また、こういうこともあった。

これも、母の実家に帰省中のことである。
私には、1つ年下の同性のいとこがいて、母の実家に帰省となれば、そのいとこと遊ぶことが楽しみだった。
ただ、そのいとこはケンカになると手が出るタイプで、ケンカのたびに泣くのは年上の私だった。
ある日、ケンカになって、いとこが私の顔を正面から「バチンッ」と叩いた。
当時、私は、上の前歯2本が中途半端にグラグラしており、その「バチンッ」で、歯が勢いよく2本ともボキッといってしまったのだ。
当然、まだ中途半端にしかグラグラしていない歯だったので、めちゃくちゃ血が出たし、めちゃくちゃ痛かった。
私は、大号泣した。
その歯は、母の実家の小さな庭に埋められた。


安心材料として良いのか悪いのか分からないけれど、これらの経験談も娘に話しておいた。
そのうえで、

あんまり指で触ると、お母さんのときのように無理やり歯が抜けて痛い思いをするから、あんまり触らんようにね。
歯を磨くときは、お父さんやお母さんが、いつもより優しく磨くからね。

と、伝えた。

それでも、寝る間際までしくしくしていたので、これは1本目の歯が無事に抜けるまで、毎日続くのかもしれない。

……少し、憂鬱である。


※画像はお借りしました。ありがとうございます。



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