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短歌エラム Vol.1 【まつげ】

テーマごとに選んだ短歌を紹介するシリーズ

“エラム”とは選ぶ、えらむとも言う。このマガジンでは、毎月わたしが参加している「短歌好きが集まりテーマに沿って選んできたうたを詠む会」で持ちよられた短歌を選りすぐり紹介する。(各自つくった短歌を発表する会ではない)

Vol.1は、この会に入って初めて自分で決めたテーマ「まつげ」のうたをいくつか。まずはわたしが選んだ7首。

嫌だった短い睫毛が粉雪を受け止めるような君との出会い

三原由起子『ふるさとは赤』

硝子街に睫毛睫毛のまばたけりこのままにして霜は降りこよ

浜田到『架橋』

赤まんま犬も見てをりあきかぜに睫毛ながくて涼しいですか

小島ゆかり『希望』

人間のふり難儀なり帰りきて睫毛一本一本はづす

石川美南『離れ島』

まつ毛というまつ毛が電波狂わせて終夜よい子でいるキャンペーン

平岡直子『みじかい髪も長い髪も炎』

わが腕にしがみつく子と見ていたり黒き睫毛の撥ねる牛の眼

吉川宏志『燕麦』

夕焼けをまつ毛にのせて狂いしは女か、犬か、窓か。おやすみ

奥田亡羊『男歌男』


このテーマを選んだ理由のひとつとして、じまつげ(自前の睫毛)が短いのがコンプレックスということが挙げられる。マツエクしてるけど、まつげ美容液つけてるけど、じまつげ短め。まつげビシッと跳ねあがってるパッチリしたお目目に憧れがあるのだ。主催のK氏(男性)はこのテーマが決まったとき、初めて自分のまつげをまじまじと見たという。男性ってあまりまつげのこと気にしないのかしら。

さて、選んだうたについて…。三原由起子さんのうたは、まさにわたしと同じコンプレックスを抱いている女性の心境なのかなと。けれど君と出会えたことで変わっていくなにか、粉雪のふわっとした印象と繊細なこころがみてとれる気がした。石川美南さんのうたも、帰宅後の女性のメイク落とし(化けの皮剥がし)を彷彿とさせるし、顔ってまつげで印象だいぶ変わるから大変なのよね。
小島ゆかりさんのうたにある「赤まんま」とはイヌタデという花の別名。犬とかけてるのかなと。吉川宏志さんが詠んでる牛の眼も然り、動物のまつげって黒々と長いイメージあり。

K氏の選んだうたから2首。

筋書きの濃きミステリを読みさして駱駝のまつげふと思ひたり

栗木京子 『ランプの精』

点滴はまつげの先にゆきわたり海洋性の夢をみるひと

鯨井可菜子 『タンジブル』

↑水っぽくて、なんか好き。

M氏の選んだうたから3首。

聞かなくても返事がわかってしまうこと帰りはいつも睫毛が痛い

大森静佳

駱駝みたいまつげに雪が乗っかっているよあなたを伝説にしたい

雪舟えま『たんぽるぽる』

↑まつげってやっぱり雪が積もるイメージなのかな。

初夢はきりんの睫毛 生きることをかたどればたしかにそうだろう

工藤真子

O氏の選んだうたから3首。

あさぼらけひとめ見しゆゑしばだたくくろきまつげをあはれみにけり

斎藤茂吉『赤光』

↑連作「おひろ」中の1首。夜をともに過ごした朝のうた。

眼力(まなぢから)けだし敢(あへ)なし夕顔の色見さだめむ睫毛触れたり

北原白秋『黒檜』

↑北原白秋は糖尿病により失明。花を見ようとして睫毛が触れた。

目を伏せて長き睫毛のあらはなる面ざしに陽は淡く射しゐき

菅原百合絵『たましひの薄衣』

短歌エラム Vol.1【まつげ】は以上です。アーカイブとしてこれまでの選歌を残したく書いてみたけど、過去に選んだり出会った短歌を詠み返す楽しみができてとても嬉しい。2021年からの選歌がいろいろとあるので、定期的にアップしていく予定です。お楽しみに。

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