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パリの結婚式はディズニーの世界だった

 フランスの友人ギヨームの結婚式のため、4度目のパリへ。オーストリア在住の友人夫妻とパリで待ち合わせ、折角だからと着物を準備した。会場への道のりは友人に任せてしまっていたが、これがいけなかった。彼女は教会とパーティ会場を間違えてタクシー運転手に伝えてしまっていた。途中で間違いに気付き、慌てて教会へと向かったが、既に式は始まっていた。こっそり入り、一番後ろの席から友人の誓いを祝う。
 日本のエセ感たっぷりの教会結婚式と違い、本物の牧師さんに普段から礼拝に使われている教会で夫婦と認められる儀式は、とても自然なものだった。
 教会にはギヨームの親戚や友人が集まっていたが、中でも目を惹いたのが、親戚の小さな女の子たちだった。7,8歳だろうか、ブロンド(金髪)の女の子たちはお揃いの淡いパープルのドレスを着ている。その姿はもう小さなプリンセス。ちょこんと座った姿も愛らしく、見ているだけで、はわわわ、とこちらが動揺する。背格好から11,2歳と思われる女の子も同じくパープルのドレス。スカート部分はフェザーを重ねたようにひらひらしていた。彼女はふわふわにカールする豊かなブロンドのせいか、小学生ながら色気を感じさせた。真っ白のケープを巻き、足元は華やかなドレスとは対照的に黒の革のサンダル。サンダルのストラップを足首に巻き付けるタイプの少しロックな雰囲気のもので、その合わせ方がいかにもパリジェンヌぽかった。何だかとっつきにくい空気を醸し出していたので、相手は圧倒的に年下なのに「一緒に写真撮って!」と言えず、こっそり後ろ姿を写真におさめる。

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 式の後は庭付きのレストランを貸し切ってのパーティ。日本の結婚式の二次会のようなゲームに興じつつ、本格的なフレンチに舌鼓を打つ。コースの最終段階でチーズが出てきた。本当に食べ物か疑うようなグレーのカビに覆われた小ぶりなチーズ含む数種。同じテーブルのフランス人たちは「美味しい!」と感動しているので私もトライしたが、どこがどう美味なのか全く理解できず、申し訳なくもコースの中でこのお皿だけ、残してしまった。フランス人の舌は大人だ。。

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 食事が終わると歓談タイム。雨だったので庭にはおりないものの、屋根のあるテラスに出て皆談笑し始めた。数人が私の着物に興味を持ってくれた。(袖に触れながら)「これは絹?」(足袋を見て)「足元はどうなっているの?」(お太鼓にした帯を見て)「これはバッグ?」と次々質問された。毎年大量に日本人が訪れるパリに住む人も着物を間近で見る機会は無いようだ。

 パーティの最後はダンス。ワルツ(社交ダンス)が始まった。最初に部屋の真ん中でみんなに囲まれて新郎新婦が踊りだす。しばらくしてパーティの参加者も次々とダンスに加わり始めた。あちらでもくるくる。こちらでもくるくる。ドレスの裾をなびかせて女性が男性にリードされて回っている。それはまさにディズニー映画の舞踏会だった。本物を見る日がくるとは。社交ダンスなんて踊れない私は壁際に貼り付いてその優雅な光景をただ眺めるだけだった。ダンスに誘ってくれる方もいたが、着物ではそもそも一歩の幅が狭すぎて踊れない。
 次第に音楽が変わっていき、すましたワルツから少しカジュアルな雰囲気になる。皆自由に踊っている。

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 夜まで続いたパーティもそろそろお開きの時間。私と新婦が話していると、教会であまりの可愛さに動揺したあの小さな女の子が私服に着替え、じっとこちらを見てくる。「日本語を話してるの?」(仏語)と新婦に尋ねる。「英語だよ」と答えてあげると、恥ずかしそうに私(のおそらく着物)に「きれい」と言ってくれた。嬉しくなり、一緒に写真撮ろう!と誘う。お互いに密かに憧れつつパーティ最後まで話せなかったことが分かり、可笑しかった。彼女がまだあのドレスを着たままなら良かったのに…!惜しいことをしたと思いつつ、幼いフランスの女の子に着物を直に見てもらえたことが嬉しかった。

 日付が変わる頃、パーティがお開きになった。その晩は新郎新婦宅に泊まらせてもらう。生活感溢れる古めのアパート。

 魔法が解けた瞬間だった。

magazine "foreign bijou" vol.6

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