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刺繍のペンケース

 きっと、もう二度と行くことはないだろう、という街がいくつかある。パツクアロもそのうちの一つだ。仕事でメキシコ滞在中、週末を挟んだので、現地の仕事で知り合った英西通訳のエイブラハムの案内で訪れた。電車のような公共交通機関の見当たらない田舎町から田舎町へ、彼の運転する車に日本からの出張者ももう一人誘って乗り込み移動する。気候のせいか、標高のせいか、途中の村と村を結ぶ道はひたすら平原が広がる中を行く。高い木が見当たらない。かと言って平地でもない。丘が連なるようで、そこは既に標高2000m級の場所なのだ。日本では見ることのない風景を飽きずに眺めていると、幾つ目かの村で車は停まった。ピラミッドの遺跡が有名らしい。ピラミッドと言いつつ想像するような三角形ではなく、土台しか残っていない。広々としたその遺跡は高台にあり、近くの湖を見下ろすことができた。特にこれといった感想もなく車を停めてある広場へ降りる。小さな教会前の広場で小さなマーケットをやっていた。どこの国でも手に入りそうな安っぽいアクセサリーの店や焼き物の店が並ぶ中、刺繍を施したペンケースが目に留まる。見るからに手作りの素朴なデザインで、何とも私好みの色合い。他にも10円玉くらいしか入らなさそうな小さな袋も合わせて買い上げた。元々刺繍が好きで、メキシコを訪れたら絶対に買って帰ろうと思っていた類の刺繍ではないものの、一人では絶対に来られない場所で出会ったのも何かの縁、と連れて帰ることにした。10円玉サイズの袋はいつのまにか行方不明になってしまったが、このペンケースは現役で私の出張に今も付いてきてくれている。

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