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華やかなパリの年越しの舞台裏

 パリに住む友人カップルのギヨムとユアンを訪ねて3度目のパリ旅行を計画していた時、私は当然友人宅に泊まるつもりでいた。パリのホテルは高い。ところが、友人に打診すると諸事情で不可とのこと。ならば、誰か泊まらせてくれそうな人はいないか、と貧乏根性丸出しで訊いてみたところ紹介されたのがスリカン君だった。
 そう、男性。でも友人のユアンは日本に留学経験もあり、日本人の私とも感覚が似ている。その彼女が大丈夫と言うのだから大丈夫なのだろう、と信じてみることにした。
 実際に会ってみると真面目そうな青年。そして彼はフランスでも名のある大学の寮に住んでいた。ギヨムによると、フランスの東大みたいなものらしい。フランスでは日本ほど大学名に人が反応することは無いが、この大学だけは「へぇ!」となるような名門校なのだそう。優秀なんですねぇ。

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 パリには一週間ほど滞在予定で、X'masを過ぎてから現地入りしたが、まだX'masの装飾がそのまま残っており、街は休暇ムードだった。そんな中、トップの写真のネックレスなど買い物三昧の後、ギヨムに年越しは彼の友人宅のパーティに招かれているから一緒に行こう、と誘われた。スリカン君も。
 フランス人のパーティ!そんなシチュエーションを想定していなかったので、パリ旅行には捨てて帰るぼろぼろの服ばかり持ってきてしまった。何ならスーツケースのタイヤも壊れているから捨てて新しいものを調達するつもりだった。

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 パーティには残念なチェックのシャツとジーンズで伺うことに。パリのアパートらしく、建物は古くてエレベーターはとても狭く、扉は手で開ける。でも部屋の扉が赤くておしゃれ。
 ギヨムの友人であるその日のホストを、私は勝手にブロンドの女性と想像していたが、実際は黒髪ボブで大きな黒い目のほっそりした女性だった。でも服はエミリオ・プッチのワンピースにお洒落な鈍いシルバーのバレエシューズ。さすが。裕福な家庭の娘らしい。パリで一人暮らしなのに2LK。
 ホスト宅にはギヨムの親友カップルも来ていた。彼ら含め参加者は計13,4人。男性はジャケット着用、女性は揃って皆おしゃれしている。場違いな格好の私は恥ずかしくて縮こまる。でもホストの彼女は私を歓迎し、寝室にも案内してくれた。そこには黒澤明監督の映画のDVD!渋い好み。さすがフランス人。黒澤のファンだと言われ、日本人として嬉しくなった。

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 キッチンでは皆がわいわい言いながら料理中。といっても手間のかかるものではなく、エビと椎茸の串をオーブンで焼いたりトマトとモッツァレラを串に刺したりしているだけ。手軽につまめる料理の数々に、パーティ慣れしているなぁと感じた。
 パーティの合間にギヨム達とエッフェル塔の見える広場へ出てカウントダウン。カメラのフラッシュのように派手にきらめくエッフェル塔を眺めながら年を越し、パリでの貴重な体験を噛みしめながらホスト宅へ戻った。
 そこからは、ワインを飲みながら談笑。私の斜め隣に座るエクアドル出身の女性がスペイン語はフランス語と発音は全く異なるけれど、単語や文法は似ている近い言語だから分かりやすい、などと話している。フランス人のパートナーの膝の上で。さすがアムールの国フランス。正面に座るスリカンは場に馴染めないのかほとんど喋らない。

 と、突然ふらふらと立ち上がりキッチンの方へ。
 悲鳴が上がった。リビングにいた皆は驚いて声の方へ向かうと、廊下に吐しゃ物が。スリカンはそのままバスルームへ入ったようだ。しかもバスルームに入ってすぐ左のトイレではなく右奥のシャワールームで倒れている。そんな所で再度吐いたらどうするの!と皆戦慄する中、ホストが叫んでいる。落ち着かせようとする彼氏に対して物凄い早口でヒステリックに何かをまくし立てている。ギヨムが「スリカンは厳格なベジタリアンだから今日は食べられるものが無くてひたすら飲んでいた」と説明している。他の男性陣は困惑しながらスリカンに話しかけたり遠巻きに状況確認したりしている。スリカンと彼らはその日初めて会った、言うなれば見ず知らずの人なのだから、当然か。知り合い歴は私も同じようなものだが、一緒に彼を連れてきてしまった責任感から、ユアンと二人で廊下を掃除する。古い建物なのでフローリングの板と板の隙間が開いていたり木の節の穴が開いていたり綺麗に掃除するのはかなり骨が折れた。人の吐いたものなんて、それまでの人生で処理したことのなかった私は、その日のみんなとの服装の差もあって、まるで侍女か奴隷にでもなったかのような、とても惨めな気持ちで掃除していた。男性陣はそんな私達を「信じられない」という目で見ながら「そこまでしなくていいよ、君たちは悪くないんだし。」と言ってくれたが、ここまで来たらこちらも少し意地になって、「ここに住む彼女の身にもなって!」とホストをさす。彼女はまだ取り乱していて、スリカンはトイレには移動したが、動かない。あぁ、なんて年越しだ。。

 掃除を終え、スリカンが何とか歩ける状態にまで快復してから夜明け前にパーティ会場を後にした。

 その年明けには華やかなパリの風景だけfacebookにあげ、優雅な旅のように見せていたが、実態はこんなものだったりするのだ。

<後日談>
 ホストの取り乱し様が、日本では見たことがないほど物凄かったので、その後も私はずっと申し訳ない気持ちだったが、数年後、ギヨムとユアンの結婚式で彼女と再会した。改めて謝ると、「今はもう仲間内でも笑い話になってるよ」と言ってもらえた。心の底からほっとした。

magazine "foreign bijou" vol.11



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