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「リクエスト」が僕の地獄の窯を開けてしまった話

柾花音(まさき かのん)さん、という歌手がいる。

ふわっと浮かぶようなやわらかさと力強さが共存するヴォーカル、そして表現力の豊かさがすばらしいシンガーだ。未だメジャーでもインディーズでもリリースにはこぎつけていないけれど、事務所のバックアップの元、コロナ禍でもいろいろがんばっているみたい。

一番好きなカヴァー動画はこれだ。ねぇめっちゃ良くないですか!?!? ピアノのアレンジとパフォーマンスも大変見事なんだけれど、何より言葉ひとつひとつが、ちゃんと「意味」を保ったまま弾丸のようにこちらまで飛んでくる。歌がうまい、というだけでなくて、曲の持つテーマやメッセージがしっかり突き刺さるというか……ヘタすると本家の大森元貴(さん)より歌詞にフォーカスしている気も……(失言)。

今は主に3Dアバターを使っていらっしゃるけれど、生のライブでは顔出しする予定みたいなので、たぶんコンセプト的にはCHiCO with HoneyWorksっぽくなるのだろう。VTuberではない(ので、noteのそういう記事には入れんといてください)。

で、この柾花音さん、2021年2月14日にオンラインライブを開催なさることが決まっている。これまでのライブはカラオケ音源だったのですが、初めて生演奏と一緒に歌うみたいで、着々とステップアップしている感じが嬉しいですね……。

で、このライブなのだが、「早期予約特典」として、一人につき1曲だけリクエストが可能なのだ。ただし演奏が確約されるわけではなく、あくまでアンケートに近いものらしい。当日はいくつかの曲を「リクエストメドレー」として披露予定とのこと。

リクエスト、かぁ……。意外とない機会だよな、こういうの……。うーん……。

パッと思いついたのは、KANの「エキストラ」とAnlyの「星瞬 〜Star Wink〜」だった。どちらも2020年リリースの新曲である。

特にこのKAN「エキストラ」、全然知られていない曲だけどマジで、マジで良くて……。物語調の歌詞がスッと耳に入ってくるし、情景も目に浮かぶ。何より、「こういう」ラブストーリーが僕は大好物だ。グッドメロディ、そして、印象に残る切ないサビ。これ聞きたいな〜〜〜って感じだ。

加えて、ピアノ一本とヴォーカルで表現されたこの曲なら今回の「弾き語りライブ」という条件にも合致している。柾花音の表現力あるヴォーカルなら、全く違う「エキストラ」の物語が聞こえてくるだろう。そこにもとても心が惹かれた。

けれど……このライブを数百人が見るとして、おそらく僕だけしか知らないであろう曲をリクエストしたところで、果たしてそれは……どうなんだ? あまりに、そいつは、空気読んでないよね……。というか今回はサビメドレーになるって話だったよな。この曲をサビだけ歌われたところで、それは別に嬉しくないよな……(柾花音に<大好きです 好きです>とただ歌ってほしい、みたいな動機でもないし)。

そしてもう片方の、Anly「星瞬 〜Star Wink〜」。ラジオで聴いてひと聴きぼれした曲だ。これも素晴らしいバラード! 壮大なスケール、そして最後の歌詞の一節が本当に大好きで……マジでいい。

ただ、これもサビだけ歌うにはちょっと難しい曲だろう。メドレーの途中に、こういうスローテンポな曲を挟むのもやや変になってしまいそうだし。「エキストラ」よりはさすがに有名だろうが(現在公開中の映画『夏目友人帳 石起こしと怪しき来訪者』の主題歌)、それでもどれだけの人がピンとくるのか。

実は、本当に最初に思いついたのはこの2曲ではなかった。BUMP OF CHICKENの「話がしたいよ」だ。この曲は、実はまさきかのん本人がフェイバリットに挙げていたのを見かけたことがあった。僕は世界で一番バンプが好きで、そしてアニメーション業界では最もバンプに詳しい人である(はっきり断言できる)。そして、だからこそ、バンプを他人になかなかリクエストできない。いつも、だ。妙〜〜〜な自意識に邪魔されてしまうのでござる。なーんかエゴ出し過ぎじゃない?ってなっちゃう。いやいや無理ぃぃぃ……(ちゃんまりが「スノースマイル」歌ってたりさめのぽきが「ラフメイカー」歌ってたのも心臓がギュンってしたしな)。

じゃあどうしよ……と思って、次に思いついたのがRADWIMPSの「前前前世」だった。

この曲なら、ほぼ間違いなくみんな知っている。いきなり歌われたらサプライズ感もあるし、メドレーでサビだけでもしっかり映えるだろう。アップテンポのナンバーが歌声にぴったり合うのは「Attitude」で証明済みだ。

……が、そこまで考えたところで、いやいや違う違う、と考え直した。もちろん僕の好きな曲だし、カヴァーもぜひ聴いてみたいけれど、今回のライブで「僕」が「柾花音」に「リクエスト」したいのかどうか……。あくまで「メドレーで映えて」「みんな知ってて」「盛り上がって」「意外性があって」「いい曲で」……という、今回のリクエスト枠の条件が揃っているというだけであって、つまりは「見えない条件の忖度」に一致させようとしただけで、あんまりそこに自分がいないというか。それに、2021年のリクエストにはちょっと古いかな、とも思った。

しばらく自分のプレイリストを見返しながら、あれでもないこれでもないと十数分……。

そうだ、藤井風の「何なんw」はどうだろう。

今までの中では一番、「これがいいかも!」と思った。藤井風は、既にネットやテレビでも騒がれ始めている超大型新人ソングライターで(よくデビューした頃の宇多田ヒカルと比較される)、この曲のMVも1000万回再生されている。が、意外にも曲をカヴァーしている人はまだ多くない。2021年の選曲としては王道でもあるし、サプライズ感もある。何より、R&Bは柾花音のど真ん中だ。ツウっぽい選曲だとも思った。

けれど、好きな曲だけれど……何か。こういう考え方が、もう、なぁ……って……。

わかっている。ドツボにはまっているのだ。音楽ファン特有の、めんどくせえ思考ってやつによ……!!

要はね。こういうのって(柾花音に限らず)、プロデューサー目線で「この曲を歌わせてみたい」と思うか、音楽リスナーとして「大好きなこの曲を歌ってほしい」と思うか、ではないか。「この曲をこのシンガーが歌ったらぴったりだ」と考えるのと、「この曲を歌ってくれたら「嬉しい」」と妄想するのは、けっこう違う。今回の場合、前者は「前前前世」や「何なんw」で、後者は「エキストラ」や「話がしたいよ」だった。

「このシンガーのリスナー層にはこの曲が刺さるに違いない!」とか、「こういう歌声ならこういう曲が似合ってきっとウケもいい!」といったような考え方は、数百人が集まるライブのセットリストを決める上では正しいだろうが、お客さん目線から提案するにしてはだいぶ手垢にまみれていないか?

逆に、「自分が個人的に大好きなこの曲を聴きたい!」「私が思い入れのあるこの曲を歌ってほしい!」みたいなパーソナルな選択は、今回のような「リクエスト」としては正解に近いと思うけれど、採用されなかったらそもそもあんまり意味ないよな、ていうかお前大人だろ?という……。

なんて、考え始めたら、もうグルグルしてグルグルして……

ど〜〜〜しよ〜〜〜〜!!!

という、めんどくさい自意識過剰な音楽リスナーの話題でした。「好きな曲」ってしばしば「個人的」すぎるよね、それを他人と共有するエゴとお前はどう戦うんだ? という話。そんなことを、「リクエスト」というちっさい出来事からすごい考えてしまった、という日常のメモでした。まぁ~自意識過剰も甚だしいのですが、でもさ、少なからず、誰しもの心の中にもあるものだったりしない? そうだ、人は涙見せずに大人にはなれない、I know....

というわけで皆さま、KANとAnlyとバンプとRADと藤井風と柾花音をどうぞどうぞよろしくお願いします。こんな記事に懲りずにリクエスト企画は今後もぜひやってください(ちなみにリクエストの締め切りはこの記事を公開してから約12時間後、2月3日23時59分までです。マジどうしよ~~~~)。

ちなみにわたしの2020年プレイリストはこちらです。(めんどくさい音楽ファン!)

あっ!そうだ「アカシア」!歌ってほし……



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