ロボットくんの調査(ちょうさ)[short story]

 鉄製の扉が半開きになっている。
 そこで僕は、自慢のアームでそれをゆっくりと押した。

 扉の先にもまだ道は続いている。剥き出しのまま天井を這うパイプ。鉄の色で染められた殺風景な通路。その狭い中をぐいぐいと進んでゆく。
 途中で障害物があった。転がったままのスパナ。僕はそれを、自慢の小型キャタピラーでゆうゆうと超えてゆく。
 さらに進んでゆく僕。また道は曲がっていて、その先には階段があった。またしても自慢のキャタピラーでその上へ進んでゆく。人間が登るように作られているから、とてつもない急勾配だ。ちょっと気を抜いたらひっくり返って下まで落ちてしまいそう。でも大丈夫。僕のコンピューターは見事な自動操縦プログラムが搭載されている。ちょっとやそっとじゃ、負けない。
 登った先も同じような狭い通路だった。あらゆるケースに備えて事前にインプットされた通りに僕は進んでゆく。どこかから、計器の異常を伝える甲高いピー音。僕のキャタピラーはそちらに舵をきった。

 目の前に大きな機械があらわれた。人間が使うためのものだから、僕の高性能キャタピラーから細い足が出てきて、僕の頭部についているカメラも計器が視野に入るまで背伸びをした。うん、ちゃんと映った。僕の足はふたたび縮んで、またキャタピラーはその先へと移動してゆく。
 すごい音が聞こえる室内に入った。ここではもう計器の異常音がピーピー鳴り響いている。キャタピラーはその部屋の中をぐるっと一周する。カメラがひっきりなしに動く。全容を把握した。
 ゆるやかな曲線をえがいた釜の中央のようだった。中からは猛烈な熱の反応がある。ふうん。今日調べたかったのはここだったのかな。
 どうやら調査は終わったみたいで、僕のキャタピラーは元来た道を引き返していった。

 外に出ると、ご主人様たちが僕を出迎えてくれた。
 中の調査はほぼ滞りなく終わったらしい。僕の調査機械をはずして、最終チェックをしている。
 ふと後ろを振り返った。上部が破壊されたままの正方形の建物。ここはどうやら、エネルギーを生み出すための工場だったらしい。けれども大きな事故があって、ここには誰も入れないようになっちゃってたんだって。
 ご主人様は満足そうに僕になでなでをしてくれて、船に僕をまたのせてくれた。
 船に載るまでに、僕は倒れたままの死体を何度も踏み越えた。むぎゅっとなる。慣れることがない、嫌な感触だな。
 船はやがてご主人様たちを乗せて、ゆっくりと遠ざかってゆく。眼下にさきほど調査したばかりの工場が映った。
 この星の人間たちが死に絶えてしまった理由。それを探しているうちに、どうやらご主人様たちはここに行き着いたらしい。ふーん。

 青く美しい惑星をぬけて、ご主人様たちは船を走らせる。
 人間の限界って、あまり大したことはないんだな、とご主人様たちは話し合っていた。

 その時だった。
 ご主人様たちはそのままゆっくりと顔色を悪くして、やがて16本ある手をばたりと振り落とし、操縦席から倒れてしまった。
 船は変わらず宇宙空間を進んでゆくけれど、持ち主がいなくなった船は僕だけを乗せて、このままどうなってしまうのかな。
 ああ、短時間の調査でもずいぶん被爆してしまったことを、僕に伝える術があればよかったのだけれど……。



(2012)


※ウェブサイト「即興小説トレーニング」にて、15分の制限時間で書いた掌編小説に一部修正を加えたものです。
お題:「限界を超えたロボット」
original 2012.11.13.
http://sokkyo-shosetsu.com/novel.php?id=10685


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