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「歴史思考」は何の本か。

コテンラジオの深井さんが本を出したというので
チェックをしていましたが、
しばらく購入せず心の中で期待を膨らませていました。
買ったら沼ってほかのことができなくなりそうだと思ったからです。

コテンラジオは何種類かの音声媒体で楽しめる歴史インターネットラジオ。
学校の授業では中々学べない国内外の歴史の面白さを学び、
「人間とは何か」「現代人の抱える悩み」「世の中の流れ」
を痛快に読み解いていく!?
笑いあり、涙ありの新感覚・歴史キュレーションプログラム!
となっています。

COTEN RADIO | 歴史を面白く学ぶコテンラジオ | 株式会社COTEN

さて、満を持して読んでみると、いい意味で期待を裏切られました。
私が読みながら考えていたこと、
「一体この本は何のジャンルの本なんだろう?」
そんな面から紹介してみたいと思います。

①    歴史エッセイ

期待を裏切られた第一の理由が、これです。
この本の文体がライトに感じられたから。
言葉もシンプル、できる限り簡単にされています。
各エピソードも複雑な歴史について語られているわけではないのです。
歴史上の出来事ではなく人物の一面にフォーカスをあてて
短めに構成されています。

一番気軽に読むと、
歴史上の面白エピソードエッセイのように読むこともできます。
「本当は●●な○〇(恐ろしいグリム童話、とか)」のような感覚です。
この読み方はお勧めしているわけではありません。
そのくらい、読みやすい本です。

コテンラジオには社会構造や歴史の流れにもたらす影響、因果関係について
深い考察が詰まっているので(武則天のあたりに片鱗が見えます)、
それをこんなにさらっと書けるのかという驚きがありました。

② 自己啓発本

この本が何を伝えるために書かれているのか、随所にのべられています。
この本は本来、「メタ認知」「歴史思考」を勧める本です。
その広告の一つとみることもできます。

そのために歴史上の人物のエピソードを選んで構成されています。
私の解釈では、この本で述べられているメタ認知のポイントは
3つに集約されます。

1.あなたの持つ価値観は、絶対的なものではなく流動的だ

お金、性、命。これらに対して私たちが持っている価値観は、
ごくごく最近に作られたもので、ちっとも絶対的ではない。
反例はどこからでも持ってこられるほど歴史上にはありふれていて、
時代に合わせ、誰、あるいは何が力を持つかでも容易に変えられる。

2.われわれのする行動がどんな結果をもたらすか、
(いいことか悪いことか、意味があるかないか)は
短期的には判断できない

例えば武則天という女帝の存在が唐の歴史にもたらした影響は、
短期、長期(数百年)、さらに長期(1000年以上)のスパンでみて
プラスかマイナスかという評価において異なる。
またほかにも、キリストは生前、田舎の一政治犯であり
現在のように世界に影響を与え続ける人物になるような存在になるとは
当時はだれも予想しなかったであろう。

3.では何が歴史にインパクトをもたらすのか、
という問いの答えは
「人間の存在こそが歴史に影響を与え、効果をもたらす」

ヘレンケラーの師、アン・サリヴァンがどんな人生を送ったか
どんな出会いがどんな風に影響を与え合ったか
を見ると、この世に存在して懸命に生きること自体が
効果を持ったり支えたりしながら歴史を作っていく、ということがわかる。

③   哲学の本

本の中で、考察は最終的に
「人生のどうしようもない答えにどう答えを出すか」
というテーマに帰結します。
これってもう哲学です。

一人紹介されている人物と思想があります。
ゴータマ・シッダールダです。
私という存在についての思想が紹介されています。
「自分というものすら移り変わる。絶対的なものなどない
あなたらしさすらも、うつろう
特定の私などなく、私の範囲は伸縮する
というのがゴータマの思想。
そして、
特定の私から自由になるということが究極のメタ認知であり、
「悟り」だと説明されています。

私のささやかなメタ認知

私たちは、悩んでいる時や落ち込んでいる時しばしば、
目の前の小さな世界で解決しようとしがちです。
夢中になるほど執着する、視野が狭くなる。
「この分野で認めてもらえないからSNSでほかのことで認めてもらおう」
「こんなことがうまくいかないからもうやめてしまおう、
自分には最初から無理だった」
私の経験上、これも結局満たされない。
執着は増すばかり、まったく自由になれない。
そうではなく、目の前の物質や出来事から距離をとってみることが、
重要なのですよね。

ちょうどこの記事を書こうとしている最中に、
自分にある出来事が降りかかりました。
同期の友人が、仕事上の講演や発表でご活躍です。うらやましい。
なんで自分にはできないのか…
たったそれだけの出来事なのですが、
「メタ認知」を思い出すと
自分と、この小さな問題とに距離をとって眺めることができます。

「社会的に認められる事、講演や発表で活躍する事はかっこいい
有名になっているみたいですごい」
言葉にすると本当にバカみたいで恥ずかしいですが、
私が心を奪われてしまった価値観はそんなところでした。
深く考察するまでもないですが、実にしょうもない、
歴史的に見ればごくごく最近の社会で刷り込まれた価値観だとわかります。
つべこべ言わずにやることをやろうと、頭を切り替えたというわけです。

私は、この本から
出来事に向き合う際に、その出来事から近づいたり離れたり、
広大な歴史や宇宙の中に存在する自分に意識を飛ばしたりする。
そんな風にして迷いに対して答えを出していく
または答えすら出す必要がないと、いったん横に置いておく。
という方法を紹介してもらいました。

さらに歴史や古典を学べば、迷いそのものの答えを先人がどう考えたか、
知ることができるというわけです。
勉強すれば必ずや助けになると思いますが、
これ以上進むとまた沼ってしまうので、また今度。


#読書の秋2022


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