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『 東京珍道中 』

  シナリオ・センター 本科課題⑬「姑と嫁」

               作 瀬下祐美

⭐️「姑と嫁」と聞いて、ドロドロの話には
絶対したくなかったので、コメディータッチの
話に仕上げました。姑のキャラクター設定にも
少し拘りました。笑
登場人物同士の掛け合いも
楽しめると思います。

人物👤
堀川真琴(30) 元客室乗務員・専業主婦
堀川美恵子(65) 真琴の義母
堀川圭介(35) 真琴の夫

◯浅草雷門前
   『雷門』と書かれた大きな赤い提灯。
   行き交う大勢の老若男女。
   辺りをキョロキョロ見回している堀川真琴
   (30)と堀川圭介(35)。

圭介「やっぱり…羽田で待ち合わせの方が
 よかったんじゃねえの?」
真琴「私も最初言ったのよ…羽田まで迎えに行きますって!
 久しぶりに元同僚にも会いたかったし…だけど
 雷門で会いましょうってお義母さんが言ったのよ…」
圭介「何だそれ…それにしてもちょっと遅くねえか?
 まさか途中で迷っているのか!?」

   心配そうになる圭介。

真琴「それはないと思うわ…迷ったら誰かに
 聞くでしょう?」

   苦笑いする圭介。
   真琴、ギョッとする。
   人混みに、広いつば広帽子を被り、真っ赤
   なジャケットを着て白地に赤のドット柄
   スカートの堀川美恵子(65)。
   美恵子、真琴と圭介に気付いて満面の笑み
   で大きく手を振りながら近づいてくる。
   引き攣った笑顔で小さく手を振り返す真琴
   と圭介。

圭介「…おふくろ…?」

   周りの視線を浴びながら、息も切れ切れに
   真琴と圭介の傍に来て、圭介にハグする
   美恵子。
   所在なさ気な真琴。

美恵子「久しぶりね〜圭ちゃん!!」

   嫌がる圭介を、クスクス笑いながら
   見ていく通行人たち。

圭介「やめろよ〜…勘弁してくれよ…」

   圭介から離れ、真琴に向き直る美恵子。

美恵子「真琴さん…圭介にちゃんとご飯食べさせてる?
 なんか…ちょっと痩せたような気がするの!」
真琴「圭介さん、最近少し忙しかったから…ですかね…?
 栄養のバランスも考えて作って、美味しそうにいつも
 食べてくれてますよ…」
圭介「真琴の手料理は最高なんだよ!」
美恵子「そう…それならいいんだけど…何か2人の顔見たら
 ホッとしてお腹が空いちゃったわ!!
 行きたいお店があるの…ちょっと付き合って?」

   顔を見合わせる真琴と圭介。

◯浅草大黒屋・店内
   混み合っている様子。
   大盛りの天丼をニコニコしながら
   黙々と食べている美恵子。
   呆気に取られる真琴と圭介。

真琴「お義母さん…余程お腹空いていたんですね…」
美恵子「久しぶりの東京だから…緊張ちゃって
 食欲なかったのよ…」

   苦笑いの真琴。

圭介「何で待ち合わせを雷門にしたんだ?」

   悪戯っぽい笑顔になる美恵子。

美恵子「よくぞ聞いてくれたわね!さすが私の息子だわ〜」

   思いを馳せる様な表情になる美恵子。
   苦笑いしながら、美恵子を見つめる真琴と
   圭介。

美恵子「雷門はね…お父さんとの…思い出の場所なの!
 プロポーズされたのよ〜そして…そのまま…」

   顔を手で覆い、恥ずかしそうになる
   美恵子。
   
真琴「(小声で)自分から話しておいて…恥ずかしがって…
 女子高生か?」

   真顔になる美恵子。

美恵子「ねえ…あなたたち…ちゃんと
 子作りしてるの?」

   飲んでいた水を吹き出しそうになる真琴と
   圭介。
   周りを気にして、咽せる圭介。

圭介「(小声で)何言ってんだよ…当然…だろう…」

   真琴を見る美恵子。

美恵子「圭介を身籠ったのは、私が真琴さんの歳だったわ…
 早く孫の顔を見せてね?」

   真琴、苦笑い。
   何か考える様子で天丼を食べる。

◯銀座数寄屋橋交差点
   たくさんの老若男女が行き交っている。
   視線を浴びているのも気にならない様子で
   キョロキョロして歩く美恵子。
   真琴と圭介の姿もある。

美恵子「銀座って…こんなに変わっちゃったのね…?」

   美恵子の格好をチラッと見る圭介。

圭介「そういえば…銀座で服買いたいって言ってなかった?」
美恵子「そうなのよ〜今日の服…けっこう古くて地味だし、
 今流行りの服見たいわ〜」
真琴「服見ていたら、この後の歌舞伎の時間に間に合わなく
 なってしまいます」
美恵子「そうね…服は何処でも買うことができるし、歌舞伎座で
 お買い物することにしたわ!」
真琴「お義母さんの大好きな和菓子もたくさんありそうですね!!」
美恵子「やだ…真琴さんそんな事言って買わせて私をまた
 太らせるつもり?」
  
   困惑する真琴。

真琴「そんなつもりじゃないですよ!!逆に
 そう思うなら、買わなければいいんじゃないですか?」
美恵子「けっこう真琴さん…意地悪ね?ねえ?圭介?」

   慌てる圭介。

圭介「真琴…今の言い方…ちょっとキツいかな…」
真琴「あっ…ごめんなさい…言い方悪かったですね…
 すみません…」

   ウインクして戯ける様子になる美恵子。
   少し足早になる。

美恵子「(大きめの声で)ねえ!虎屋であんみつ食べてから
 歌舞伎座に行きましょう!私がご馳走するから…」

   顔を見合わせ微笑む真琴と圭介。

真琴「(小声で)…お義母さん…」

   美恵子の後を追う真琴と圭介。

◯歌舞伎座・前
   『鳳凰祭三月大歌舞伎』と書かれた幕。
   たくさんの老若男女が行き交う。
   写真に収める様子の通行人。外国人の姿
   もある。
   美恵子、真琴、圭介の姿もある。
   相変わらず人々の視線を集める美恵子。
   真面目ぶって説明する真琴。

真琴「お義母さんたってのご希望の本日の
 メインイベントでございます!!」

   悪戯っぽく微笑む美恵子。

美恵子「…真琴さんだって…楽しみにしていたんでしょう?
 圭介は初めてなの?」
圭介「ああ…正直…全然興味なくて…寝ちゃうかもな…」
美恵子「寝る暇もないくらいワクワクするわよ…!
 ねえ?真琴さん!」

   笑顔の美恵子と顔を見合わせ微笑む真琴。

真琴「…はい!!」

   美恵子と真琴を交互に呆れたように
   見る圭介。

圭介「なに結託してるの…」

   足早に中へ入る美恵子、真琴、圭介。

◯同・木挽町広場
   和装小物の店や和菓子の店など、所狭しと
   様々な出店が並んでいる。
   賑やかな様子。
   店を物色している真琴と美恵子。

美恵子「圭介ったら…幕間の食事を予約しておくよって
 …気がきくわね?さすが私の息子だわ…」

   苦笑いする真琴。

真琴「そうですね…お義母さんの育て方が
 素晴らしかったのではないですか?」

   真琴をジッと見る美恵子。

美恵子「…そんなこと言って…さっきの歌舞伎座限定の
 金平糖ときんつばを買ってもらおうっていう魂胆?」

   呆れ顔になり、何もいえない真琴。
   笑顔になりケラケラ笑う美恵子。

美恵子「…冗談よ…真琴さんは素直で可愛いから
 ついつい意地悪したくなってしまうわ…」
真琴「(小声で)お義母さんこそ…意地悪!しかも…確信犯…」

   泣きそうな真琴。
   優しい笑顔になり、真琴を見る美恵子。

美恵子「…真琴さん…あなたが圭介の嫁で…
 ほんとよかった…!!」
 
   笑顔になる真琴。

真琴「…お義母さん…」

           終