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フリーランスは定期的に居場所をアップデートしなければならない。そのためには物語が必要だ。

「漫画はどんなに面白くても売れるとは限らない。勝手に売れる作品なんかない。売れた作品の裏には、必ず売った人間がいる。俺たちが売るんだ」

これは2016年に放映されたドラマ「重版出来!」で、営業部長が部下を鼓舞するために言った一言。わたしはこの台詞が大好きだ。

わたしには仕事で行き詰まった時に観る"モチベドラマ”がいくつかあるのだが、その中のひとつであり、リピート率の高いのがこの「重版出来!」。すでにHuluで4周くらいした。

努力が報われるから幸せというわけではない。自分だけの人生を生きていたら気づけなかったこと

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「重版出来」は、漫画編集部を舞台として、文字通り重版出来(初版の発行部数が売れ行き好調と判断され、更に発行されること)を目標に新人編集者が切磋琢磨する、笑いあり・涙あり・そこに仕事あり!といった青春お仕事ドラマだ。

割とベタめな構成で、ドラマの大半は努力が報われるシーンで作られているのだが「努力すれば報われる、わけではない」というシーンも多々ある。そりゃそうだ。このドラマの領域は「漫画」という特殊な世界で、そこには努力だけではどうにもならない領域がある。それは才能だともいえるし、運だともいえるし、タイミングとかかもしれないし、世界に対する素直さとかそういうものなのかもしれない。

だけどこのドラマを観ているとつくづく思うのだが、創造の世界に限らず努力が報われることや、描いた夢を手に入れることが、幸せと直結しているわけではない。

ドラマでは、漫画家になるという夢を早々に叶え「期待の新人」と呼ばれる人物と、10年間アシスタントをやってもデビューできず、夢半ばで別の世界で生きることを決めた人物の人生が交差するシーンがある。

叶えたり叶わなかったりした"瞬間"は、もちろん叶えた人の方が幸せに映るのだが、夢を叶えた青年は、叶えた後の「書き続けなければいけない苦しみ」との葛藤に苦しんだ。またドラマでは、ヒット漫画を作った過去を持ちながらも現在はアル中で自分の名前すらまともに書くことができない漫画家も登場する。

一方で、夢を諦めた人は喪失感を感じながらも「夢を追う自分」に執着していたことに気付き、手放した後の人生は割と肩の力が抜けたような"生きやすさ"が垣間見えた。

努力が報われるから幸せというわけではない。これは自分だけの人生を生きていたら気づけなかったことだ。

なるほど勉強になります!という姿勢

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気付きとともに学びがあるのがドラマの魅力Part2だ。「重版出来!」の中でも幾度となく感動したのは、主人公である黒澤心の仕事への姿勢だった。

黒沢心は、元々柔道でオリンピック出場を目指していたほどの実力者でありながら、怪我をきっかけに第二の人生として編集者を選び、日々邁進している。とにかく常に「情熱」「真剣」「熱意」「根性」といった感じで、雨にも風にも負けずひたすらガッツがあるのだが、壁にぶつかった時の素直さと切り替えの速さが羨ましいほど清々しいのである。

嫌味を言われたり邪険に扱われたりしても「なるほど、勉強になります!」と目をキラキラさせている彼女を見ると、自分が素直になれない瞬間を思い出し、「ああ成長したさよりもプライドが勝ってしまっていたな。いかんいかん」と猛反省できる。

わたしはフリーランスになってから、こういう「居心地が悪くなる感覚」を大事にするようになった。きちんと叱られる機会がないからだ。これは悲しんではいけないくらいに至極当然なことで、誰が会社の財産でもない外部の人間の成長に時間を割けるだろう、という話だ。

ともすれば定期的に居心地を悪くしていかなければ、どんどん独りよがりになって世間から浮いた存在になることは目に見えている。フリーランスは、浮かないように気をつけるどころか定期的に居場所をアップデートしていかなければいけないのに。

物語はつねに自分をアップデートしてくれるお守り

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「重版出来!」しかり、世の中には数え切れないほどの物語がある。時に恋愛ドラマやサスペンスに、仕事に繋がるメッセージが潜んでいることもある。何度も観ることで見えることもあるし、観るタイミングで感じることが違ったりもする。

大事なのは、そのときその瞬間に感じたことを自分のものにすることだ。なにかの感情を抱いたならば、そのシーンや台詞をそのまま自分がもらってしまえばいい。で、もらった言葉をこねくり回して、どうにか自分のアップデートに繋げていく。その作業は時としてとても苦しいけれど、基本的にはとても気持ちいい。

そういえば精神科医の方が書かれた本に「人間に対する想像力を養うにはサスペンスを観るといい」という一文があった。明らかに善良そうな人が犯人だったり、悪そうな人がいい人だったり、人間の裏表が絶妙な描写によって暴かれていくからだ。

そんなことを考えると、物語を作っている人って本当に凄い。そんな凄い人達の仕事にあやかって、わたしはこれからも成長していくのである。重版出来!はきっとこの先の人生を通して10回は観そうだ。

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