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菓子折り持って謝りに行きたい過去と未来

ごめんなさい

ふと、ヨさんのことを思い出した。
前クールに観たドラマの影響だろう。

韓国人のヨさん。
ドラマに出てくるようなイケカワ韓国男子ではない。
シュッともしてない。

日本語学校時代の生徒さんだ。

ヨさん。
すっごいいい子だった。
中国の文豪•魯迅ろじんの『故郷こきょう』に出てくる「ルントー」みたいだな、と当時思っていた。
残念なことに『故郷』の内容はフルスロットルで忘れてしまっている。
読書が血肉にならない人間なのだろう。

ヨさん。
飾り気もケレン味もない、少し田舎っぽさのあるいい青年だった。

事務スタッフだった私は、韓国や中国などから生徒さんが到着する度、新宿のバスターミナル(当時)までお迎えに行った。
そこから寮まで案内するのだが、みんな揃いも揃って大荷物で。

人が2人くらい入りそうなスーツケースを両手に引き、さらにいくつかの手荷物をその上に乗っけていた。
韓国の子たちは自家製のキムチまで持って来てて。
(のちに戴くことになるが、これが旨いのなんの)

必然とどれか持ってあげなくてはならず、そこから在来線に乗り、降りたらそれらの荷物を持って歩道橋を渡り、さらに細い坂道を登って寮まで行くのだ。
もっと近いところに寮を作れよ社長!
いや作った寮でもないし。
借り上げだし。
せめてバンとか用意してくれよ。
(のちにスタッフで抗議し、ミニバンをレンタルしてもらう)

社長!と言ったのは、うちの日本語学校はまだ学校法人化されておらず、株式会社だったからだ。

話を戻す。
ヨさんも私がお迎えに行った生徒さんの一人である。
ヨさんのあとにも、入学シーズン(年に2〜3回あったろうか)になるとたくさんの生徒さんが来日し、その都度お迎えが必要だったのだけど、ある時ヨさんが「ボクが行ってきます!」と言った。太い眉毛をあげてニッコリと。

いやいやいや。生徒さんに行かせるわけには……。

ヨさんは、自分が迎えに来てもらった時のことをとても恩義に思ってくれていたらしく、「今度はボクが!」と、何人かのクラスメートを引き連れて、バスターミナルまで迎えに行ってくれた。

そこからなんとなく、寮の先輩が新しく来た子たちを迎えに行く流れができた。

ヨさんはそういう青年だった。

時は流れ(すごい端折り方)、私は体力の限界で引退することとなった。
退職だ。
生徒さん達のお世話や関わりは、とても楽しかった。
日本語を教える以外のことは何でもやった。
我ながらよく働いた。
愛情を持って働いた。

で、退職の日、数名の学生さんが「さよなら会」を開いてくれた。
たぶんヨさんの呼びかけだったのだろうと思う。

食べて飲んで歌って「ありがとう」を言い合った。

帰る時、ヨさんが「送ります!」とタクシーを呼んでくれた。
1人でも全然帰れるのだが、ご好意に甘えた。

自宅(アパート)近くの公園のところで降ろしてもらう。
ヨさんはタクシーをそのまま待たせて自分も降りてきた。
そして、言った。

「韓国に帰って、シュショク就職が決まったら、ケッコンしてくれますか?」

ただただ驚いた。
が、即答してしまった。
「韓国には行けないよ……」

「そうですか……。わかりました」
ヨさんは軽くお辞儀をしてそのまま振り向かずタクシーに乗り込んだ。

ああ
あの時、私、「ふっ」と小さく笑ってしまった。嘲笑ではない。戸惑ったのだ。
自分はヨさんより6歳くらい年上で、今思うと30歳なんて全然若いのだが、その時は(こんなおばさんに……)と自分を嘲笑したのだ。
あとは大事な「生徒さん」からそんなこと言われてびっくりして、その時ヨさんがどれだけ勇気を振り絞ってそう言ってくれたか、深く慮れなかった。

ああ
「ありがとう」は言っただろうか。
自分の年齢だとか立場だとか、そんなことの前に、もっとヨさんの気持ちを大切に受け取れなかったか。
あんな純朴な青年だったのに。

ああ
菓子折り持って謝りに行きたい。
もし過去に戻れるのなら。

韓国のどこにいるだろう。ソウルではなかったと記憶している。
きっと幸せな家庭を築いて、良きパパになっているだろう。
美味しいキムチを家族に振舞っているだろう。

日本のお菓子は口に合うだろうか。


* * *

すみません

お母さま、すみません。
娘にはなにも教えておりませんで。

ええ、私が魚を捌けないものですから、娘は切り身しか見たこと食べたことがないんです。
だから魚の見分けはつきません。
なんならレタスとキャベツも間違えたりします。申し訳ありません。

取れたボタンを縫いつけたこともないです。裁縫などは学校に丸投げ家庭科の授業で習いますし、それで安心しておりました。

掃除?
そうですね、掃除機は正直使っているのを見たことはありませんが、おかげさまでアレルギーはありません。埃に強い子になりました、あはは。

ええ、大事な息子さんにとっていい嫁になれるかどうか……いやでも最近は女性が家事を、なんて時代でもありませんしね、あ、失礼しました。そうですよね。はい。そこら辺はまあ、若い2人で相談し合ってうまくやっていくのではないかと。ええ。

一人娘だからというわけではありませんが、放ったらかし伸び伸びと育てまして。健康で明るく、挨拶がきちんとできる子であればと。

はい、まっすぐで面白い子です。
ワードセンスなんかもいいんですよ?

子供?
ああ、わたくしどもの孫ですね?
独りっ子ですから私も少し心配しておりましたが、猫がですねぇ、あ、うちに猫がいるんですが、はい、娘が高校生になった頃に保護しまして。
まあ猫が来てからというもの、すっかりお姉ちゃんになりましてね。とても可愛がっておりました。
私たち夫婦も娘のこと「お姉ちゃん」なんて呼んだりして。独りっ子なのに笑笑!

やさしい息子さんだと常々娘から伺っております。
ほんとすみません。息子さんがとても甘やかしてやさしくしてくれているようで。

なにぶん至らない娘ではありますが、ええ、すみません。どうかよろしくお願いいたします。

お母さまこれ、つまらない物ですが……。

なんのお菓子ですか


方向性を見失っています。 
これはエッセイでしょうか?
娘はまだ学生です。
具体的な結婚の話はありません。
恋人はいるようです。

そして
謝りたい気持ちは本当です。
菓子折り持って……

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