見出し画像

Proxy Fight ~委任状を争奪せよ~


①プロキシーファイトとは

株主総会で、重要事項の承認を得るために、経営陣と、それに反対する株主が、一般株主の委任状(プロキシー)を取り合うこと
「委任状闘争」「委任状争奪戦」ともいいます。
取締役選任や定款の変更、合併などを巡り、争われることがあります。

委任状とは?
株主は代理人をたてて、議決権を行使する事ができます。そして、その代理権を行使する際には、それを証明する書面を会社に提出することとなっています(法310条1項)。
この「代理権を行使することを証明する書面」が委任状です。
つまり、総会当日に出席できない株主のために、代理人を通じた参加機会を保障すると共に、その権利に対応する義務が規程されているわけです。
なお、株主によっては、経営に対する興味関心度が低いことも想定されます。そのような株主からの包括的な白紙委任が無いよう、代理権の行使は、株主総会ごとに行われなければならないとされています(法310条2項)。
これにより、経営陣による歪な会社支配を防ぐことになります。


②プロキシーファイトの目的

株主がプロキシーファイトを実施する目的は、株主総会で自らの株主提案を可決させることです。実施する株主は、経営陣に不満を持っている場合が多く、経営陣の交代や経営方針の変更、増配や自社株買いなどを求めているでしょう。株主主導の経営へ移行することを目的とし、プロキシーファイトを仕掛けます。


③プロキシーファイトのメリット

・経営陣が株主の利益を優先するようになる
・経営陣や経営方針の変更により、企業価値の向上を見込める


④プロキシーファイトのデメリット

・プロキシーファイトに勝つために多大な労力や費用がかかる
・経営陣の交代や経営方針の変更により事業の拡大が停滞するリスクがある


⑤株価への影響

はじめに結論からいうと、プロキシー・ファイトが勃発すると、上場企業の株価は上昇する傾向があります。株価が上昇する背景には、投資家の心理が関係しています。
プロキシー・ファイトに勝つためには、委任状(議決権行使書面)の獲得にくわえて、株式の買い集めもひとつの有効策です。
なぜなら株式を多く保有すれば、株主総会での権限が強くなるためです。そこで一般の投資家は、プロキシー・ファイトが始まると両者(株主と会社側)が株式の買い集めをしていると推測します。ここで株式が多く買われると、あわせて株価も上昇することになります。
今のうちに株式を多く購入すれば大きなキャピタルゲインを獲得できると考える投資家は、プロキシー・ファイトの当事会社の株を買います。


⑥プロキシーファイトの事例

1.東京スタイルによる事例

国内企業による初の本格的なプロキシーファイトが発生した事例を紹介します。このプロキシーファイトは、東京スタイルと村上ファンドとの間で発生しました。2002年に当事筆頭株主であった村上ファンドは、株式配当の大幅な増額を求めて株主提案を実施しました。

マンガ生涯投資家 第四話「ワンマン社長との対決」

この株主提案に東京スタイルが反対したことで、プロキシーファイトに発展したのです。このプロキシーファイトは結果的に東京スタイルが勝利したことで、村上ファンドは株価配当額の引き上げに失敗しています。


2.大塚家具の親子対立の事例

大塚家具の親子対立は、経営者交代に際してプロキシーファイトが発生した事例です。2015年に創業者である勝久氏と、長女で社長の久美子氏が経営方針を巡って対立したことがきっかけで勃発しました。

父と長女の親子対立

大塚家具によるプロキシー・ファイトは、「お家騒動」として多くのメディアで報道された事例です。職人気質の父と頭脳派の娘との間で経営スタンスに争いが発生して、両者の間で経営陣の交代劇が繰り広げられました。
この争いのなか娘が社長に就任したことで、2015年に前経営陣である父親は娘の退任を求めて株主に委任状を交付しました。各種メディアで大注目された大塚家具のプロキシー・ファイトは、父親の敗北に終わって娘の社長続行が決定しました。

ちなみに当時の株価は以下の通り

大塚家具(8186)日足チャート

2月27日以降は、3月27日の株主総会へ向けた委任状争奪戦(プロキシーファイト)への思惑で株価が上昇したと思われますが、2月26日の上昇は増配を好感しての株価上昇と思われます。 更には、赤字経営にも関わらず娘社長の会社側は大幅な増配を発表した。一株40円から80円に引き上げるこの配当利回りでの妙味に市場が注目して、第三者が同社を買収しようとしても割高と映ってしまい、M&A実行に移せない可能性が高い。この増配は買収防衛の役割を果たしたわけである。


⑦三ッ星事件

株式会社三ツ星(東証1部5820)
老舗の電線メーカーもまた、プロキシーファイトを仕掛けられた当事企業である。

三ツ星の株式をアダージキャピタルと複数の株主が共同行為により買い増しし、三ツ星がその買収防衛策として新株予約権無償割当ての差止めの許可抗告の申し立てた事件です。
結果は、最高裁において三ツ星の許可抗告が棄却されてしまいます。
そのため、三ツ星は独立委員会の設置後、対抗措置を発動し、アダージキャピタルと一部の株主を非適格者として認定。これに合わせて裁判所に、先の新株予約権無償割当ての差止めの仮処分に対して異議申し立てをしました。その後、最高裁で本件新株予約権無償割当てについて仮処分命令の申立てを認める決定が下され、株主の意思確認総会でも新株予約権無償割当ての決議が実施、多数の可決によりアダージキャピタルの保有株式は減少しました。

非適合者による三ツ星株取得動向

2022年9月 企業側より本件に関する適時開示が出された。
最高裁判所による司法判断は尊重されなければならないという原則に立ち戻り、会社側とアダージキャピタルとの間で協議が重ねられ、ダージキャピタルが提案する取締役候補を下記理由にて受け入れる形へ。
 1.知見を活かした当社事業への取組み
 2.中期経営計画における成長戦略の柱の一つである海外事業の拡大展開の推進への期待
 3.現業務執行取締役の執行役員としての当社事業への継続関与により既存事業の更なる展開を継続することが可能と判断

当時の取締役は本臨時株主総会における当該取締役候補の選任時をもって全員辞任する形で決着しました。

これまでの経緯を加味した上で、需給状態を見てみると、
大量保有報告を回避した信用買建てで株を取得し、2022年3月末の議決権確定の基準日にかけてまとめて一斉に現引きした、即ちこれを機関の空売りを呼び水とし踏み上げを起こしたのでは?と推察する。
また、この急騰に注目が集まり個人投資家の信用買建てが増加した影響で、騒動以前の保有者の利確と重なり、上値を追う勢いが減少。
飛びつきイナゴの損切りも重なり下降トレンドへ転換した。
2023年3月に制度信用の期日決済と共に、株主が入れ替り再び急騰。
その後、レンジの中で株価は推移し次のトリガーを伺っているように見える。

IR_BANK 需給グラフ

最新の大株主情報を見る限り、アダージ側の保有も総計で10%以上を継続
あらっ、よく見たら女神様のお名前も(*''ω''*)

5820_三ツ星 大株主情報(2023.09)

2023年3月の急騰を境に現在までのチャートを見ても相場はまだ継続しているのでは?
需給を更に締める何かが今後期待できるのか?
話題性を帯びているのは間違いないと考えています。
今後の動向に注目していきたいと思います。


⑧結び

近年、日本において、対象会社の経営陣や取締役会の同意を得ずに行われるM&Aの件数が 増加。この背景には、政策保有株式の減少や、資本効率性への関心が高まったことがあるという 指摘もある。
2017年以降の主な「同意なき買収」では、ファンドに限らず、事業会社が買収提案を行った事案 も一定数含まれている。交渉の結果、経営陣が同意に転じた事例も存在しているのも事実としてある。

近年の「同意なき買収」の事例

また近時、買収防衛策の導入・発動及びその差止めを巡る司法判断が相次いでいる。これまでの判例から、裁判所 は株主の意思確認を重視する傾向にあることが指摘される。

買収防衛策を巡る司法判断が下された近年の事例

前項で取り上げた三ッ星は2022年4月より市場区分が再編され東証二部から東証スタンダード市場となった上場企業だ。
成長性に乏しく、株価が割安なまま放置されている上場企業は、スタンダード市場にゴロゴロしている。これから第2・第3の三ッ星が登場することになるかもしれない。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?